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7.話すべき? 黙っているべき?

2016.3.16 一部表現を微修正

2016.04.17 一部改稿

2019.02.18 一部修正

 スワニーとラベルが部屋を出て行き、扉が閉まると、エアは大きく息をついた。

(嘘ついちゃった……)

 いつの間にか、てのひらにうっすら汗をかいていた。鼓動も嫌な感じに速く鳴っている。

 なんとか切り抜けたけれど、ラベルたちを裏切っているような、後ろめたく落ち着かない気分だ。

 残った神使たちにうながされて服地選びに戻ったが、先ほどのやりとりのことばかり考えてしまい、ちっとも集中できない。

 飛空船の青年の顔を思い出して、腹立たしくなる。

(もうっ、なんでわたしがこんな思いをしなきゃいけないのよ)

マイアに会いたいなら、素直に面会を願い出ていればよかったのだ。それを、あちこち忍びこんで探すなどというあやしげなまねをするから、こういうややこしいことになる。

 彼らが庭を歩き回っていることも、すっかりばれているではないか。これでは、彼らがマイアへの面会を願い出ても、許可を得るのはだいぶ難しいかもしれない。

手に取った水色の絹を意味もなくなでながら、エアは眉間にしわをよせた。

(先代マイアの約束のこと、もっと詳しく聞きたいんだけどな……)

 少し様子をみて、もし飛空船の青年たちとの面会が叶いそうになかったら、ラベルに本当のことを話して、青年たちからはなしを聞き出す機会を作ってもらえるように頼むしかないかもしれない。

 青年と出くわしたことを黙っていたと知られたら、きっとこっぴどく叱られるだろうが、そこは謝りたおして許してもらうしかないだろう。

(うぅ、考えただけで気が重くなる……)

 それにラベルのことだから、エアが本当のことを言っていないと、すでに勘づいているかもしれない。先ほど、最後にエアを見やったときも、妙に含みのある目つきをしていたような気がする。遅かれ早かれ、この件で一度は叱られることになりそうだ。

 ひとつ深いため息をつく。

「……あの、マイア?」

「え?」

 顔を上げると、神使の女性が困ったようにこちらを見ている。

「あの、その水色の布がお気に障りましたでしょうか……?」

 いつの間にか、手にしていた水色の絹をぐしゃぐしゃに丸めこんでいた。

「ご、ごめん、そうじゃないよ。ちょっと別のことを考えてて……」

 笑顔をつくってごまかしながら、布を広げてしわをのばす。

「お疲れかもしれませんが、もう少しおつきあいいただけますか?」

「う、うん、わかってる。夜会用と昼用の布を選ばないとね。ええと……」

そのとき。開け放していた窓の外から、ひときわ強い風が吹きこんできた。

 部屋の中に広がっていた色とりどりの布が、巻き上げられて大きくふくらむ。

「きゃあっ!」

「早く、布をおさえて!」

舞い上がる布を、神使たちが慌ててつかまえにかかる。

 エアは窓にかけよった。急いで閉めようとするが、大きな窓は突風の勢いに押されてなかなか閉まらない。

 エアがもたついている間に、広がっていた布のうち、見本として巻き芯から切り離されていた数枚が、風にさらわれて窓から勢いよく飛んでいく。

 神使たちが悲鳴を上げる。

「あーっ、大変!」

「申し訳ありません、マイア。急いで取ってきますので! マイアはこちらで続けていてください」

 神使たちが部屋から飛び出していく。

 一人部屋に残されたエアは、いったんは言われたとおり服地の山に向き直ったが、

(……ちょっと休憩)

 手にした布を放り出した。

 窓辺にもたれて、ため息をつく。

 飛空船の青年との一件やラベルたちとのやりとりとは別に、今一つ衣装の新調に夢中になれないものを感じていた。

 色とりどりの布が散らかった部屋をながめる。

 張り切っているスワニーたちには悪いのだが、

(ちょっとやりすぎだよねえ……)

 華やかな衣装を新調してもらうことが嬉しくないわけではない。けれど、さすがに贅沢すぎるような気がして、どうにも気が引けてしまう。

(マイアがこれほどまでの権威をまとう必要ってあるのかな……?)

 そんなふうに感じるのは、もしかしたらエアに、五歳まで暮らした地上での生活の記憶がわずかながらあるせいかもしれない。慣例どおり、赤ん坊のうちに《女神の庭》に保護されていたら、こんな違和感は感じなかったのだろうか。

 それとも、未だマイアの証をあらわせずにいることに、引け目があるせいだろうか。

 歴代のマイアたち――例えば、先代のマイア・ルドゥーテは、マイアのこうしたあり方に疑問を感じたりしたことはなかったのだろうか。

 と、突然目の前に、ぬっと金髪の頭があらわれた。

「わあっ!」

 エアは叫んで飛びのいた。

 窓ガラスのむこう側に、あの飛空船の青年の顔があった。

「あ、あなた……!」

 この部屋は二階だ。もしや、外壁をよじ上ってきたのか。

 目をむくエアに、青年は先日の晩と同じ人を食った笑みを見せ、「やっ」と片手を上げる。

「この前はどうも──……うぉっ」

 青年の姿が窓の下に消える。

(えっ、ちょ、ちょっと……!)

次回更新3/20予定

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