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信号無視の男

作者: 灯宮義流
掲載日:2007/12/08



 その男は急いでいました。

だから信号など待っていられなかったのです。

彼は信号が青になるのも待たず走りました。

幸いにも、車には轢かれませんでした。

しかし、信号を渡った直後、彼の腹に突然穴が空きました。

彼は通り魔に刺されてしまったのです。


 それから五ヵ月後のこと。

男はまた急いでいました。

もう信号無視することは、怖くて出来ませんでした。

でも他の人間はさも当たり前に赤信号を悠々と渡っていました。

自分だけ交通規則を守っているのが馬鹿馬鹿しくなってしまった彼は、それに駆られて赤信号を渡りました。

彼も、二度と同じ失敗は踏むはずがないと思って、赤信号を渡りました。

幸いにも、車には轢かれませんでした。

今度は通り魔にも襲われませんでした。

しかし、渡った先にあったビルから、老朽化した巨大な看板が男目掛けて落ちてきました。

全身を骨折しながらもなんとか命は助かりましたが、彼は片足をなくしてしまいました。


 それから五年後のこと。

男は懲りずに急いでいました。

相変わらず周りの人間は何食わぬ顔で信号を無視していました。

腹が立った男は、今度こそそんなドジを踏むものかと、また赤信号を渡りました。

自分だけ渡れないなんて、不公平な世の中で生きていくのが、彼は嫌だったので渡りました。

三度目の正直なんてハッタリだ、と考えて彼は何の迷いも無く渡りました。

幸いにも、車には轢かれませんでした。

今度は通り魔にも襲われませんでした。

渡った先には、看板などそもそも存在していなかったので落ちてきませんでした。

しかし、渡った直後、空からヘリコプターが墜落してきました。

爆風で吹き飛ばされた男は、五年間も意識不明になってしまいましたが、奇跡的に一命を取り留めました。

ちなみにパイロットは無事でした。


 それからニ十年後のこと。

男は飽きもせずに急いでいました。

十年経っても二十年経っても、信号を渡る人間は全く変わっていませんでした。

男の意識も全く変わっていませんでした。

もはや信号無視は彼の生き甲斐となっていました。

この日のために、自分は今まで生きてきた、と彼は常々豪語していました。

絶対に信号無視を成功させてみせると、彼はこの信号無視に命を賭けていました。

信号が赤になりました、彼は信号を無視して渡りました。

彼は車に轢かれてしまいました。

車はトラックだったため、もう助からないと言われるほど全身物凄い怪我をしましたが、彼はまた奇跡的に復活しました。


 それから三十年後のこと。

男はいつも通り急いでいました。

まるで日本の伝統のように、人々は平然と信号無視をしていましたる

そんな人間達を尻目に、男はガクガクと脚を震わせながらあの信号へやってきました。

家族達も後ろで真剣に見守っています。

もう彼を止められるものは何もありません、全ては彼を信号無視させるために動いていました。

家族達は、それぞれ男と抱擁しあい、男の夢の達成を願いました。

そして、ついにその時間はやってきました。

男は赤信号を無視して、一歩一歩ゆっくりと渡りました。

幸いにも、車には轢かれませんでした。

今度は通り魔にも襲われませんでした。

渡った先には、看板などそもそも存在していなかったので落ちてきませんでした。

空からヘリコプターが墜落してくるという珍事も、二度目は起きませんでした。

男は赤信号を渡りきりました、彼を阻むものは何もありませんでした。

ついに男は、家族達の前で念願の夢を叶えました。


「やったぞ、信号無視を、ついにしてやったぞーーー!」


 しかし、その瞬間、男は心臓麻痺を起こしてその場で死んでしまいました。



 それから、何故か日本では誰も信号無視をしなくなりました。


ショートショートの広場を読んで感銘をうけ、衝動的に書いた作品。今まで投稿した中では一番油がのっていて「安定」した作品だとは思います。SSとしては初めての作品。


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― 新着の感想 ―
[一言] 深い。 もはやなぜ無視したいのかって哲学的問題と化してる。。。
2012/01/16 21:09 退会済み
管理
[一言] ほとんどの人間が一度はやるだろう信号無視。 まさかそれをするというネタでひとつの作品を作るだなんてびっくりです。
[一言] この男はどんだけ生命力があるんだ・・?
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