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地図を買うために

魔王見習いカレンと旅を始めて3日ほどが経過した。

始めは会話も弾まずギクシャクしていたが、3日も寝起きを共にしたら嫌でも話せるようになった。

今のところ旅はこの上なく順調だ。

モンスターも盗賊も今のところ一度も出会っていないしな…

まあ…たとえ出会ってしまったとしてもカレンが返り討ちにしてくれるだろうから安心だ。

俺は物陰にでも隠れて安全を確保させてもらう。

魔王見習い様様だね。


このように、モンスターに襲われたり物を取られたりするという心配は今のところない。

ただ…それ以外に俺を困らせているもの、それはこのカレン自身である。


カレンのモラルは俺たち人間とは少し違う。

具体的に何が違うかというと…

カレンは裸になる事に何の抵抗も持っていないのである。だから俺の前でも暑い時は平気で裸になる。

こちらとしてはありがとうございますなのだが、こんなことが旅の間ずっと続くと考えると俺の理性がもたない。

カレンの芸術的とも言えるほどの美しい肉体美をまじかで見ていたら俺もムスコもおかしくなりそうだ。

今はなるべく見ないように意識しているが、いずれカレンにも直していただかないとな。

間違いが起きてからでは遅いし…いや、相手は魔王の娘だぞ。間違いなんて起こしたらこっちが殺されるだろ。

そう考えると俺とムスコに自然と自制心が働いた。


「なあなあディル、エルフの国ってどんな感じだと思う。やっぱりみんな耳が長くて長身なのかしらね」


「さあどうだろうな、俺はエルフという存在を絵本でしか見たことないからな。本の通りなら、超絶美男美女がほとんどだったけど…それならありがたいけどどうなんだろうな」


俺の中で、エルフのいる未知の国についての妄想が広がる。

本当にエルフ全員が美人だとしたら、俺は果たして理性を保てるのだろうか?

いや待て、全員美人だとしたら…俺のことを好きになる奴が一人でもいれば俺の勝ちじゃないか!?

だとしたら一人くらいは口説き落としたいところだが…それは可能なのか?


「着いたぞディル…小さな街だがここに泊まるとしよう。今日は三日ぶりにベットの上で寝れるぞ」


俺がくだらない妄想をしているうちに街に着いたようだ。

ここのところ野宿で土の上で寝ていたからな…これは嬉しい。


「そうだな、じゃあ早速宿をとって泊まるとしよう」


俺とカレンは嬉しさのあまり駆け足で今日の宿へと急いだ。



〜〜〜〜〜〜〜〜


ひとまず宿をとった俺たちは街の中を散策しながら歩いていた。

それは『地図』を買うためである。

地図はカレンが一つ持っているがあれは世界地図でありこの辺りの詳しい道については載っておらず、この三日間苦労を強いられたためよりこの辺りの地形が詳しく書かれた地図を探していたのだ。


「地図って…どこに売ってるのかしらね。そもそも地図っていくらするのよ…これくらいの金で足りるかしら」


そんなとぼけたことを言って、カレンは大袋の中から縦横10センチほどの金塊を取り出した。

俺はその様子を見てため息を吐いた。

このお嬢様は世の中を知らなすぎて困るな…


「地図くらい余裕で買えるよ…ていうかそれだけあれば地図を置いてる店ごと買えるだろうけど」


「え!? これっぽっちでそんな価値あんの?」


「そうだよ…それに金塊じゃ物を買えないから。まずは質屋に行ってかけらくらいの大きさの金をお金と交換すれば地図も買えるし今日の宿代も十分払えるよ」


そう俺が言うと、カレンは少し困った顔をしてこちらを見てきた。

何だろう…なにか気に障ったのかな?


「これより小さい金塊なんてないわよ…」


「…じゃあどうすんだよ、こんなデカイ金塊質屋の全財産超えてるぞ絶対」


これはかなりまずいことになったな…宿はもうとっちゃったから最悪でもその代金ぐらいはなんとかしないと。

さてどうするかな…


「わかったわ…危ないから下がってなさい」


カレンは金塊を一つ地面に置いて右手の裾を捲った。

コイツ…何する気だ?

嫌な予感しかしないんだが…


「なあカリン…まさかとは思うけど…その金塊を砕くつもりじゃないよな」


「当然でしょ…小さいの作るなら砕くしかないじゃない」


こいつ正気か…純金の強度は鉄とかの比じゃないんだぞ。


「待てカレン…そんなことしたらお前の拳が…」


「大丈夫大丈夫、私を誰だと思ってるのよ。魔王の娘よわかる!? あんたは黙って指咥えてみてなさい」


いやいや待て待てこんな街中でそんなおもいっきり地面を殴っちゃまずい。こいつは曲がりなりにも魔王の実の娘なんだぞ。


「待てカレン!! ここじゃ場所が悪いから移動しよう」


「ええなんでよ…私は別に問題は」


「いいから移動するぞ来い!!」


俺はカレンの食い気味にそう言って彼女の手を引いて街の外へと連れ出したのだった。



〜〜〜〜〜〜〜〜


俺はカレンを町外れの茂みまで連れてきて言った。


「はあはあよしっいいぞ…ガツーンといったれ」


ここまで全力疾走したのでまだ息の整わない。


「なんか知らないけど…もう好きにやっちゃっていいのね」


カレンは地面に置いた金塊に狙いを定めてフーッと息を吐く。


殴って金塊を砕けるわけない…わけないんだがどうしてだろうな。

こいつならいともたやすく砕いてしまいそうだ。


「いくわよディル見てなさい…私の有志」


こいつはいちいちセリフが臭いな。

父親が魔王だからか?


カレンは自分の拳を金塊にぶつける。

その瞬間…ガツーンといった金属と金属がぶつかるような音がしたと同時に金塊と接する土からベコっと凹む。

土煙りが上がりカレンの手元を肉眼では確認できない。


次の瞬間である…バキンッと何かの砕ける音が聞こえた。

肉眼では確認できないが、おそらくカレンの拳が砕けた音だろう。

そう思った俺は応急手当てをしようとカレンの元に駆け寄る。

仕方ない…少ないけど俺の用意した金で宿代は払える、地図はまた今度だな。


「大丈夫かカレン…手当てしてやるから手出せよ」


俺はカレンの手を持って手当てしようとするが、どういうことか傷など一つもない。


「あれ? でもさっきバキンッて…」


「うふふふふ…あはははははは〜!!」


「…ッ!?」


何だこいつ…ついにいかれちまったのか?

まあ元から変な奴だったからそこまで不思議ではないが…


そう思っていると、カレンは意外なことを言った。


「あははなーんだ…金って意外と柔らかいじゃん」


「…は? お前何言って………」


何言ってんだよとそう言おうとした俺の目に、無残にも砕け散った金塊の姿が映った。


「えええええええええうそおおおお!?」


こんなことがあっていいのだろうか!?

いくら魔王の娘だからといって金塊を砕けるものなのだろうか!?


「よし…これで質屋でお金と交換できるなディル」


「……………は、はは…そうだな」


俺…こいつと一緒にいて生きていける気がしねえわ。

そのうち俺この人に殺されるかも………


これが、俺がカレンに対して初めて恐怖した瞬間だった。


これは後からカレンから聞いた話だが、あの時カレンは本気を出していなかったのだという。

その話を聞いてさらに戦慄したのは言うまでもない。









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