出発
あれから約束の3日が経った。
毒消し薬、回復薬、食料、金、旅に必要になるであろう物をあらかた揃え、俺は再びカレンのいるこの城にやってきた。
「やあ3日ぶりだな。もしかしてこないんじゃないかと心配していたところだぞ」
城の前では既に身支度を済ませたカレンが俺の到着を待っていた。
カレンの隣にはパンパンに膨らんだ袋が置いてある。
その袋はカレンの身長のほぼ3倍ほどの大きさである。
なんだろうアレは、着替えでも入ってるのかな…いやでもそれにしては多すぎる気がするが………。
「多少強引だったけど約束は約束だからね。俺はダメ野郎だけどそれくらいは守るさ…それより、君の隣にあるその袋はなんだい? 随分たくさん入っているみたいだけど」
俺は袋を持ち上げようと手をかけるが、袋は微動だにしない。
なんだよこれ、200いや300キロはあるぞ!?
この重さは衣類や食料の重さじゃないぞ。
「ん…ああそれは城の地下にある倉庫から金目の物をあらかた持ってきたのよ。金塊に宝石に装飾品、コレをお金に変えて旅すれば…まあ3年くらいはお金の心配はいらないわね」
これが全部…金塊と宝石と装飾品!?
だとすれば3年と言わず一生遊んで暮らせるのでは?
これは俺たちの旅をするにあたっての全財産だ。
盗まれでもしたら大変だ…気をつけないと。
「旅の最初の目的地はどこなんだ? まさかノープランで旅するわけではないだろーし。君の父さんが入る可能性のあるエルフの国にでも行くのかい?」
「まあそうね、当面の目的地はそこよ。でもエルフ領まではかなりの距離があるから…」
カレンは袋から薄汚れた古めかしい紙を取り出して、俺の目の前で広げて見せた。
「んーと…ここが今私たちがいる地点でエルフ領がここ。直線距離で2万キロといったところかしら」
「2万キロ!? ………それは…遠いな」
「ええかなり遠い…だから外の世界に入る前にその手前の『リヤック』という街で食料とか諸々をちょうたつするわ。当分の目的地はここね」
カレンの持つ地図に目を向ける。
カレンは指である地点を指差し、そこには『リヤック』としるされていた。
リヤックの地点はこことエルフ領のちょうど中間地点に位置していた。
ということはリヤックまでは約1万キロってところかな?
「これまた…遠いな……」
1万キロとは簡単に言うが、これはかなりの距離だ。
しかもカレンの用意した金銀財宝の重量は300キロ近い。
これを持って1万キロ移動するのはかなりの重労働だ。
「遠い近いと議論していても移動する距離は変わらない。しのごの言わずにさっさと出発するぞ」
「いやいや出発するって言ったってその荷物はどうするのさ、二人で半分ずつにするのかい?」
半分ずつ持ったとしても重量は100キロ以上、運ぶのは簡単ではない。
まあ一人で300キロ持つよりはだいぶマシだが…
「んん? なんか言ったかしら?」
そう言って、カレンは300キロ近くあろう荷物を片手で軽々と持ち上げ背中に背負った。
カレンは別にガチムチの筋肉マンではない。むしろ見た目で言えば細身の方である。
「…ウソ…だろ………!?」
流石というべきか、やはり魔王の娘である。とんでもない怪力だ。
「だから…何がよ?」
「いや…何でもないです」
「あらそう…じゃあ出発するわね。今回の旅はきっと楽しいわよ」
彼女は俺の手を引いて一歩ずつ歩み始めた。
俺はその笑顔に勇気をもらい、大きな声で一言返事をした。
「ああ…楽しみだ」
不安や恐怖は少なからずあるが、それを包み込むかのようなワクワク感と好奇心…
こんな感覚は、俺の今までの人生で味めてのものだ。
なんとも説し難いこのもどかしさを、俺はこの先忘れることはないだろう。