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召喚魔王様がんばる  作者: 雑草弁士
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第5話 獣の掟

 ここは現在建設中の新生魔王軍本部基地の、演習場の隣にある空き地。ここには今、即席の巨大なプールが設置されていた。そしてそのプールには巨大な浄化装置が取り付けられ、それは轟々と響きを上げて稼働していた。ちなみに動力源は大型のゴーレムである。

 プールに満たされているのはただの水ではなく、特殊な薬液である。プールの傍らでは、ゼロと同タイプの魔法式人工知能搭載型である生きた鎧が何体も歩き回り、プールに満たされた薬液の濃度などをチェックしたり調節したりしていた。

 私はその様子を眺めつつ、プールの中に沈められている巨大な生き物……魔竜将オルトラムゥに念話を送る。


『調子はどうかね?体調は?』

『魔王様か。おかげ様で、上々とはいかんものの、そこそこ快調だ。しかし、四六時中この臭いクソ不味い薬液に浸かっていなければならんのは閉口するな。魔法で治療すれば、手っ取り早かったろうに。』

『魔法での治療は手っ取り早いが、あれ程の重傷だと後々後遺症が残りかねん。少々時間はかかるが、この治療法ならば完全に元通りにできる。

 まあ、怪我させた私が言う事じゃないかも知れんがね。』


 その時、大空に巨大な物がはばたく音が響いた。私は顔を上げる。上空では魔竜たちが、4体1組になっての編隊飛行の訓練をしていた。別の方向に眼を向けると、そちらでは別の魔竜の編隊が、低空進入からの地上掃射訓練を行っている。練度はまだまだだが、基本はできている様だ。


「たしか人類には、竜騎士なぞと言った航空戦力も、一部の国には少数ながら存在するんだったな。空対空、地対空の訓練もさせておくべきだな。」

「あっ!まおうさま!おい、おまえら!まおうさまに、ささげー、つつ!」

「「「「「は、はいっ!」」」」」

「うむ、楽にしていい。訓練に戻れ。」

「「「「「「はいっ!」」」」」」


 今私に捧げ銃の敬礼をして来たのは、演習場で射撃訓練を行っていた犬妖(コボルド)である。私は彼らに答礼をして、訓練に戻らせた。そう、彼らに行わせていたのは、射撃訓練である。比較的最近の話ではあるが、私は実用型の銃の開発に成功したのだ。

 まあ、元の世界で使われていたライフル銃のコピー品でしかないのだが、器用で従順な犬妖に装備させてみたところ、驚くべき適正を見せた。なまじ力自慢ではあるが不器用な大犬妖(ノール)豚鬼(オーク)よりも、銃士としての犬妖の方が戦力になるぐらいだった。ちなみにそのライフル銃は、拳銃、銃弾と共に既に量産ラインを確立している。生産ラインの動力になっているのは、これも大型ゴーレムである。

 ……ゴーレム、便利すぎる。蒸気機関か、さもなくば内燃機関を開発するまでは、工業製品の大量生産は不可能だと思っていたのだが。他にも鉱山労働にも従事させているし。おかげで鉱山から犯罪奴隷以外の奴隷を解放することができた。解放奴隷たちは、魔道軍団の魔法使いのうちで教員の適性がある者に教えさせ、読み書き計算などの最低限の教育を施した上で他の仕事に充当している。


「ゴーレム、ほんと便利だよね。一度創れば、周囲の大気や大地の魔力を吸収して動き続けるし。この世界でゴーレムって、戦いなんかにしか使ってなかったんだよな?なんてもったいない……。」

「ゴーレムをこんなにポコポコ生み出すのは、せめて僕ぐらいの魔力が無ければ無理ですよ。と言うか、僕だったらゴーレム創るより別のことに魔力使います。こんなに魔力無駄遣いできるのは、魔王様ぐらいですよ。必然的に、ゴーレムは希少品……のハズだったんです。」

「ああ、ザウエル。もう休憩時間は終わりか。今戻るよ。」


 いつの間にかやって来ていた大魔導師ザウエルが、こめかみを揉みながら言う。まあ、いつの間にかとは言うが、一応最初から気付いてはいたんだが。


「余裕ができたら、支配地域内の農村にも、ゴーレムを配備しようか。土地の開墾や耕作に役立つだろう。ほんとはゴーレムよりも、トラクターやコンバインみたいな専門の機械の方がいいんだろうが。……農村と言えば、連作障害の緩和のために、輪作を奨励しないと。あと化成肥料と農薬を量産して……。」

「将来の計画もいいですけれど、とりあえず手近な問題をどうにかしないといけませんよ。」

「ああ。魔獣軍団の件だね。一応考えてはあるんだ。まず探し出さなければならない者がいる……。」


 ザウエルと話しながら、私は本部基地の本部棟へと戻って行った。




 数日後、私は親衛隊長の勇者アオイと共に、バルゾラ大陸南方にある、氷に閉ざされた地域へやって来ていた。ちなみにバルゾラ大陸の最南端には、この世界の南極点が存在する。今私たちがいる場所も、元の世界……地球の南極大陸の端ぐらいの気候である。


「あまり夜間外出したことは無かったけれど、この世界には月が3つもあるんだな。」

「特になんの捻りもなく、大の月、中の月、小の月って呼ばれてる。」

「世界自体にも特に名前があるわけじゃなしに、単に世界って言われてるからなあ。だから、そんなもんだろう。」


 他愛のない話をしながら、私たちは夜の氷原を進む。私の格好はいつも通りの黒い長衣だが、アオイはモコモコになるほどに着ぶくれており、徹底した防寒装備だ。ちなみに私の眼は赤外線も見えるし、そうでなくともスターライトスコープ以上に夜目が利くので本来灯りは必要ない。だがアオイはさすがにそういうわけには行かないので、彼女のために額の生体レーザー発生器官のレーザー波長と出力を調整して、そこから通常光を発して周囲を照らしている。

 やがて前方に、氷原がひび割れて隆起した断層が現れる。左右数kmにもわたる巨大な氷の壁が、私たちの前に立ちはだかっていた。その氷の壁面に、深い洞穴がぽっかりと口を開けている。そこが今回の私たちの目標地点であった。

 私たちは、おもむろにその氷の洞穴に歩み入る。すると洞穴の奥からは、濃密な殺気が滲み出してきた。野太い声が響く。


「……何者だ。」

「元魔獣将ガウルグルク。久しぶり。」

「な!!ゆ、勇者!!そうか、わしにとどめを刺しに来たのか?」


 私の額から発せられる光の中に、脚が六本もある獅子の胴体を下半身に持ち、筋骨隆々とした人の上半身に獅子の頭部を持った、異様な姿が浮かび上がる。だが本来は威風堂々としていたであろうその姿は、くたびれて疲れ切った様子を醸し出している。

 見ると、その胸板には剣で斬りつけられたと思しき深い傷跡が走り、右腕も一度骨折したのが変にくっついたのか、ねじ曲がっていた。下半身になっている獅子の胴体にも、幾条もの傷跡があり、その脚の何本かを引きずっている。更には顔面も、右目が潰れていた。

 アオイは溜息をついた。


「……ふう。ガウルグルク、今の貴方を殺しても意味無いわ。」

「……そう、だな。たしかにこの敗残の身を……。魔獣将の座を追われて群れからも追い出されたこの身を殺したところで、貴様に得があるとは思えん。ならば勇者よ、いまさらここに何をしに来た?」

「その前に……。今、わたしが仕えている方を紹介させてもらう。この方が当代の新たな魔王様、ブレイド=ジョーカー陛下。」

「!?」


 元魔獣将ガウルグルクは驚愕の表情を浮かべる。ここで私は話に割って入った。


「ただいま紹介に預かった、新たな魔王ブレイド=ジョーカーだ。単刀直入に言おう。ガウルグルク、私に仕えて欲しい。」

「え、あ、何だ、って!?ま、魔王様が討たれたとは、話に聞いていたが!?新たな魔王様!?しかも勇者が仕えている、と!?」

「ええ、そう。私は私を召喚した国と元仲間に裏切られて、死にかけたところを魔王様に助けてもらった。その恩義と、国や元仲間に対する復讐のために、魔王様に仕えている。」


 アオイの言葉に、ガウルグルクはただ1つ残った目を白黒させる。私はしばし待った。ガウルグルクは大きく深呼吸すると、ようやく落ち着いてこちらをしっかりと見つめる。彼はゆっくりと言葉を発した。


「仕えよとの仰せ、たいへんありがたく思います。ですが私めは見ての通りのありさまにございます。そこにいる勇者アオイ=カンナに敗北いたした時の傷がもとで力を失い、群れ……魔獣軍団内での権威失墜および指導者争いに敗北し、魔獣軍団を追われた身でございますれば……。

 今はこのような辺境にて、細々と小動物を狩って生きているざまです。とうてい魔王様のお役に立てるような者ではございませぬ……。」

「……私は魔獣軍団を新生魔王軍の麾下に収めようと考えたとき、今の魔獣軍団の長、現魔獣将バウガウドについても調べてみた。……駄目だった。使い物にならん。力だけの馬鹿など、豚鬼や人食い鬼(オーガ)だけで充分だよ。」


 私は吐き捨てるように言った。正直、本音だった。魔物には、話ができるくせに話が通じない者が多すぎる。私は話を続けた。


「その点君は力だけでなく、戦術や戦略を理解する頭もある。私たち新生魔王軍が全面的に後援しよう。どうか私に仕え、魔獣将に復帰してくれないかね?」

「ですが今の私では、どう足掻こうとバウガウドには勝てませぬ。後援をいただけると仰いましたが、魔獣軍団は……。

 魔獣と言う物は、知恵はありますが獣である側面もまた多大に持っておるのです。助太刀を得てバウガウドを倒せたところで、1対1の勝負でなければ……。1対1で勝てるほどの強者でなくば、群れを率いる指導者として認められはしないのです。」


 苦悩するように言うガウルグルクだったが、私はほくそ笑みつつ言う。いや、生体装甲板に覆われた顔で、笑みは浮かべられないから無表情に言ってるのと同じなのだが。


「何、後援と言ったところで、助太刀みたいな直接的な物だけではないよ?大船に乗ったつもりで、私たちに任せてくれないかな?」

「は?い、いったい何を?」

「大丈夫。魔王様なら悪いようにしないから。」


 アオイの保証に訝しげな顔をするガウルグルクだったが、その後の話を聞いて最終的には私たちの申し出に頷くことになった。




 さらに数日の後、私とアオイ、それにガウルグルクは、魔像兵団の一部である数10体のゴーレムや生きた鎧を率い、バルゾラ大陸中央部に存在する草原にやって来た。この草原は、旧魔王軍勢力で今現在残っている内で最大に近い物、魔獣軍団の領域である。私たちが魔獣軍団の縄張りに、姿や気配も隠さずに堂々と侵入すると、縄張りの見張りに就いていた獣人(ライカンスロープ)タイプの魔獣が慌てふためき、報告のためにだろうか走り去っていくのが見えた。


「……今現在の魔獣将バウガウドは、やってくるかな?」

「おそらくは。奴は力を誇示することで魔獣軍団を支配しております。ここで尻込みすれば、奴の権威に傷が付きましょう。」

「あ、来た。」


 アオイの言葉通り、1000体を超える数の魔獣が草原の彼方から、こちらへ向かい疾走して来た。鳥型や蝙蝠型の魔獣など、空を飛んでいる物もそこそこ多くいる。どうやらこの辺の部族全てが集まって来たらしい。


「大仰だな。大人気じゃないかね、ガウルグルク。」

「はて?自分直轄の部族だけを率いてくるかと思っておったのですが……。」

「そう言えば、ザウエルの魔道軍団からの報告では、魔獣軍団内でバウガウドに対する不満が出ているらしい、と言う話だったな。力のある指導者ではあるのだが、頭が無さすぎる、と。特に頭が良い魔獣や、古株の思慮深い魔獣などから。」

「納得。ここで一発自分の格好良いとこ見せて、点数を稼ごうってつもりね。」


 言っている間に、魔獣の群れは私たちの軍勢から50mほどの距離に陣取る。そして群れの中央から、一際巨躯を誇るいかにもな魔獣が歩み出て来た。下半身は八本脚の獅子、上半身は屈強のプロレスラーもかくやと言う強壮な人間の物、そして頭は獅子の顔をしている。見た目から、ガウルグルクと同族か、あるいは近い種族だろうと予想がつく。その身には煌びやかな板金鎧を纏い、手には槍を持っていた。その魔獣は、雷鳴の様な声で叫ぶ。


「余の領域を侵すものは誰ぞ!」

「ふむ、君が魔獣将バウガウドか。私は魔王ブレイド=ジョーカーだよ。」

「何!貴様が魔王を僭称しておる輩か!その称号は、余の物だぞ!戴冠の準備も今整えておるところなのだ!

 ……よかろう、余が魔王となる前祝いだ!今ここで貴様を討ち果たして余の戴冠に花を添えてやろう!ものども、かかれ!」


 今まさに魔獣軍団が襲い掛かろうとしたその瞬間、私は『威圧』の魔術を行使した。少し細工して、バウガウドだけは『威圧』の効果から外してやったが。魔獣軍団は本能的な恐怖にかられ、その動きを止めた。

 バウガウドの怒声が響く。


「何をしておる!あやつらを叩き潰すのだ!かかれ!かかれと言うに!」

「無駄だよ。彼らは私に勝てないと、心の底からわかっているのさ。」

「何を!?ええい、不甲斐ない屑どもが!かかれ!かからんか!馬鹿者どもめが!

 くっ、もう良いわ!余がじきじきに貴様を殺してやろう!」


 バウガウドは槍を構え、こちらへ疾走して来た。私は連れてきたゴーレムや生きた鎧に、動かない様に思念で命じた。今回の戦いの主役は、私たちでは無い。そしてその主役が、突っ込んでくるバウガウドの前に立ちはだかった。


 ギャリッ!


 鈍い金属音が響き、バウガウドの槍が受け止められた。無論その槍を受け止めたのは、今回の主役であるガウルグルクである。


「貴様!ガウルグルク!……!?何故だ!傷が癒えているだと!?」


 そう、ガウルグルクの身体は完全に癒えていた。後遺症のかけらも残っていない。下半身は六本の脚を持つ獅子の胴体。上半身は筋骨隆々たる人間の物。そして獅子の顔には、潰れていたはずの右眼が爛々と輝いていた。


「おう、そうともよ!魔王様の持つ技術で、我が傷は既にかけらも残さず癒えたわ!今のわしは、以前貴様に倒されたときとはわけが違うぞ!

 魔獣将バウガウド!このわしガウルグルクが魔獣将の座をかけて、決闘を申し込む!」

「ぬかせ、老いぼれ!」


 バウガウドの槍がガウルグルクを突く。だがガウルグルクは自らの着ている鎧の一番装甲の厚い肩部分でその突きを受ける。ガウルグルクの着ている板金鎧は、バウガウドの煌びやかな物とは違い、質実剛健と言った風情の物だった。そしてその手にあるのはこれも質実剛健たる斧槍(ハルバード)

 ガウルグルクの斧槍が振るわれ、バウガウドはそれを受け損ねる。煌びやかな板金鎧の一部が弾け飛び、宝石が宙を舞った。


「おのれ!老いぼれの分際で!」

「ふっ……。」


 ガウルグルクは小さく笑うと姿勢を低くし、斧槍を地面すれすれに薙ぎ払う。バウガウドは高々と跳躍してそれを躱した。バウガウドは跳躍の勢いのままに槍をガウルグルクに突き立てんとする。


「馬鹿な老いぼれめ!貴様もこれで終わりだ!」

「……。」


 ガウルグルクは落ち着きはらって斧槍から左手を放し、その左手で腰から抜き放った短剣を投げる。それはバウガウドの顔を狙っていた。泡を食ったバウガウドは攻撃しようとしていた槍を引き戻して短剣を打ち払う。その間にガウルグルクは斧槍を構え直し、石突を地面に置いて斧槍を垂直に立てた。

 そしてその斧槍の穂先に、バウガウドの下半身である獅子の胴体が落ちてくる。


 ザグッ!


 バウガウドは、獅子の胴体部分を抉られて叫ぶ。


「グアアァァッ!?き、貴様っ!!貴様キサマきさまッ!!」

「終わりだ、バウガウド。」


 ザン!


 閃光の様に振るわれたガウルグルクの斧槍が、バウガウドの右腕を二の腕から断ち切る。噴水の様に、血が噴き出した。その手を離れた槍が、宙を舞う。


「ぎゃああぁぁ!!余の、俺の、腕が、腕がっ!!」

「……これまでだ、バウガウド。しきたり通りにとどめは刺さん。何処へなりと落ち延びるがいい。」

「ぐぐ……。お、おのれ!覚えていろよ!貴様らいつか……。いつか必ず食い殺してやるっ……。」


 バウガウドは血の滴る右腕の切断面を必死で押さえ、わき目も振らずその場を逃亡する。ガウルグルクは斧槍を高々と天に掲げて雄叫びを上げた。


「ウオオオォォォン!!」

「あ……。」

「え……。」

「お、オオオォォォン!!」

「「「「「「オオオォォォン!!」」」」」」


 ややあって、周りにいた魔獣たちからも雄叫びが上がる。ガウルグルクが魔獣将に、魔獣軍団の長に返り咲いた瞬間であった。私とアオイは、ガウルグルクにゆっくりと歩み寄る。


「ご苦労、怪我はないかね。」

「魔王様からいただいた、この鎧と武器のおかげをもちまして……。鎧は奴の一撃を軽々と防ぎ、斧槍は奴の鎧をまるで土くれの様に打ち壊しました。」

「まあ、それが無くとも技量の差から勝利は動かなかったと思うが、ね。」

「は、ありがとうございます。ですがここまで楽勝では無かったでしょう。」


 ガウルグルクは周囲の魔獣たちに向かい、声を張り上げる。


「魔獣どもよ!我が家族たちよ!これより我が魔獣軍団は、魔王様の麾下に馳せ参じ、新生魔王軍の一翼を担う!魔王様は我ら魔獣たちの繁栄を約束してくださった!魔王陛下に忠誠を!」

「「「「「「おおおおお!忠誠を!忠誠を!忠誠を!!」」」」」」


 周囲の魔獣たちも、絶叫を返す。私は思わず苦笑する。いや何度も言うが、戦闘形態の顔は笑みを浮かべることはできないのだが。


「ノリがいいやつらだ……。さて、まずは魔獣たちの訓練スケジュールを考えなくちゃな。できるだけ知能が高い者を指揮官に据えて……と。」

「けっこう大変そう。」

「確かに。」


 と、ここでザウエルから念話が届いた。


『魔王様、バウガウドの方は始末がつきました。』

『……ご苦労さん。まあ、魔獣たちのしきたりに従うならば、ガウルグルクに殺させるわけにもいかなかったからね。でもああ言った、プライドばかり高くて執念深そうなやつを放置しておくのも、後々問題になりそうだし。』

『ですね。まあ、怪我による失血でふらついたところを、高い崖から落っこちただけですんで、事故ですよ事故。まあ、落ちる前に何故か心臓が止まってたかもしれませんが。』

『うん。ではこれから帰る。君も撤収してくれ。』

『了解です。』


 そう、バウガウドはもうこの世にはいない。アオイやガウルグルクとも相談した上で決めたことだった。魔獣たちのしきたりで、指導者を決める戦いでは相手にとどめを刺さないことが決まりになっている。そこで事が終わった後に暗殺、という手段を取ったのだ。

 私は意味深に、ガウルグルクへ頷いて見せる。ガウルグルクの方も、意味深に頷きを返して来た。


「さて、本部基地へ帰還するぞ。ガウルグルクは魔獣将復帰をここに来ていない全部族に周知し、軍を編成してから本部基地に連れて来てくれ。

 ああ、コンザウ大陸侵攻軍の魔獣たちには、魔獣軍団が私の指揮下に入ったことを忘れずに伝えてくれよ?今のところ、あいつら私の命令を全然聞こうともしないんだ。」

「委細承知。長距離念話が使える者に命じ、コンザウ大陸侵攻軍には即座に通達いたしますれば。」

「頼んだ。では先に帰る。アオイ、行こう。」

「うん。」


 私は転移魔法で新生魔王軍本部基地に帰るため、アオイ及び連れてきたゴーレムや生きた鎧を全て含めて、その周囲に転移用巨大魔法陣を展開する。ふと見遣ると、ガウルグルクは斧槍を掲げ、私に向かい敬礼をしていた。私とアオイはおもむろに向き直り、答礼を返す。そして私は『ロングレンジ・テレポート』の魔法を発動、今度こそ帰途についた。




 その後、コンザウ大陸侵攻軍は私の命に従い占領地を放棄、アーカル大陸侵攻軍と合流すべく船に乗るなり飛行能力を持つ魔物に乗るなりして、コンザウ大陸を後にした。中には私の命を聞かずに現地に残った種族などもいた様だが、ぶっちゃけた話そういう者まで面倒は見きれない。というか、こちらに叛意を露わにしているのだから、面倒を見る必要も無い。まあ魔獣たちは生き残っている者たち全員が指示に従ったという事なので、だいたいの目的は達せられた。


「さて、次は内政だな。とりあえずアーカル大陸の防衛線をしっかり守って、その背後の占領地はちょっと休養させて復興させないとね。そうしないと策源地に使えない。減税や免税もしないと……。略奪や虐殺は御法度だと周知徹底しないとなあ。と言うか先代魔王何考えてたんだって話だよね。占領地を痩せさせたら旨味は抜けるだけじゃないか。

 バルゾラ大陸も農業改革とか農地開墾とか色々やって、食糧増産して後方基地として上手く回さないと。あー、海軍を整備して、沿岸警備やアーカル大陸との兵站線維持もしっかりしないと。」


 私は机上に広げられた世界地図を見遣る。東にある最大の大陸であるコンザウ大陸の奥に描かれている、『リューム・ナアド神聖国』の文字が目に入った。


「……急がないと、な。下手をすれば、この国はまた勇者を召喚しかねないし。」


 アオイの様な被害者を出すのは、できれば避けたい事態だった。

 今回は、ちょっとだけ黒いところも出してみました。まあ世界制覇を狙う悪の秘密結社のメンバーだったんですし、黒くない方が変と言えば変ですし。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんでも5作目。 演者以外の制作陣がグダグダで、行き当たりばったりな展開とかオン〇ゥル語を出しちゃう始末だったらしい。 後半は滑舌とか改善されたけど、平成歴代の中じゃ人気は低めらしい。20作…
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