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飼えなくなった、、、つまり、飽きたりした犬を殺しちゃうなんて、、、
あまりにも残酷すぎる。
「この子、殺されちゃう予定だったの」
くるみがやっと言葉を絞り出した。
すももは泣きそうな、泣くのを必死でこらえているような顔をして、犬をギュッと抱きしめている。
犬は一寸苦しいんじゃないかと思うのだが、そうでもないのか、ぱたぱたと嬉しそうに尻尾を振っている。
「いまさら返すわけにもいかないし、仕方ないわね」
「うん。それに、お姉ちゃんの言ってた、えいえんののっぱらってマンガの犬も雑種だったしね」
「そう言えばそうだったね」
しんみりした空気が漂い、会話が途切れた。
その時、ママがそんな空気を吹き飛ばすような明るい声で、
「はい。ミルクあったまったわよ」
と言いながらキッチンから出てきた。
ミルクの入った深皿を、犬に一番近かったすももが受け取って犬の前に置くと、犬は勢いよくミルクを飲みだす。
「なまえはやっぱりGONなの?」
家族全員で、一所懸命にミルクを飲む様子を眺めなていたら、すももがふと顔を上げて、くるみの方に顔を向けて言う。
「もちろん」
くるみがニコニコと即答する。
「ごん?」
「えいえんののっぱらってマンガの主人公が飼ってる犬がごんって名前なんだって」
パパが不思議そうに聞き返したのを聞いてすももが答えた。
「いいじゃない。良い話なんだから」
「ふーん。パパも読んでみようかな」
「えっ。パパがマンガ読むの」
驚いてくるみが言った。
パパは普段は、何やら難しそうな本しか読まないのだ。
「最近は読まなくなったけど、昔は結構好きで読んでたんだぞ」
「へー」
「パパってお堅い本しか読まないのかと思ってた」
くるみが意外そうな顔をすると、すももまで不思議そうな顔をした。
「そんなわけないだろ。そうだ、ママ。明日はとりあえず動物病院に、健康診断を受けに連れていってくれないか」
「健康診断ですか?」
「うん。念のためにね」
「わかりました」
「よし、じゃあ名前も決まった事だし、GON。とりあえず風呂に入るか」
パパはそう言って、GONのリードを握った。
「あ、わたしが入れる」
すかさずくるみが言うと、リードを奪ってお風呂場の方へとかけていくのをすももも追っ駆ける。
やがて風呂場からはにぎやかな声が聞こえてきた。
翌朝、くるみとすももは、二人で寂心山という大きなクスノキの生えている公園までGONの散歩に行った。
「おなかすいたねー」
寂心山の木の下のベンチに座ったくるみが木を見上げながら言った。そよそよと風が通り過ぎて行き、GONは木の周りを走り回っている。
「うん。でも、ご飯は散歩の後だってパパが言ってたよ」
「それは犬の事でしょ。人間まで後回しにしなくてもいいじゃない。それよりさ、GONのヤツすももの方にばっかり行ってない?」
くるみはきつい視線をGONの方へ向けた。
「うーん。お姉ちゃん昨日怒ってたから、あれを覚えてて怖がってるとか、、、」
「そういえばあんたはミルクまでやってたわね。私がやってたらもっとなついたのかなー」
くるみがジト目ですももを見たあと、再びGONの方を見ると、視線に気付いたのか、一目散にこちらへとかけてきた。
「あれは私がGONの近くにいたから……」
GONはすももの足元に行儀よく座り、すももを見上げて尻尾を振っている。
「なんか面白くないなー」
「大丈夫だよ。まだGONも慣れてないだけだよ。ね」
そう言ってすももは、GONをなぜながらフォローする。