つづき
翌日、パパが帰ってくると、居間にくるみとすももが呼ばれた。
居間には得意そうなパパとは対照的に、ママは困ったような顔をしている。
「なあに、パパ」
くるみが聞くと、
「一寸来なさい」
パパはニコニコしながら玄関の方へと歩いて行く、と、玄関では、ワンッ!と嬉しそうに鳴き声を上げて尻尾をパタパタと振る黒い犬がいた。
でも、どう見ても黒ラブ、つまり黒いラブラドールリトレバーには見えない。
黒に近い灰色がかった、なんだかじーさんみたいな風貌の犬がチョコンと座っていた。
まぁこの犬はこの犬で、可愛いと言えば可愛いのだが、すでに結構育っていて、どう見ても成犬である。
「どうしたの、この子」
くるみが戸惑いをカップ一杯に、失望感を大匙二杯足したような顔をして聞いた。
「どうしたのって……、見ての通り犬だよ。黒い犬が良いって言ってただろ、だからもらって来たんだ」
パパの顔は、得意そうな顔はそのままだが、一寸あれって感じが加わっている。
どうやら娘たちに手放しで喜んでもらえると思っていたらしく、娘たちの反応は予想外のようだった。
「私、黒ラブがいいって言ったよね」
「だから、黒い犬にLOVEなんだろ?」
怒るくるみに戸惑うパパ。
ママは、やっぱりこうなったのね。と、ため息を付いていて、すももはというと、やって来た犬に興味を持ったようで、じっと見つめていた。
で、肝心の犬は、周りの雰囲気に一寸おびえているのか、玄関の隅で、さっきまで勢いよく振っていたしっぽをだらんと下げて縮こまっていた。
「黒ラブと言ったら、黒いラブラドールレトリバーの事に決まっているじゃない」
「ラブラド……?」
「ら・ぶ・ら・どーる・れ・と・り・ばー」
パパは助けを求めてキョロキョロと視線を動かす。
ママやすもももの方を向く視線に、すももはため息をついた。
お姉ちゃんが怒りだすと、ママではどうしようもないのだ。
「うーん。。。確かに黒ラブと言えばラブラドールレトリバーの事だけど、知らない物は仕方無いよ、お姉ちゃん」
「だって普通間違える」
くるみは怒りの視線をすももに向けた。
「お姉ちゃんも昨日はっきり言わなかったしね」
「今日、パパが帰ってきたら、日曜に見に行こうって言おうと思ってたのよ。まさか、昨日の今日で犬を連れて帰ってくるなんて思わないじゃない」
くるみがちらっと犬の方へ視線を向けると、犬は玄関の隅で体を縮める。
「あらあら、くるみちゃんが怒るからワンちゃん怯えてるじゃないの、…おなか減ってないかしらね」
ママはそう言うとキッチンの方へと引っ込んだ。
「ほら、こわくないよー。大丈夫だからね」
すももは手のひらを上にして犬の方へと手を差し出し首を撫ぜてやった。
「すももって外じゃおとなしいくせに、こういう時は口が立つわよね」
「パパ、昨日の今日でタイミング良く犬をくれる人が見つけたんだね。前からそういう話があったの?」
すももは犬をなぜながらパパの方を見た。
「ん?違うよ。人からもらったんじゃなくて、シェルターからもらって来たんだよ」
一寸得意そうにパパがそんな事を言った。
「シェルター?」
うん。飼えなくなったぺットは、基本的に保健所で殺されちゃうんだけど、それはかわいそうだって人たちが集まって、そういう犬たちを集めて保護しているシェルターって施設があるんだよ」
パパの話を聞いて、くるみとすももはショックを受けて黙り込んでしまった。