私の願いは
だけど、違う。会長の眼は綺麗な黒だ。こんな、血のような赤色じゃない。
「会長の藤野 仁だよ。ここでは、ね。
僕の本当の名前はウェルジーン。
れっきとした───悪魔だよ」
「あくま?」
「そう、悪魔」
それはあまりにも日常とかけ離れた言葉で、だけど、微笑んで立っている会長をみていると不思議と心にストン、と落ちてきた。なるほど、会長は悪魔、なのか。
「日和、僕は悪魔だ。そこで、だ。僕と契約しない?君の願いをなんでも叶えてあげるよ。もちろん、代償は払って貰うけどね」
会長が目線を合わせてそう言った。
「本当に、なんでも叶えてくれますか?」
なにも考えずに、気づいたときには言葉が口からこぼれていた。
「もちろん。だって、悪魔だからね?」
私の知っている悪魔は、言葉たくみに人を騙して魂を奪う。
それでも、一瞬の夢だとしても、願いが叶うなら・・・
どうなってもいい
「決まったみたいだね。さあ日和。君の願いは何?」
私の願いは
「私を…愛して…」
もう、一人は嫌だ
揺るぎない、居場所が、温もりが・・・愛が、欲しい
お願い、私の側にいて
私を一人にしないで
私を、愛して
会長は少し瞠目したが、すぐ嬉しそうに緩んだ。
「分かった、その願い、叶えよう。その代償に───」
会長が私の手を取って立たせる。突然、床がぽぅ、と淡い金色に輝きだした。それに驚いて、会長がなんと言ったか聞き取れなかった。
「え?会長なん…」
床に浮かび上がったいわゆる魔方陣というのものの光が、湧き出すように吹き出て徐々に強さをまし眼を開けていられなくなった。
すると、ぐっと抱き寄せられ、さっきとは違い顔を胸に押し付けられて視界を遮られた。
「この光はあんまり見ないほうがいい」
会長の心臓の音が聞こえる。
悪魔でも心臓はあるんだなぁ、なんてことを思っていると、次第に意識が遠のいていくのがわかった。
ふわりと包み込む会長の手が優しくて、安心して。
それが泣きたくなるくらい嬉しくて。
沈む意識の奥で、本当に何年かぶりに涙が流れるのが分かった。
ウェルジーンはすっかり自分に身をまかせ意識を失った日和の頬を伝う涙目を優しく拭うと、額にそっと口づけた。
「契約成立だ。絶対に離さない…」
二人の姿は巨大化した光に呑み込まれた。