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頑張ろうって、思える

重い重い足を動かしてようやく学校についた。


靴箱を前に少し立ちすくむ。今日は一体なにをされるのだろうか。

でもいつまでもそうしているわけにはいかない。

覚悟を決めてゆっくりと靴箱を開く。珍しくなにもない。ほっとしつつもすこし違和感を感じていると、いきなり凍るような冷たい衝撃が頭にぶつかる。


「ごめ〜ん、手が滑っちゃってぇ」

「きゃははは、寒そー」

「そんなに笑ったらカワイソーだよお」


耳に響くような甲高い笑い声は毎朝のことで、それが誰なのかなんて後ろを見なくてもわかるようになってしまった。


やっぱり、今日もされてしまった。でも、ただそれだけだ。どうってことないって思えば、どうってことないんだから。


毎日毎日、よく思いつくなー、なんてどこか他人事のように思いながら髪から垂れる雫がポタポタと床におちるのをぼんやりと眺めていた。


「ほんと、泣きもしないし、つまんないやつ」


そう吐き捨てるように言われたが、きっと泣いても何も変わらない。だったら泣くだけ無駄だ。


「だって、ねぇ?あの木城きしろ 日和ひよりだもん」

「泣かない、笑わない、しゃべらない。『人形』なんて言われるだけあるわ」

「てゆーかさぁ、人が話してるのに顔あげないとか感じ悪ーい」

「どんな教育受けてきたんですかーってね」


またきゃはははと笑われたので袖で水滴を拭いながら少しだけ顔を上げる。


「は?なに睨んでんの?」


低いトーンでそう言われて、しまったと思ったがもう遅い。

睨んだつもりはないけど、あっちからしてみればそういうふうに見えるかもしれないってことくらい、少し考えればわかったはずなのに。


「調子のってんじゃねーよ!」


どう言い訳しようかと考える間もなく、

よく手入れされている細くて綺麗な手が私の髪を鷲掴みする。

あー叩かれるなー痛いだろうなー、なんて人ごとのように呑気なことを思いながら振り上げられた手を目で追った。


だけど…


パシッ


その手が私の頬を打つことはなかった。


「なにしてんの」


振り上げられた手を掴んでいるのは、生徒会長の藤野ふじの じん

接点なんか全くないのに、いつも私をさりげなく助けてくれる。まるでお伽話の中の王子様みたいな顔の、いや、顔だけじゃない、性格まで王子様みたいな優しい人。


「これ…は」

「その…えと、ねぇ?」


彼女たちもイケメンには弱いらしい。めったに見れない会長の登場に顔を赤くしている。会長はごにょごにょと口ごもる彼女たちに冷たい視線を送るとずぶ濡れの私を見て困ったように眉をひそめた。


「木城、怪我してない?…あー、ごめんハンカチしかない」


気遣わしげにハンカチを差し出してくる会長の後ろで、彼女たちが可愛い顔を恐ろしく歪めてこちらを睨みつけていた。

そんな状況で素直に受け取れるわけがなく、ハンカチを押し返す。


「いえ、持っているので大丈夫です。ありがとうございます。

…ただの、喧嘩ですから。お騒がせしてすみませんでした」


こんな時でも、ニコリと愛想笑いの一つもできなくてもどかしい。


「…そっか。ほどほどにね」


それでも会長は嫌な顔一つせずにハンカチを仕舞った。


本当に、優しい人だ。押し付けようとしない。どうしたんだ!?と無理やり問い詰めることもないし、私のこんな無愛想な態度に怒ったりもしない。



「会長ー!書類がありませーん!」

遠くから会長を呼ぶ声が聞こえる。


「すぐ行く!…ほら、もうすぐ授業始まるよ。皆、教室にいって」


会長はソロソロと様子をうかがっていた野次馬たちもまとめて片付けて、私の方をみてこっそり『またね』と口を動かし去って行った。


きっと、他の人から…主に彼女たちから見えないようにしてくれたんだろう。彼女たちに見られたら、私が余計になにかされるのは目に見えてるから。


会長のそんな優しさが嬉しくて、


「…がんばろ」


自然と顔が緩むのが自分でもわかった。



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