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藤田徹 -困惑-
「お客様!」
僕は出せるばかりの声を張り上げて、先ほどの女性客を呼び止める。目の前を行き交う人々が、ギョッとして僕の方を振り向いた。緑茶を忘れたドジな女の子は既に数十メートル先を歩いていて、彼女も呼び声に気付いて小走りしている僕の方を見た。すると、どうした訳だろうか。彼女は突然、走り始めたのである。あまりに急な出来事に僕は驚きを隠せなかった。いったい、何が起こっているというのだろうか。なぜ、彼女は逃げはじめたのだろうか。そんなに、小走りする僕が気持ち悪かったのだろうか。確かに、僕はブサイクだ。こんな顔だからこそ今まで彼女いない歴を更新し続けてきたのである。緑茶の忘れ物を届けてあげるために追いかけているというのに、なぜ逃げられているのだろう。その理由がわからず、だからこそここで引いてはいけないような思いに駆られる。日本の、いや、世界のブサイク代表として、なんとしても彼女に追いついてみせる。どういう訳か僕はそんなプライドの元、走るペースを上げていったのである。こうして、不可解な追走劇が幕を開けた。