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西村あずさ -発端-

 店を出ると冷たい風が吹き付けて私は身を震わせた。さっきまで暖かいコンビニの中に居たせいか、十二月の凍えるような風をさらに際立たせる。早く暖房の効いた研究室に行こう。そう思って足早に駅を目指していると、背後でお客様と呼び止める声が聞こえた。振り返ると、あの藤田という名札を下げていたコンビニの店員が私を追いかけていた。え、何、どうして、と唐突な焦りを覚え、私はふとピンクの手提げ鞄に押し込めた飲むヨーグルトのことを思い出す。これ、今捕まったら万引きと間違えられるんじゃないだろうか。ひょっとして、さっきレジで会計を済ませている時にこの鞄の中が彼から見えていたんじゃないだろうか。そして、万引きだと勘違いされた。いやいや、冗談じゃない。そのような事実は無いのだ。彼に「これは家の冷蔵庫から持ってきた飲むヨーグルトです、だから万引きなんてしてません」と正直に言おうか。いや、そんなこと言っても信用して貰えるだろうか。何より、証拠がないじゃないか。そうなんだ、こうやって冤罪というものは始まるんだ。そう思うと唐突に恐怖が込み上げてくる。今まで普通な子として育ってきたのに、大学生にもなって万引きをしただなんてレッテルを貼られたら溜まったもんじゃない。逃げなきゃ。コンビニ店員を認識してから、ここまでわずか零コンマ数秒だった。とっさにそのように判断した私は、全速力で駅へ向かって走りだす。定期券を通して改札口を抜けてしまえば、あの店員も安々とは追って来れまい。いや、でももしかしたら駅員に報告され、電車を待つまでの間に捕まってしまうかもしれない。どうしよう。どうしよう、どうしよう。私の頭の中は完全にパニックに陥っていた。おそらく米騒動で夏の高校野球が中止になった時ぐらいの大混乱が私の脳内で繰り広げられていた。とにかく逃げなければ、私の人生はお先真っ暗、牢獄暮らしまっしぐらだ。そんな思いが、私を走らせた。こうして奇妙な逃走劇は始まったのである。

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