『五芒星の使い道』
「ねえねえ?『五芒星』としてなんかやらなくていいの~?」
「そうだな~。なんか『五芒星』らしいことやりたいよな~」
「とは言っても、『五芒星』らしさってなんなのよ?」
「……『五芒星』だから、星、とか?」
「あんまり五芒星五芒星言わないでくださいよ!なんかすごい恥ずかしいじゃないですかあ!!名前自体ほとんど存在価値がないと言うのにぃぃぃ!!」
あの惨劇から数日、特に何事もなく過ぎていく日々の中、唐突にリューが『五芒星』のことを思いだし、それに因んだ何かをやろうとか言い出し始めた。
理由はおおよそ把握出来る。リンをまた弄って遊ぶためだろう。それを察した俺達はその話に乗ることにした。ついこの間リンに怒られたというのにも関わらず。
喉元過ぎれば熱さを忘れるとは正にこの事だと思った。
「いやいやリンちゃん。これは逆にこの『五芒星』に意味を持たせるための企画なんだよ。この名前、つまり『五芒星』をこの世に広く知らしめるためのアイディアなんだよ」
「だから連呼するのはやめてください!なんだか黒歴史をえぐられているような感覚になるので!!」
真っ赤になった顔を両手で覆い隠すリンにリューは追い打ちを仕掛ける。
「だ~いじょ~ぶっ。か、格好良いから~。ぷふふっ、い、いけるいける!自信持っていこうよ、くっ、くくくっ!」
「そんな笑いながら言われても全く説得力ないですぅ~!!」
リンは涙目になりながら部屋──神空から出ていった。
「あっ、おもちゃ──じゃなくてリーダーがどっか行っちゃった」
「今お前完全におもちゃ、って言い切っただろ」
なはは~、と笑って誤魔化すリュー。
とは言え、確かにせっかくリンがわざわざ考えた名前なのだし、どこかで使ってみたい気はする。
それは皆同じ気持ちだったようで、名付け親は不在だが、これからの『五芒星』について話し合いを開始した。
「やっぱり当初の予定通りヒーローになるべきじゃない?悪と戦うとか」
「ええ~。それもう昔にやったじゃん。妖怪とか悪霊とか相手にさ~。今はあんまそんなこと起きないから意味ないと思うな。それより、アイドルになるべきじゃない?ほら?さっきトラちゃんが言ってたじゃん。星、つまりスターになるってことで。あっ、もちろんタケシは除外で。アイドルグループに男入れるとか論外だし」
「なんでだよ!!『五芒星』としてやっていこう、って話なのになんでいきなり俺を省くんだよ!数字合わなくなるじゃねえか!」
「……プロデューサー、とか?」
「俺一人だけ裏方で働けと!?一人ずつプロデュースしていけと!?それなんてギャルゲ!?」
どこのアイドル達のマスターですか!?
「気持ち悪いこと言わないでくれる?あんたなんかにプロデュースされるくらいならゼロからストリートライブした方が百万倍マシだわ」
「そこまで言わなくてよくないっ!?」
これでも俺は何人ものアイドルをプロデュースしてきた実績があるんだぞ?もちろん二次元でだけど……。
「……男、いれても不自然じゃないの、ミュージシャン」
「それだっ!!」
トラの案に俺はすぐさま飛び付いた。なんとしてでもぼっちにはなりたくない一心だった。
「なるほど。バンドを組むわけだね。ありきたり感は否めないけど、悪くはないね」
「でもあたし達の中で楽器できるのっているの?」
しばし沈黙……。
「……太鼓、なら、達神レベル」
「ぼく、口笛なら超上手いよ」
「タンバリンならなんとか……」
再びの沈黙。
そしてこの案は当然のことながら却下されることになりました。
~
「ん~。もうなにも思い付かないな~」
あのあとも、色々と案は出しあったのだが、どうにもしっくりくるものがなく、全員が項垂れていた。
そもそも俺達に出来ることがあるならこんなところで毎日ごろごろ暇潰しをするような暇神になんかなっていないだろう。
それこそ治安維持や魔除け、妖怪退治くらいなものしかできないのだ。なんという偏った能力なのだろうかと自分でも思う。
結局、何一つまとまることなくこの話はお蔵入りとなった。やはり『五芒星』が日の光を浴びることは当分なさそうである。