『リアルファイトは突然に』
「あいむ、うぃなー!」
「「「認められるかっ!!」」」
リューが卓袱台の上に乗りVサインを高々と掲げていたが、それに全員が異議を申し立てた。
「えぇ~?だって画面にはぼくの勝ちって出てるじゃん」
「………違う。りゅー、ズルした……!」
先程邪魔をされたトラが怒りをあらわにリューを睨み付ける。しかしリューは、そんなトラをどこ吹く風と受け流す。
「『リアルに干渉するのは禁止』なんてルールは決めてなかったじゃ~ん」
「屁理屈言ってるんじゃないの!こんなのルール以前に常識の範囲の話でしょ。最低限のマナーでしょ!」
「ごめんね。ぼく、常識外れの神なんだ。だって伝説上の生物だしぃ~」
何かと言えばすぐ伝説上の生物、と言い出すリューに腹を立てたスズメは、すっと立ち上がりテレビの前に立つと、勢いよく手刀を降り下ろし、テレビを真っ二つにした。
「なにやってんだスズメッ!?乱心したかっ!?」
「ふんっ!これであんたが勝った、っていう証拠は消えたわ」
「む、無茶苦茶だよスズメちゃん!」
「あんたにだけは言われたくないわ!」
まさに一触即発という状況で、スズメ、リュー、トラが怒りのオーラを漂わせていたころ、タケシは少し、いやかなりドン引きしていた。
正直なところ、武器が弓だった時点でほとんど諦めていたので、彼女達ほど本気になっていなかったのだった。というか、どれだけリーダーになりたいんだこいつら………。
「はっ。こうなったら仕方無いわね。力付くであんたをぶちのめしてやるわ!」
「ぷぷぷ~。スズメちゃんがぼくに勝てるの~?大人しく朝方ぐらいにチュンチュンしてたらいいんじゃない?」
「………龍、食い殺す、虎の役目……っ!」
「うわわわわっ!!やめやめ!リアルファイトなんざしたら──」
俺の必死の制止の言葉も届かず、三人は己の魂、神器の名を喚ぶ。
「現れよ『朱雀刀』!!」
「カモン『青龍槍』!!」
「……おいで『白虎砲』!」
「あぁもう!くそったれ!来やがれ『玄武甲』!!」
スズメは二本の太刀を。
リューは一本の長槍を。
トラは両腕に小型のキャノン砲を。
タケシは左腕に盾を顕現させ、今まさに神々の大乱闘が始ま──ろうとしたところで、タケシの意識は何者かに唐突に刈り取られた。
~
「………んん、あれ?俺、いったい──」
しばらくして、ようやく意識を取り戻したタケシの目に映ったのは──。
「………………………………………………………………」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「(ガクガクガクガクガクガクガクガクッ)」
変わり果てたスズメ、リュー、トラの姿だった。
スズメは魂が抜けたかのように壁に背を預けながら焦点の合わない目でただひたすら虚空を見つめ
リューは消えないトラウマを植え付けられたかのように地面に平伏しながらただひたすら謝罪を連呼し
トラは底知れぬ恐怖というものを与えられたかのように膝を抱えながらただひたすら震えていた。
……そうだ。今の今まで忘れていた。自分達以外の神の存在を。その化身である彼女は、普段優しくて影が薄いので存在自体を忘れがちになるが、怒ると誰よりも恐ろしいということを。そして──今自分達がどこにいるのかということを。
「あらぁ~?起きたんですかタケシさん?」
「うわああああっ!!」
後ろから急に話し掛けられ、タケシは恐怖のあまり、一気に部屋の端まで飛び退いた。
「そんなに驚かなくてもいいじゃないですかぁ」
「い、いやだってさ………」
リンはクスクス笑いながらタケシを見下ろしている。そのタケシは冷や汗を大量に流していた。
何故ならリンが本気で怒ると笑うからだ。しかも目が虚ろになる。今が正にそうだった。
どうすれば許してもらえるかを必死で考えていると、リンは優しげな表情を浮かべた。
「別にタケシさんは皆さんを止めようとしていただけじゃないですかぁ~。だからそんなに怯えなくていいですよ」
「………へっ?………あぁ、そう、そうだよ!俺が怒られることなんてないじゃん!だって俺、止めようとしてたんだし!」
そうだそうだ。確かに俺はあいつらを止めようとしたんだ。だから俺があんな風に何かされるわけないんだよ。よかっ──
「だから、皆さんよりはすこ~し、優しめな罰にしますから。ね?」
「──な、んだと………?なっなんで!?なんで俺まで罰せられるんだよ!?」
「タケシさん。この世にはですね、『連帯責任』という言葉があるんですよ?」
あくまで優しげな笑顔のまま、リンはタケシに死刑宣告を下した。
そういえば、この前も刑を軽くすると言って起きながらハンマーでボコボコにされたし、そもそも、今さっき俺の意識を刈り取ったのだって、恐らくリンだったはずだ。
何をしようと許されるはずがなかった。タケシは起きた瞬間にはもう詰んでいたのだから。
タケシは最後の抵抗として、全力で防御を固めた。
呆気なく砕かれた。何を、かは言わない。
これ以上のことはもう何も思い出したくなかった。