『ジングルベルが鳴り止まない』
俺は今日もいつも通りリンの神空を訪れた。そこにはやはりいつも通りのメンバーがそこにいた。だが一人、リューの姿だけが無かった。
「リューは?」
「さあ? 今日は寒いから外出たくないとでも思ってるんじゃない?」
スズメはさして興味もないのか適当な返事をし、こたつに潜りながらミカンを食べている。
他の二人、トラとリンもこたつのなかで丸くなったり熱いお茶を飲んだりしている。つまりはいつも通りである。
だから俺もいつも通り適当にゲームでもしようかと思っていた。そんな時、どこからかシャンシャンという音が聞こえてきた。
「なんだ? なんの音だ、これ?」
「外から聞こえてくるみたいね」
「鈴、でしょうか」
「……音、近付いてくる」
全員がその音に耳を傾けていると、突然部屋の扉が蹴破られた。
「クリスマスの時間じゃあ~い!!」
「うわっ!? なんだいきなり!?」
部屋に飛び込んで来たのは珍妙な赤い服を着たリューだった。いや、よく見るとその服は見覚えがあった。
「サンタクロースのコスプレか。あぁ、そういや今日はクリスマスか」
「そうだよ! メリクリだよ! なのに何そのいつも通り感!?」
「そう言われましても。私達、これでも日本の神様ですし……」
「そんなの関係あるもんかっ!!」
「いや。少しは気にしなさいよ……。てか、そういうあんただって手に持ってるそれ、神楽鈴じゃない」
神楽鈴とは巫女さんが神楽舞を舞うときに手に持って鳴らす鈴のことだ。巫女鈴とも呼ばれている。
「いやぁ、ちょうどいいところにこれがあったからさ。ジングルベル代わりに持ってきた」
「一応それも神具の一つなんですからコスプレの一部として持ってこないでくださいよ」
「和と洋がごっちゃになってんじゃねえかよ」
「細かいことは気にしないの!!」
何故か全力で怒られてしまった。というか、さっきからシャンシャンシャンシャンうるさいんだよ。その手、止めろや。
「……クリスマス。美味しいものいっぱい」
「待て。また俺に作れとでも言うのかトラよ」
「……だめ?」
や、やめろよ。そんな泣きそうな顔で上目遣いとか……。そしてやめろよ。睨み付けられると拒否できなくなるだろ、リン。お前、ほんとトラに甘いなっ!
「わあったよ。でも時間掛かるから少し待ってろよ」
「……うん」
で、何作るかね。ケーキや七面鳥なんかがクリスマスっぽいかな。でもケーキはともかく七面鳥は無理だな。適当にからあげでも作るか。
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その後買い物もろもろ含めて二時間経ち、色々と料理も出来上がった。
俺はその料理を部屋へと運び入れると、そこには珍妙な服を着た四人が座っていた。
「なんだ、お前ら。全員でコスプレパーティーでもしてたのか?」
「その通りさっ!」
「あたしは嫌々なんだけどね」
「……似合う?」
リューは偉そうに胸を張り、スズメは渋々という様な顔をしており、トラはくるくるとその場に回り、俺にサンタ服を見せびらかす。
「おうおう。似合ってる似合ってる」
「……むふー」
「はいはい、ロリコンロリコン」
「スズメも似合ってんぞ。赤い服が」
「別に褒めても何も出ないわよ」
「タケシ、なんかぼくの時と反応ちがくない?!」
「あぁ~、リューも似合ってんぞ~」
「うわぁ適当だな~」
俺はこたつの上に料理を並べながら全員に感想を述べる。そして、あえて視線を逸らしていたリンにも声をかける。
「お~い。リンさんや~い。こっち来て料理食おうぜぇ~。そんな部屋の隅っこに体育座りしてないでさ」
「タケシさん。私の格好、どう思います?」
「う、うん……。似合ってると思う」
リンは余計に落ち込んだ。あ、失敗したな。と瞬時に悟った。
リンの着ている服は他の三人のそれとは違い、茶色い服と角を着けていた。
そう。リンが着ている服はサンタのそれではなく、トナカイの着ぐるみなのであった。
「何で私だけまたこんな扱いなんでしょうか……?」
「麒麟ってどことなくトナカイに似てない? って思ってぇ~」
トナカイというよりは鹿に近いんだが、まあ、どっちでもいいか。ご丁寧に赤くて丸い鼻まで付けられているリンはさめざめと泣いていた。
「気にするなって。似合ってるのは本当なんだから」
「それ、あんまり褒められてる気がしないんですけどね。……まあ、いいです」
どうやらようやく機嫌を治したらしい。やれやれ。手のかかる奴だな。それにリューも、全員分のサンタ服を持ってくりゃいいのに。
「あっと、そうだった。タケシにも服用意してるから早くこっち来て」
「は? 俺も着るのかよ。てか、別にいいけど、服貸してくれりゃ自分で着てくるっつの」
「いや、たぶん一人じゃ着れないからさ」
「バカにするなよ。服くらい一人で着れるわ」
そう言いつつ別室に移ると、俺の意識がそこで唐突に途切れた。
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「ん、んん……?」
次に俺の意識が戻ったのはこたつの上の料理が半分ほど無くなっていた頃だった。
「あ、起きた」
「……ふ、ワロタ」
「笑っちゃダメですよトラちゃん……。ぷふっ」
「トナカイにまでバカにされるタケシ、良いと思いますっ! ばっちり似合ってるよ!」
何がどうなっているのかわからない俺はひとまず何故か痛む頭に触れようと腕を動かす、のだが、何故か体が動かない。何かロープのようなものにぐるぐる巻きにされている感覚がある。
「おい。何がどうなってんだよ。身動き取れねえんだけど?!」
「そうなの? あんた一体何したのよ」
「ちょいと蔓で縛らせてもらいました~」
「……能力、無駄使い」
「全くですね」
そうか。ロープと思ってたのはリューの力を宿した蔓だったのか。道理で俺の力で振りほどけないわけだ。
「仕方ないから、あんたの今の状況を見せてあげるわ」
そう言ってスズメは姿見を持ってきて俺の前に立てた。そこに写っているのは俺の今の姿だった。
が、俺としての部分は顔の部分だけだった。
足元には煉瓦で作られた鉢植え。膝上くらいからはギザギザの緑の着ぐるみ。その服には様々な飾り付けが施され、色とりどりの電飾がキラキラと光っている。それに地味にさっきの神楽鈴もくっついている。
着ぐるみの一部分だけきれいにくりぬかれていて俺の顔が収まっており、頭のてっぺんには星が輝いていた。
見覚えがある。この時期になると色んな所で見かけることになる、あの木が俺の目の前にあった。
「何で俺──クリスマスツリーになってんだよっ!!?」
サンタでもなく、トナカイでもない。俺は、クリスマスツリーだった。
「似合ってますよタケシさん」
「嫌みかリンッ!? これのどこが似合ってるだよ!? そして全く嬉しくねえよ!!」
「綺麗だよタケシ」
「飾り付けがね! そりゃ客観的に見れば装飾は見事なもんだけどね!!」
「………………」
「なんか言えよトラ! 逆に不安になるっ!」
「てか揺れないでくれる? 鈴がシャンシャン鳴ってうるさいのよ」
「なら外せよ! てか脱がせよ!」
全員好き勝手言いやがって。いや、トラは何も言ってないけど。
俺の懇願も虚しくそのまま放置された。
「おいおいおいっ! この鬼畜! 俺の作った飯を食っときながら俺放置とかどういうことだよっ!?」
「もう。文句の多い亀ツリーだな」
「誰が亀ツリーだっ! 好きで亀やってるわけでもねえし、ツリーはお前が着せたんだろうが!」
「わかりました。私が食べさせてあげます」
「出来たら解放してほしいんですけど?」
「はい、あーん」
「聞いちゃいねえ!」
だが、何故かリンは満面の笑みで俺の口の中に料理を放り込んでいく。
ちょ、まっ、多い、やめっ!?
「あ、あれ?」
「……窒息、してる」
「あぁぁぁ!? ごめんなさいタケシさん!!」
「返事がない。ただのクリスマスツリーのようだ」
~~~
本日二度目の覚醒。ようやくクリスマスツリーから解放され、トナカイにジョブチェンジした俺は疲れきった顔で倒れ伏していた。
「クリスマス怖い……」
「トラウマになっちゃってるじゃない」
「やりすぎちった。でもとどめを差したのリンちゃんだからね」
「……りん。鬼だった」
「うぐっ……」
リンが三人から責められ落ち込んだ。
「やれやれ。まあ、もういいけどさ。で、何で俺は今トナカイの服着せられたんだ?」
「何せ今日はクリスマスだからね。プレゼントを配らないと」
「おっ? なんだ。プレゼントまで用意してんのか。ありがとよ」
「は?」
「えっ?」
あ、あれ? 俺達にプレゼント用意してくれてたんじゃないのか?
「何でタケシにプレゼント渡さないといけないの? タケシはもう大人でしょ? サンタは大人にはプレゼントは配らないんだよ」
大人、と言われればまあ、そうだけど。
「じゃ、なんなんだよ。誰に配るってんだ?」
「それは勿論、子供にだよ」
「はぁ……?」
「じゃ、トナカイ二匹でそりを引っ張ってね」
「そのためにトナカイの格好させたんかいっ!」
そして本当に寒空の下でそりを引かされた。
と、言っても俺は空を飛べないからリンがそりを引っ張り、俺はそりにしがみつくことしか出来なかったが。
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「と、いうわけで、みんな~。サンタさんだよ~」
「「「「帰れっ!!」」」」
「ここまで全力で拒否られるサンタも他にいないだろうな」
「まあ、こうなるでしょうよ。普通に考えて」
「……わたし、小さいから、プレゼント貰う」
「こういう時だけ小さいアピールするトラちゃん可愛いです。あ、みんなも可愛いですよ」
「「「「うっさいわ!」」」」
現在、俺達は古びた山小屋に来ていた。今、そこはある者達の住み処になっているのである。
「なんなのだお主ら! 突然やって来て! わらわ、別に悪いことなどしとらんぞ!」
「だから来たんだよ。サンタは良い子の所にしか来ないから」
「や、やっぱり悪いことしたぞ! 烏天狗の料理をつまみ食いしたとか!」
何ともささやかな悪事だな。これが大妖怪九尾の成れの果てとは泣きそうになるな。
この山小屋には今、九尾のキューちゃん。酒呑童子のシューくん。雪女のユーちゃん。烏天狗のカーくんが住んでいる。
この四人は今、リンに力のほとんどを封印されていて、子供のような姿をしているのであった。
「なんでこいつらにプレゼント配らないといけないのよ」
「いいじゃないですか。子供なんですし」
「見た目は子供でも頭脳は大人だっての! このくそやろう!」
「口が悪いですよシューくん」
「いだだだっ!?」
「や、やめてぇぇ……。シューくんをいじめないでぇぇ……」
「大丈夫だよユーちゃん。シューくんは遊んで貰ってるだけだから」
「やれやれ。貴殿らは本当に何をしに来たのだ?」
「悪いなカーくん。バカがバカなことをしに来ただけなんだ」
俺は妖怪達に軽く同情した。
「さて。じゃ、早速プレゼント配るよ~。あ、トラちゃんの分はあるから、子供側に並んでね」
「……(こくっ)」
「ぷれぜんと? 何の話じゃ?」
キューちゃんはどうやらクリスマスを知らないらしい。と、いうか妖怪全員知らなかった。お前らも結構長生きなんだから知っとけよ。
「ふむ。赤い服を纏い、白い髭を生やした翁が童にただで贈り物をする日、とな。なんじゃ、その意味のわからん行事は」
「まあ、そう言われると俺も説明し辛いんだが」
「しかし、ここには翁が見当たらんが?」
「別にじいさんじゃなくてもいいんだよ」
「余計に意味がわからんのう」
「そういうもんだと受け止めろ。ややこしくなるだけだから」
キューちゃんはいくつもの疑問符を浮かべていた。クリスマスを知らないんなら、こういう反応もあるだろう。
「とりあえず、ただでプレゼントが貰える日と思っときゃいいさ」
「しかし、わらわは童ではないぞ」
「見た目はただの幼女じゃん」
「お主らのせいでなっ!!」
「まあまあ、じゃ、まずはキューちゃんから。はいどうぞ」
「……なんじゃ? はっ、これは……油揚げ!」
キューちゃんは目をキラキラ輝かせた。何で狐は油揚げで喜ぶものなのだろうか。
「これはシューくんに」
「はぁ? ん? おおっ、酒じゃねえかっ!」
えっ、子供に酒はダメじゃね? と思ったが、よく見るとノンアルコールと書いてあった。だが、シューくんは気付いていないようだった。哀れ。
「ユーちゃんにはこれ」
「かんざし……。あり、がとう」
普通だっ!! あのリューが普通にプレゼントしてる。明日は雨だな。
「カーくんはこれ」
「生肉……。まあ、ありがたくいただくが」
普通、かな? 一応普通。
「はぁ~い。トラちゃん」
「……ねこじゃらし。バカにしてる……」
オチはトラか? にしては弱いような気も。
それにトラ。なんだかんだいってねこじゃらしで遊んでんじゃねえかよ。
「そして特別にタケシにもあげよう」
「は? って、これさっきのクリスマスツリーの着ぐるみじゃねえかっ! こんなのいらねえよっ!!」
「今なら神楽鈴がおまけにもう二つ付いてくるよ!」
「いらねえって言ってんだろうがっ!」
「仕方ない。リンちゃん取り押さえて。子供達のためだよ」
「了解しました」
「ぎゃあああ! このトナカイ超こええっ!!」
「というか、渡すもん渡したならとっとと帰れお主らぁぁ!!」
「何言ってるのさ? 今からここでクリスマスの二次会が始まるんだよ」
「「「「帰ってくださいっ!!」」」」
五人の神と四体の妖怪がひしめき合う狭い山小屋では、夜遅くまで喧しい声と鈴の音が響いていたという。




