『冬場の聖域』
「あぁ~寒いっ。あたし寒いの嫌いだわ~」
「夏が好きなスズメさんに冬はきついでしょうね」
「……わたしは、秋が好き」
「知ってる知ってる。前にやったろ。で、次は俺のターンなわけだろ」
「そのパターン飽きた」
「飽きたとか言うなよ! 全員やって来たんだから俺がメインになれる話を作れよ!」
「……メタ、乙」
俺達は飽きもせずに全員、リンの神空を訪れていた。
だが、最近はめっきり寒くなり、正直外に出たくなくなってきた。とはスズメ、リュー、トラの言葉だ。
俺は寒さは全然平気だが、寒くない、というわけでもない。ようは寒さにちょっと強い、くらいなものなのだ。
「でも別にまだ冬本番、ってわけでもないですし、やれることなんて特にないのでは?」
「む……。それは確かにそうだが」
「この寒さでまだ本番じゃないとか、最悪ね。流石はタケシが司ってるだけあるわ」
「別にそれ関係なくねっ!?」
いくら何でも酷過ぎじゃない!? と言ってもスズメは冬の風より冷たい視線を浴びせてくるだけだった。
「リンちゃ~ん。暖房付けようよ暖房~」
「我慢してください。寒さを楽しむのも冬の醍醐味というものですよ」
何故か俺は激しいデジャヴを感じた。そして次の瞬間に夏の時を思い出した。
「……寒い。死ぬ」
「それは一大事ですっ! 今すぐ暖房の用意をしますから待っててくださいトラちゃん!!」
「「「…………過保護過ぎる」」」
俺とスズメとリューが冷めた視線をリンに浴びせるが、本人は一切意に介さなかった。
~~~
リンは宣言通り、神の力で部屋にあるものを出現させた。
「これは……」
「まさか……」
「こんなのって……」
「……ガクブル」
「いやいや。何で皆さん変なテンションなんですか? ただの炬燵じゃないですか」
リンが出してきたのは日本の誇る最強兵器の一つ。その名も炬燵であった。
そして、次の瞬間には俺達は我先にと炬燵へと突っ込んでいた。
「「「「……あぁ~」」」」
「皆さん、何でそんなおじさんみたいな声出すんですか。」
リンは一人炬燵のそばに立ちながら、俺達四人を見下ろした。
「やっぱ冬は炬燵だよなぁ~」
「そうねぇ。基本タケシの言ってることには賛同したくないけど、そればっかりは同意見だわ」
「……ふにゃあ」
「リンちゃ~ん。ミカン持ってきてぇ~」
だらけまくる俺達をリンが咎める。
「何ですかもう……。皆さんだらけまくって。しゃきっとしてください。仮にも神様でしょう?」
「無理を言うなよリン。炬燵に入ってしゃきっと出来る奴なんてこの世のどこにだっていやしないっての」
「やれやれ全く。……ん? あ、あれ? あれぇ~??」
「どうしたのリン。そんな悲しそうな目して」
スズメがわずかに体を起こしリンを見る。その声に俺も反応し、リンを見る。
「──んです」
「え? 何?」
「無いんです」
「……何が無い、の?」
「私の入るスペースが無いんですよぉ!」
スペース? と聞いて俺達は全員寝転がっていた体を起こして周りを見る。
俺の正面にはスズメが座り、俺の右隣にはトラが座り、左隣にはリューが座っている。
そして、ここが一番重要なのだが、この炬燵の形は四角形である。
つまり。リンの座るスペースがない。ということだ。
「「「「あ、ほんとだ」」」」
「気付くの遅すぎませんかっ!?」
泣きそうな声で叫ぶリン。流石に可哀想だと思ったのか、トラがリューをにらみながらこう言った。
「……リューが、リンと代わる」
「え? やだよ! ぼくじゃなくてスズメたんが交代しなよ。火属性でしょ。一人で暖炉の火ごっこでもしてなよ」
「暖炉の火ごっこって何よ!? 一人で暖炉の中で燃えてろってか?! それだとあたし、ただの馬鹿みたいじゃない! ここは男のタケシが退きなさいよ! 冬を司ってるんでしょ?!」
「司ってるからといって寒さを感じないわけじゃないんだ。だから炬燵に入りたいという欲求も強いんだ。ここは言い出しっぺのトラが代わってやれよ」
「……猫は、炬燵で、丸くなる。これ、世界の常識」
「確かにお前はネコ科だが、虎だろうが」
やはり、誰一人として代わりたくはないのであった。仕方ない。ここは──。
「勝負で決めるか」
「「「賛成」」」
「反対ですっ! その勝負の間、私ずっと炬燵の外で震えて待ってろって言うんですか?!」
「はい。多数決により勝負で決めることになりました~」
「ひどいっ!?」
俺は多数決で泣きを見たことが何度もあったが、今日初めて多数派になった気がする。
~~~
「で、何の勝負するんだ?」
「そうだな~。しりとりとかどう?」
「それネタが無いときにやる最終手段でしょ」
「……将棋、は?」
「それトーナメント方式になるんじゃない? それに炬燵じゃやり辛いわ。ここは神生ゲームとかいいんじゃない?」
「全部めちゃくちゃ時間かかるじゃないですかっ!!」
あっ、俺のターンが飛ばされた。地味にショックだ……。
と、まあ、なんやかんやあった結果。一番体の小さいトラを抱きかかえるように炬燵に入ることになったリンは大層ご機嫌になったという。トラは若干不服そうだが、我慢してもらおう。
そして俺達はしばらく炬燵の恩恵に預かっていると、誰からともなくこんな声が聞こえてきた。
「……お腹、減った」
声に出したのはトラだった。だが、それは俺達全員が感じていたことでもあった。
そして、示し合わせたわけでもないのに全員と視線がぶつかる。
俺には、おそらくみんなも、今回に限り、完璧に相手の心が読めただろう。
それはただ一つの願望。炬燵から出たくないっ! ということ。
その直後に炬燵の中にある俺の足が思いっきり蹴られた。
「いって! 誰だよ今蹴ったの!?」
「さあ~? もしかしたら神様がさっさと料理作ってこいって言ってるのかもよ?」
「つまりお前らの誰かだってことじゃねえかよ。ってか、十中八九お前だろリュー!」
「言いがかりはやめて欲しいなぁ~。証拠がどこにあるってのさ」
ぐぬぬ……。この野郎。だが、確かに証拠はない。左側から蹴られた感覚がしたとはいえ、リューが犯人と断言は出来ない。
なら。
「炬燵の中を見れ──ぶぼぁっ!?」
「見るな変態っ!!」
今度の犯人はすぐにわかった。真正面にいるスズメである。俺は炬燵の中を覗き見た瞬間に容赦の無く顔面を蹴られた。
俺は蹴られた顔を押さえながら、それでも炬燵からは出ない範囲で転がり回る。
「かかとがっ!? かかとが目に刺さったぁ……」
「……斬新な表現」
「クールですね、トラちゃん」
「くっ……。しかし、最後に見た景色は赤い──」
「なっ!? し、死ねゲス野郎!」
「なんでぇっ!?」
赤い暖房の光が見えた、と言おうとしただけなのに何でキレられるんだよ!
俺は痛みを感じる中でハッキリと聞こえなかったが、リューが「なるほど。今日は赤なのか。だ・い・た・ん♪」と呟いていた。何の事かはさっぱりだった。
何故か更にスズメの攻撃力が上がり、俺は足の骨が砕けるかと思うくらいの勢いで蹴り飛ばされ、そして、ラストの一撃でとうとう炬燵から吹き飛ばされてしまった。
「弁慶ッ!? 弁慶がぁぁあ!!」
「弁慶ってなにさ?」
「弁慶の泣き所のことだと思いますよ」
「……ものしり」
そう言いながらトラが炬燵に潜り、次の間には俺の座っていた場所に移動していた。
俺は、帰る場所を失ったのであった。
「トラぁ……酷すぎるぅ~」
「……弱肉強食」
「こ、のやろう……。ん?」
理不尽な炬燵争奪戦に破れた俺だったが、一つの逆襲を企てた。
そう。ヒントは、弱肉強食である。
~~~
「と、いうわけで冬といえば鍋だよな」
「おお~。流石タケシ。数少ない特技の一つ、料理、っていう設定なだけはあるね」
「数少ないとか設定とか言うな」
「……旨そう」
「お腹空きましたね」
「さ、早く鍋持ってきなさいよタケシ」
俺は鍋を持ちながら炬燵から少し離れた場所に立っている。
そして、俺は炬燵に近付こうとは一切しない。
やがて四人は俺の意図に感付いた。
「ま、まさかタケシ……。そんな非道を行うなんて……」
「最低ね。ほんと、最低だわ」
「……鬼、悪魔」
「タケシさん。そんないじわるしないでくださいよ」
「やなこった! 炬燵の恨みは恐ろしいんだ!」
「初めて聞きましたよそんな言葉……」
リンが呆れたといわんばかりに溜め息を吐く。
そう。俺は鍋を餌に炬燵の中から全員を引きづり出してやろうという作戦に出たのである。
炬燵の恩恵vs空腹時に食べる鍋
さあ、好きな方を選ぶがいいッ!!
「くぅ……。リンちゃん。タケシから鍋引ったくって来てよ」
「わ、私だって炬燵から出たくないです。私より長く炬燵に入ってるんですからスズメさん行ってきてください」
「ええっ?! や~よ。お腹空いたっていったのトラでしょ。あんた行ってきなさい」
「……わたし、ねこじた」
「それ今関係なくないっ!?」
……いやぁ~、なんというか。醜い争いが繰り広げられてますな。炬燵、恐ろしい子。って、別にこれくらいの争いはいつものことだったな。
俺は一つ深い溜め息を吐き、炬燵の真ん中に鍋を置く。これ以上やるとまたくだらない争いが激化しそうだったからだ。
「なっ、なによ。結局持ってくるならさっさと持ってきなさいよ馬鹿!」
「バ~カバ~カ! タケシのバ~カ!」
「……ばか、あほ~」
「へいへい。どうせ俺は馬鹿でアホですよ~。ほれ。さっさと食え、飢えた獣共」
俺は三人の罵倒を軽く受け流し、鍋のセッティングを終える。
すると三人は目にも止まらぬ速度で肉だけ取っていく。こらこら野菜も食べなさいよ。
俺は三人の器にそれぞれ野菜を入れてやる。全員が渋い顔をしたが、文句は言わせない。鍋奉行の俺に逆らえばどうなるかわかっているからだろう。
そしてようやく俺は腰を下ろ──って、そういや座る場所ないんだった。
と、身の置き場所をどこにするか悩んでいるとリンが少しだけ横にずれて床をポンポンと叩く。どうやらここに座れ、ということなのだろう。
俺は少し狭いがリンと並んで座り炬燵に入る。
「悪いなリン」
「いえいえ。それにしても、何だかんだでタケシさんは優しいですよね」
「なんだ、今更気付いたのか? 俺は優しさの化身なんだよ」
無意味に偉そうにふんぞり返る俺を見てリンはくすくすと笑う。
「照れなくてもいいですよ。ふふ。そういうとこ、ほんとタケシさんらしいですね」
「な、なんだよ。調子狂うな……」
俺はリンの視線から逃れるようにそっぽ向き、頬を掻く。
すると、さっきまで鍋に夢中になっていたはずの三人が全員半目で俺を睨んでいた。
「……な、なんでせう?」
「別に」
「な~んも」
「……ない」
「何で三人で台詞を分けて喋るんだよ……?」
何故か若干機嫌が悪くなっている三人。何だお前ら、さっき野菜を入れたのをまだ怒ってるのか? そんなに野菜が嫌か? 野菜に謝れこのやろう。
「その顔は気付いてない顔ですね。そういうところもタケシさんらしいですけど」
リンまでもがやや困ったように笑いながら俺を見る。
どうにもむず痒い感覚に襲われた俺は気をまぎらわせるために鍋に箸を伸ばした。
そんな特にオチもなく、時は過ぎていった。でも、俺は今、ここにフラグが立っていたことにその時が来るまで気付くことが出来なかった。




