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暇神様は今日も京都で暇してる  作者: いけがみいるか
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『神無月の襲撃者 3』

「玄武、てめえ生きてやがったのか!」


俺はようやく息を整え終えると、酒呑が俺に激昂する。


「当然だ。お前のヘボい攻撃なんぞ、リンの一撃に比べれば何てことはないんだよ」

「気絶はしておったがな」

「ゲンさん。そういうことは言わなくていい」


ゲンさんの横からの冷静なツッコミに嫌な汗をかく。


「ま、まあ、確かに不意打ちだったから迂闊にも気絶してしまってたがな、俺とゲンさんが同化したからにはもうさっきのようにはいかねえからな!」


同化。と言うよりかは、元に戻った。と言った方が正確だ。俺とゲンさんはこの世に存在した瞬間から二つの人格が存在した。

亀の体を持つ俺と、蛇の体を持つゲンさん。

長い年月を共に過ごした俺達は神気を大量に消費するが、亀と蛇の体に分かれることが出来るようになった。


そしてゲンさんはずっと自由に動き回れることに憧れを抱いており、二つに分かれられた時からよく放浪の旅に出るようになったりした。


と、今はそんなことを言っている場合ではなかった。

俺はさっき咄嗟に発動した結界の中にいる三人を見た。


スズメは酒呑の腕に潰されそうなところだった。

リューは蔓と氷に縛られ、竜巻に押し潰されそうだった。

トラは九尾の大量の火球に掻き消されそうだった。


本当にギリギリだった。でも間に合った。

俺はそのことに安堵し、それぞれの結界の内側に神気を注ぐ。


「ふん」

「おっ、サンキュータケシ!うぅ、おらっ!」

「……助かった」


スズメ、リュー、トラの体の傷が癒え、体力も回復させたところで俺は結界を解く。


「はぁ。貴様のその技は本当に厄介だの。だから最初に一人でいるところを確実にやれと言っておったのにのう」


九尾は悔しそうに顔を歪めながら酒呑を見る。酒呑は悔しそうに地面を踏み鳴らす。


俺の力の真骨頂は防御、支援、回復にある。

あの時、俺はほぼ無意識だったが、攻撃を受けた瞬間に神気を解放し防御力を上げていたのだろう。

そして巨大金棒に潰されたすぐ後、異変に気付いたゲンさんがすぐさま行動を起こし、俺の姿をした水分身を作り出し、酒呑の目を誤魔化したのだ。


「あんた、ゲンさんがいなかったら割とマジでやられてたんじゃない。それにこの結界もゲンさんが張ったんでしょ?」

「あ、わかる? 流石はゲンさんだよな。しっかりしてるぜ」


スズメの言う通り、現在、京都全域には結界が張られており、人間に被害が出ないようになっていた。

俺の負傷とほぼ同時に結界を張ったと聞いたので、おそらく人間達には被害はほとんど出ていないだろう。


「やれやれ。助けてもらっといて言うのも何だけど、結局は全部ゲンさんのおかげなんだね」

「……ありがとう。ゲンさん」

「あれ?ゲンさんの好感度だけが急上昇中!?一応お前ら助けた結界は俺が張ったんだよ!?」

「あっそ。ありがと」

「かっるい!!」


俺達は普段と同じように軽口を叩き合いつつ、四人、背中を任せるように立つ。


九尾、酒呑、烏天狗、雪女が俺達の周りを囲んでいる。


「暢気だな貴殿ら。ただ一人増えただけで、数の不利が消えただけではないか」

「はっ!今度こそその甲羅を粉微塵にしてやるよっ!」

「というか、あの亀?蛇?なんかキモくない?」

「かか。しかし侮るなよ。奴とて腐っても神の端くれじゃ。それに亀の方はともかく、背の蛇は結構なくせ者じゃぞ」

「お前らボコボコにしてやろうかこんちくしょう!!」


何故か敵味方問わず酷い言われような俺は、泣きそうになるのを堪えながら妖怪達に向かって言い放つ。


「それに勘違いするなよ。俺達は守護神なんだ。それはつまり守護の力を持つ俺がこの中で一番強いんだってことを!」


俺は拳を握り絞めて不敵に笑って見せた。


「じゃ、全員既にご存じだろうが、あえて名乗らせて貰おうか!俺は京の都を守護する神の一人、北方守護神の玄武だっ!」

「そして同じく!東方守護神、名は青龍!」

「……西方守護神、白虎」

「なにこの名乗らないといけない雰囲気……。はぁ、南方守護神の朱雀よ」

「「返り討ちにしてやっから、とっととかかって来いや妖怪共ぉおおお!」」

「……来いやー」

「何この二人のテンション。着いていけない」



「かっかっか!愉快愉快!しかし、敵に名乗られたのなら、こちらも名乗り返すのが正しき礼儀じゃろうて!妾は大妖怪、白面(はくめん)金毛(きんもう)九尾の妖狐!」

「俺様は大妖怪にして最強の鬼神!酒呑童子!」

「そして拙者は九尾に仕える隷属妖怪、烏天狗」

「私はこのアホ鬼に仕えてあげてる奇特で美人な雪女」

「では、そろそろ神の座から堕ちて貰うぞ四神共!」


~~~


まず動いたのは九尾だった。無数の火球を散弾のように飛ばして来たが、タケシがその全てを的確に水弾で撃ち落とす。


「お前の相手はこの俺達だっ!」

「かっ。不意打ちで死にかけたのろまな亀に妾の相手が務まるのかの?」

「言ったろ。今までと同じだと思うなってな!ゲンさん!」


タケシの言葉に背中に生えたゲンが口から水鉄砲を吐き出す。

強力な水圧の水鉄砲に、九尾は火炎を放射する。

炎と水の激しい応酬に怯むことなく足を前に進ませるタケシ。攻撃を全てゲンに任せたタケシはただがむしゃらに九尾の懐に潜り込み、拳を繰り出す。


「うおおらあああっ!!」

「くっ!」


手をクロスさせてタケシの拳をガードした九尾は、タケシから距離を取り、火球を牽制のために乱射する。

だがタケシは自分の身を省みずに『玄武甲』を構えながら九尾目掛けて真っ直ぐ突進した。

よく見るとタケシの傷を負った次の瞬間には回復している。高速再生を行うタケシに、たった一つの火傷すら残せていない。


負けじと九尾は火球を更に飛ばす。流石にタケシの突進は火球の勢いに押され始めた。

しかし、突如爆発的に速度が増し、タケシが九尾に迫って来た。


「『玄水甲破(げんすいこうは)』!!」


ゲンの水鉄砲の推進力を利用し、急激に速度を上げたタケシは水気を纏わせた盾を突き出しながら突進し、その攻撃をまともに受けた九尾は、体内に保有していた大量の邪気が浄化されていく感覚を覚えた。


「貴様ッ!妾の邪気を──」

「これで、終いだぁぁ!!」


タケシはそのまま九尾もろとも壁に向かって全力で激突した。


~~~


「……倒すッ!」

「飛べもしない地を駆けることしかできぬ白虎が拙者を倒す、と?」


烏天狗は空高く飛び上がり、地上から見上げているだけのトラに向かって木の葉の刃を降り注ぐ。


しかし、木の葉は地面に刺さるだけで、一枚たりともトラには当たらなかった。


「先程よりスピードが上がっている……?」


トラは常に目でやっと追えるくらいのスピードで縦横無尽に地を駆け回っている。

それに合わせて木の葉を飛ばすが、やはり掠りもしない。

そして、一瞬の隙を突いて烏天狗の死角に入り込んだトラは烏天狗に向かって『白虎砲』を撃ち放つ。

そして、今トラが放ったのはただの弾丸ではない。『白虎砲』の爪の形をしたブレードだ。

そのブレードは烏天狗の右の羽に突き刺さり、烏天狗はあまりの激痛に苦悶の表情を浮かべながらトラを睨む。


「……そっち、残像」

「なにぃっ!?ぐあぁっ!!」


だが、烏天狗が視界にとらえたのは残像だけで、トラは再び烏天狗の死角に飛び込んで左の羽をも撃ち抜いた。


両の羽を負傷した烏天狗はフラフラと地上に落下し、地面に這いつくばる。


「……『白金弾爪(しろがねだんそう)』全弾発射」


トラは烏天狗目掛けて残りのブレードを全て注いだ。


「……わたしは、空舞う龍に並び立つ存在。ただ飛べるからといって、勝てる要素になりえない」


そのための遠距離攻撃の武器を持っている。トラは『白虎砲』を見つめ優しく撫でた。


~~~


「さっきはよくもやってくれたね雪女」

「あら?なんのことかしら?」

「すっとぼけるんじゃないよ!こんにゃろ~!」


雪女と対峙したリューは恨み言を呟きながら『青龍槍』を構える。


「私の氷は全てを冷たく凍らせる。それがたとえあんただろうとね。知ってる?氷の上に木は育たないのよ?」

「知ってるよ。でもね──」


リューは『青龍槍』で地面を叩く。


「偉大な大樹は雪にも氷にも屈しない」


その目は、いつものお調子者のリューの目とは思えないくらい研ぎ澄まされており、地面からは高速再生されるかのようなスピードで植物が成長を始めた。


「なっ!くっ、凍れ!」


雪女は慌てて吹雪を繰り出すが、植物の成長は一行に止まらない。


「木は昔から神聖視されることがある。その偉大さと巨大さ、雄大さ、優雅さは見るもの全てに畏怖と畏敬の念を覚えさせる」


リューは独り言を呟くように話し続ける。異常な成長スピードで巨大化していく植物は、まるで龍が空へと飛んでいくような姿を連想させた。


「木は往々に蛇や龍に例えられた。そして木は──龍は人々を優しく見守り、仇なす敵は情け容赦なく駆逐する」


天高くそびえ立った大樹は急に動きを止め、次の瞬間、雪女へと襲い掛かった。


その姿はまるで龍神が大口を開けて迫って来ているかのようだった。


「それが木気の、自然の力。それに逆らったんだ。君達はもう終わりだよ。じゃあね『青嵐木牙(せいらんもくが)』」


雪女は悲鳴を上げることすら叶わず、木龍に飲み込まれた。


~~~


「さてと。借りは返しておくわよ酒呑」

「はぁ?いらねえよ。つか、てめえ。神気の量が跳ね上がってねえか?」


酒呑は目の前に立つスズメが、先程とは比べ物にならないくらいの力を有していることに気付いていた。

スズメは事も無げに説明する。


「『四神相応』。あたし達は四人揃ってはじめて真の力を発揮出来るのよ。ま、変わりに一人でも欠けると逆に本来の力すら引き出せないんだけど」

「な、なんだと……」

「永い付き合いの癖にそんなことも知らなかったの?それでよくあたし達に勝つなんて戯れ言をほざけたものね」


スズメは肩を竦ませながら嘆息する。


「確かにあんたらと戦ってた時代、あたし達は付かず離れずの距離で戦ってたし、気付けないのも無理はないとは思うけど。それにしても不用心よ。そもそも人払いの結界があたし達以外の、それこそ玄武が張ったってことに気付いてれば結果は変わってたかもしれないのに」

「ほざいてんのはてめえだ!なにもう勝った気でいやがるんだよ!」


叫び散らす酒呑を見て、スズメはもう一度大きく、大仰にため息を吐いた。


「勝った気、じゃない。既に勝ったのよ、あたしは」


そう言ってスズメは『朱雀刀』を二本とも同時に鞘に戻す。


「あぁっ!?舐めたこと抜かすんじゃね──」

「『朱羽炎斬(あかばねえんざん)』」


──カチンッ。と刀が鞘に収まった音がした。


「がはっっ!?」


その瞬間、酒呑の体には無数の刀傷が浮かび上がり、血を吹き出した。巨大化していた右腕も切り落とされ、塵も残さず燃え尽きた。


「気付くの遅すぎ」


~~~


「あぁ~。つっかれたマジで。特にここまで来るときの全速力がマジでキツかった」

「だから散々言うておいたであろう。少しは体力付けるために運動せよと」

「それにあんた、盛大に遅れときながら何いけしゃあしゃあとへたりこんでんのよ。後始末はあんた一人でしなさいよ?」

「……お腹空いた。……お腹空いた!」

「二回言った!?しかも二回目の語調はちょっと強めだ。よっぽど大事なことなんだね……」


俺達は全員座り込みながら軽口を叩く。

どうやら俺はこのあと一人で後始末したあと、料理も作れと言われていたが、何はともあれ、これでようやく終わり──


「まだじゃ!」


その声に、俺達全員が飛び起きる。

見ると九尾が邪気を纏わせた手を地に触れていた。その直後、大地が揺れた


「まさかお前、地脈をいじってやがるのかっ!」

「かかっ!その通りだ!滅茶苦茶に暴走させてやるわ!」


最悪だ。今地脈を暴走させられたら俺達じゃ止められない。

地脈の暴走は邪気を祓うために神気をぶつけなければならない。しかも、相当な力を必要とする。例えるなら、俺達四神全員の全力を注いでようやく足りるくらいだ。

しかし、俺達は既に疲弊しきっている。俺はあくまでも体力と傷を回復させるだけであって神気までは回復させられない。


とうとう地脈は暴走し、地上に吹き荒れる。その邪気を纏った地脈はみるみるうちに九尾の弱った邪気を。酒呑の斬られた右腕を。烏天狗の羽を。雪女の体を回復させていく。


高笑いを上げながら邪気を浴びる九尾。

治った右腕を振り回す酒呑。

羽を羽ばたかせる烏天狗。

服に付いた埃をはたく雪女。


万事休すか──。そう諦めかけたその時。


天上から光の柱が暴走した地脈に激突し、一瞬のうちに邪気を祓い、霧散させた。


「………………はっ?」


九尾は間の抜けた顔をする。他の妖怪も同様に同じような顔をした。


俺達は──。


「「「「…………うわぁ……」」」」


見慣れたはずの馬鹿げた神気に嘆息しつつ、俺達の勝利を確信した。


そして、天上から聞き慣れた声が降ってきた。


「何を、やっているんですか?」

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