『神無月の襲撃者 1』
無駄シリアスバトル始まります。私の気まぐれにどうか広い心でお付き合いください。
「それで、どうしましょうか?」
「去年は別に行かなかったし、いいんじゃない?」
「いや。むしろ去年行かなかったからこそ、顔くらい出すべきじゃないか?」
「……でも、全員で行くのは、無理」
「そうね。京都をほったらかしにするわけにもいかないしね」
俺達が一体何について話し合っているかというと、神無月の時期に入ったことに原因があった。
神無月。つまり神のいない月。全国の神が出雲大社に集まって一年の事を話し合う神達の恒例行事である。
その月は出雲以外に神がいなくなることから、神無月と呼ぶようになった。
しかしだ。すべてとは言うが、本当はそんなことはない。留守番をする神もいればサボる神だっている。
それに俺達は守護神である。全員が京都を出ることは許されない。
今は確かに平和だが、それは俺達が京都にいるからこその平和なのかもしれないのだから。
というわけで、俺達は普段は出雲には行かないのだが、今回はそうも言ってはいられないようだった。
「まさかリンのところに招待状が送られてくるとはな」
「半強制みたいなとこあるとはいえ、こんなのは初めてね」
「どうせリンちゃんの巨乳が見たいだけなんでしょ」
「……変態」
「何で私っ!?絶対違いますよ!」
そう。今年は何故か、リンのところに招待状が届いたのであった。正直無視しても天罰を受けるわけでもないのだが、一応面子というものも考えなければならない。
「仕方ありません。今回は私が一人だけ顔を出して来ることにします。留守を任せてもいいですか?」
「ん。わりぃな」
と、言うことでリンは一人出雲へと発った。
その間、リンの神空でお泊まりとなった。
しかし俺だけ追い出された。納得いかない。
しかし、三人相手に勝てる気もせず、とぼとぼと自分の神空に帰ることにした。
その時、既に事態は進行していたということを、俺達は気付けなかった。
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リンが出雲へ発った次の日。俺はいつも通りリンの神空へと向かっていた。
ちなみに、ゲンさんは寝ていたので置いてきた。ゲンさんは毎年神無月に合わせて帰ってくるが、基本寝てるだけだ。
それに起こすとうるさいので、そのまま放置したというわけだ。
俺は少し寒くなってきた風を浴びながら道を歩いていた。その時不意に影が差し、何が起きたかわからないまま俺は気を失った。
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「なんか今日タケシ来るの遅くない?」
「そう?別に気にするほどじゃないと思うけど~?」
「……普通」
リューとトラは気のせいだと言っていたが、あたしは何だか嫌な予感がした。
これは久しく忘れていた感覚。しかし、確かにあたしの身に刻まれている研ぎ澄まされた直感が、あたしをいち早く異常に気付かせた。
「リュー!!トラッ!!」
「えッ!?」
「……!?」
直後、リンの神空の中で強烈な爆風が吹き荒れた。
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「ちゃんとやったのかしら?」
「ま、爆発はしたわな」
「しかし、奴等をこれくらいで倒せるとは思わん」
「そうであろうな。ん?ほれ、出てきたぞ」
平安京前に立つ四つの影を確認し、スズメ達はそれぞれが己の魂であり、魔を滅する神の武器『神器』を持ち、その四人に対峙した。
「はっ。随分と久し振りじゃない。あんたたち」
「っていうか、正直もう滅んだと思ってたんだけど?てか滅んでてよ」
「……鬱陶しい」
「かかっ、そう冷たいことを抜かすなよ。長い付き合いではないか。久しぶりの再会に咽び泣いてもよいのではないか?」
「そうだな。っつーか泣かせてやるよ、このクソ神共が!」
「拙者らはお主らと違い、ずっと自身を鍛えてきたのだ」
「そうよ。だからあんたたちの方こそ滅んじゃいなさいな」
スズメは突然現れた敵四人を順に見る。
全員、昔に殺し合いをした奴等である。
九尾の妖狐。酒呑の鬼。烏天狗。雪女。
今から遥か昔、京の都の平和を脅かした妖怪達。
しかし、スズメ達の手によってなんとか撃退することに成功し、今まで目立った悪事を働いていなかったので、スズメ達は既に滅んだか、力が弱まりどこかでひっそりと生きているのだと思っていたのだが、まさか力を蓄えていたとは。
スズメの顔に汗が滴り落ちる。まずこちらの数が三人。向こうが四人。数の時点でこちらが不利だ。さらに他にも不安が残っている。
こういうときに限ってタケシは何をしているのかと苛立っていると、酒呑の鬼が笑って告げる。
「あぁ。あの亀野郎は来ねえぜ?俺がぺしゃんこに潰したからな」
「なっ──!?」
心を読まれたことにも驚いたが、タケシが既にやられているということにも驚いた。
しかし、驚いたのは一瞬だけでスズメはすぐに不敵に笑う。
「は?あの馬鹿があんた程度にやられるわけないでしょ?もし不意打ちしたくらいで勝者気取ってるならやめた方がいいわよ?弱く見えるから」
「……ふはっ!ぶっ潰す!!」
邪気を迸らせながら酒呑はスズメに向かって跳び、手に持った巨大な金棒を力の限り振り下ろした。
「……隙だらけ」
しかし、その金棒にトラの『白虎砲』の一撃が当たり、バランスを激しく乱された酒呑はそのまま地面を転がった。
「……頭に血、のぼらせすぎ」
「そういう貴様こそ油断大敵じゃぞ?」
「……っ!?」
トラは寸での所でガードしたが、勢いよく飛んできた九尾の火球に対処しきれず爆発に巻き込まれた。
「トラッ!?」
「スズメちゃん!集中!」
トラの心配をするスズメに叱咤し、眼前の敵を見据えるリュー。
そこには烏天狗が木の葉を舞い散らせながら、リューと同じように敵を見据えていた。
「拙者の相手は貴殿か?青龍」
「うんにゃ。違うね。君はソッコーでぶっ倒すから相手にもならない」
「口の軽さも相変わらずだな」
「その君の堅苦しいしゃべり方も、ね!!」
リューは『青龍槍』を、烏天狗は葉の形をした扇子を振りかざした。
「くっ、あの馬鹿……。さっさと来なさいよね」
スズメは二本の『朱雀刀』を、それぞれ酒呑と雪女に向ける。
「二対一ですわね。これなら楽勝──」
「あぁん!?手ェ出したらてめえから潰すぞ雪女!」
「……あなたねぇ。冷静に考えなさいよ。なんなら冷やしてやろうかしら?」
「いいからてめえはそこで大人しくしてやがれ!」
「まったく、助かったわね朱雀」
「抜かすわね。二対一で敵わなかった時に恥ずかしいから身を引いただけでしょ?あたしは構わないわよ二人がかりだろうとね」
「……その生意気な顔を絶望の表情に変えて氷付けにしてやるわ」
「てっめえ!手ェ出すなっつってんだろうが!!」
雪女の氷のつぶてと酒呑の金棒が左右から同時にスズメに襲いかかる。
「な、めるなぁぁあ!!」
スズメは大地を強く踏みしめ、己の周りに火炎の柱を現出させ、氷のつぶてを蒸発させ、金棒をドロドロに溶かした。
絶大な火力の炎に怯みながらスズメを睨む二人にスズメは笑いかける。
「ふんっ。ほら、かかってきなさい。次こそ完全に滅ぼしてやるわ」
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「──ろ。……きろ。…………起きんか、この馬鹿たれ!」
「あたっ!?」
頭部に衝撃が走り、意識が現実に引き戻された。
「あれ……?ゲンさん?どうして……?」
「どうもこうもあるか。お主と儂は一心同体。お主に何かあれば儂が気付かんはずないだろう。それに今回は邪気を纏った攻撃にやられたみたいだからな」
「邪気……。あいつらか」
俺はすぐに俺を襲撃してきたのが妖怪の奴等だと気付く。
それに冷静に考えるとこの邪気には覚えがある。それも嫌というほどに。
「あのアル中の鬼か。くそっ」
「それだけではない。他に九尾、天狗、雪女の邪気も感じる」
「総攻撃仕掛けて来たってわけか」
俺は自分の間抜けさに唇を噛む。
そんな俺を見てゲンさんがため息を吐く。
「だからいつも言うておっただろう。お主、いつも儂のことを心配し過ぎなのだ。儂らは一心同体。だから神気も二人で半分ずつ持つべきだと。それをほとんど儂に持たせよってからに」
「ま、まあ、ゲンさんは京都の外によく出掛けるし、その先で大変なことにならないように──」
「現に今お主はここでぺしゃんこになっとったが、そのことについてはどう考える?」
「うっ!」
それを言われると何も反論出来ない。俺は項垂れて反省する
「……ごめんゲンさん。ヘマしちまって」
「反省は全て終わらせてからにせい」
確かに、早くしないと反省どころでは済まなくなってしまう。俺は立ち上がり、平安京のある方角を見る。邪気と神気がぶつかりあっているのが肌で感じられた。
もう戦いは始まっている。
「ゲンさん。悪いんだけど、手伝ってくんね?」
「愚問だな。儂はお主と、いや、我が主と一心同体。主の意志は、儂の意志じゃ!」
「そっか。じゃあ早速──妖怪退治と行きますか!」
俺は、本来の、玄武としての力を宿しながら平安京へと全速力で向かった。