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暇神様は今日も京都で暇してる  作者: いけがみいるか
20/30

『怠惰と読書の秋』

「うぅ……自業自得とはいえ、酷い目にあったわ」

「あぁ、おかえり」


トラと二人でゲームをして時間を潰しているとようやく出ていった三人が戻ってきた。全員まだ顔が青かったがどうやら無事なようだ。どこに行っていたかは聞かないでおいた。


「さて。次はどうしようか?」

「まだ続くのですか……?」


青い顔をしながら次を提案してくるリューと、同じく青くなっているリンの遠回しの拒絶。しかし、リューはそんなリンの気持ちは考慮するつもりはないらしい。


「んじゃ、次タケシの番ね」

「俺かよ。って、言ってもな。俺の場合はさっきも言った通り、読書の秋だよ」

「つまんなっ!」

「悪かったな」


読書は気乗りしないのか、リューは口を尖らせ、ぶーぶー言っていたが、言ったことは実行するらしい。


だが、ここには本は全然置いていない。どうするのかと尋ねようとする前にリューがこちらを見てこう言った。


「じゃ、これからタケシん家行こうか」

「何故そうなるっ!?」

「だって、ぼくたち殆ど本なんか持ってないし。読書の秋って言い出したタケシなら本一杯持ってるんでしょ?わざわざ持ってきてもらうのも悪いし、タケシの神空(いえ)に皆で行った方が早いでしょ」

「そ、それはそうかもしれないが……」

「よし決まりっ。んじゃ神速でタケシの家までレッツゴー!!」

「えっ!?いや、ちょっと待っ、いやああああああぁぁああ!?」


リューは背中から抱きついてきて、そのまま神速で俺の神空まで飛んだ。背中に何か柔らかい感触があったが、ジェットコースターなんて比べ物にならないくらいの速度の世界の中では、その感触を楽しんでいる暇は一切無かった。



「到着っと」

「はぁ、はぁ。寿命が縮まったような気がする」

「……わたしたちに、寿命というものはない」


トラの冷静なツッコミを受けながら、ようやく落ち着いた俺は見慣れた景色に目を移した。


ここは京都の北にあるとある山であり、俺の神空がある場所でもある。


「ほら。さっさと開けなさいよ」


スズメが催促してくるが、俺は少し躊躇した。


「あ、あの。せめて片付ける時間を頂けませんでしょうか?」

「駄目」


リューに即行で却下された。こうなったら一瞬で開けて神空に飛び込んでから一瞬で扉を閉じるしかない。

俺は呼吸を整えてから神空を開いた瞬間に駆け出した。と、ほぼ同時に──


「リンちゃん!タケシを確保っ!」

「えっ?は、はいっ!」


俺は全力を出して地を駆けたのだが、リンの一瞬遅れた動きにすら劣り、呆気なく羽交い締めにされた。


「離せリンっ!後生だからっ!」

「このあともほぼ永遠に近い生涯の全てをかけるほどのことなんですか?」


じたばたと暴れる俺を何の苦もなく羽交い締めしているリン。なんだか男として情けない。なんて思っていると、背中にまた柔らかい感触が。しかも先程とは比べ物にならないくらいの弾力と大きさ。そして、今度は気持ちに余裕があるせいか、意識が完全にそっちへと移ってしまった。


その間に他の三人は俺の神空へと入っていった。失態に気付いたのは、中に入った三人の第一声を聞いた時だった。


「「「……うわあ」」」



現在の俺の神空は所謂テンプレ的なオタク部屋と化していた。リンの部屋よりわずかに広いだけのワンルームは漫画、フィギュア、ラノベ、ポスター、そしてギャルゲーで埋まっていた。


「だから……。だから言ったんだ。ちょっと待ってって。数十秒だけ待ってもらえれば夢を壊さずに済んだんだ。うぅ……」

「いや。元からあんたの部屋に変な夢とか持ってないし。むしろ予想通りと言ってもいいわ」

「それはそれでなんかショックだな」


スズメの辛辣な言葉に気を落としつつ、俺はオタク丸出しの部屋から大図書館のような部屋へと神空を作り変えた。


「ひゃあ~。本だらけ」

「すごい数の本ですね。ジャンルも沢山あります」

「……これだけあれば、好きな本もある、かもしれない」

「ここで火を放てばすごいことになりそうね」

「何物騒なこと言ってんの!?やめろよマジで!!」


四人はそれぞれ興味がある本を探しに大図書館に散らばっていった。


俺も手近にあったラノベを手にとってしばらく静かに読んでいたが、ふと他の皆がどんな本を読んでいるのか気になったので、読み終えたラノベを棚に戻し、他の皆を探し始めた。



最初に見付けたのはリューだった。予想通り、漫画を読み耽っていた。


「漫画って読書と呼んでいいのか?」

「そりゃそうだよ。なんてったって本なんだから」

「でも読書の秋で言うところの本って、読書感想文とか書く時とかに読むような本なんじゃねえか?純文学とかさ」


素朴な疑問を抱く俺にリューはちっちっち、と指を振る。


「わかってないなぁ~。漫画だって名作と呼ばれる作品は多く存在するんだよ。何億冊も売れたりする漫画もあるのに、どうしてそれらを低俗なものだと言えるのさ。ぼくなら誰がなんと言おうと漫画を読んでその漫画の読書感想文を書くね!」

「そうか。別にそれでいいけど、それ絶対書き直せって言われるぞ」

「ぼく、学校とか行かないし」


元も子もない発言だった。



次に見付けたのはトラだった。ちなみにリューも面白そうだと言って着いてきている。

トラは絵本の棚の付近にいた。やはりどこか読書とは違う気がする。


「……なに?」

「いや。なんか微笑ましいなと思っただけだ」

「あざとさがないよね。それがトラちゃんの魅力というやつかな」

「……よくわからないけど、バカにされてる気がする」

「バカになんかしてないよ~。あっ、今度はこの絵本読んであげよっか?それともこっち?」

「……確信した。やっぱりバカにされてる」


頬を膨らませながらリューの提案を却下し、視線は絵本に戻った。

どうやらもうすぐ終わりらしい。かなり集中していた。


「なんだか、子供を持つ親の気分になったみたいだよ」

「実年齢子供じゃないけどな」


精神年齢はおそらく子供だろうがな、と思ったが口には出さないでおいた。

ちなみにリューの精神年齢も子供だろ、とも思った。勿論こちらも口には出さなかった。



「お前……なんて本読んでんだよ……。やめろっ!これ以上読むんじゃねえ!」

「そうだよスズメたん!スズメたんにその本は早すぎるっ!まずは冷静になって!」

「……お願いだから、やめて」

「何なのよそのオーバー過ぎる反応はっ!?」


トラも仲間に加わり、再び図書館内を歩き回っていると、あり得てはならない場所にスズメの姿を見つけ、俺たちは慌ててスズメを止めに入った。


「落ち着けスズメ。まずはその本を棚に戻すんだ。そしてこの場をすぐに離れよう。被害者が出ないように」

「被害者なんか出ないわよ。何言ってんのよあんたは」

「今は出なくてもいずれ出る可能性があるんだよ!」

「だから出ないってば」

「……許されざる愚行。今すぐやめるべき」

「トラに至っては何でそんなマジなテンションなの?!」


俺達の必死の説得を、軽く引きながら聞くスズメだったが、依然本を手放そうとしない。俺はあの悪夢をもう一度見たくないので更に説得を続ける。


「わかった。わかったから、な?まず武器を置いてゆっくりじっくり話し合おう」

「あのね……。別にあたしが『料理本』を見たっていいでしょうが」

「いいわけねえだろうがっ!!」

「全力で怒られたっ!?なんでよっ!?」

「お前、一切料理出来ねえじゃねえか!ついさっきの愚行も合わせてわかるだろうが!火を使う料理はもれなく全てを焼き付くし、包丁がないからと言って『朱雀刀』を持ち出して、やはり全てを焼き付くし、ちゃんとした包丁を使って、火を使わない料理を作らせても何をどうやったかは知らないが最終的には毒物を錬成させるお前に、その料理本を読む資格はねえ!!」

「本を読むのに資格が必要だなんてはじめて聞いたわ……」


俺の説教をスズメは真剣には聞かずにため息を吐く。


「スズメたん……。神にも向き不向きがあるんだよ。ぼくが言うのもなんだけど、料理は諦めた方がいいよ?」

「何でいつも調子のいいことばっかり言うあんたまでそんな宥めるかのような口調で言うのよ」

「……あのダークマターを、再び世に生み出してはならない」

「ダークマター言うな。ちょっと失敗して炭になっちゃっただけでしょ」

「炭の形が残るだけマシだもんな」


なんせ食べられる食べられない以前に、料理そのものが存在しないことがほとんどだったからな。


「ま、まあ。あたしもさっきのこととかでちょっとは反省したわけよ。だからこうして本読んでるんじゃない。本を読みながらだったら誰にでも料理くらい作れるわよ」

「駄目だよスズメたん。その台詞はフラグだよ。その台詞を吐いたほとんどの人は見事に大失敗して終わるんだよ」


リューは諭すようにスズメの肩に手を置き、スズメの手から料理本を取り上げる。スズメが「失礼過ぎよあんたらっ!」と文句を垂れていたが、俺達は聞く耳を持たず、首根っこ掴んで無理矢理その場から連れ出した。



「次が最後だね。つまりオチ。リンちゃんはどんな本を読んでるのかな~気になるぅ~」


と、言いながら先頭を歩くリュー。

なんだか過度な期待をしているようだった。

そして俺もリューほどではないが確かに気になっていた。口には出さないがトラとスズメも同じ気持ちのようだった。


そして、とうとう見付けたリンが読んでいたのは──



──源氏物語だった。しかも原文。


「あっ、うん……」

「あれ?皆さんどうしたんですか。なんだかどんどんテンション下がっていってないですか?」


リンは俺たちに気付き、何故か様子がおかしいことに疑問を感じた。


「はぁ。なんかガッカリ。ここでえっちい本とか読んでたらむっつりすけべぇ~とか、むっつリンちゃんとか言って煽れたのに」

「読みませんよそんな本。ていうか、何で煽ることばかり考えてるんですか」

「一応源氏物語の内容も結構アレだけどな」

「でも原文って時点でそれはあまり重要じゃなくなったわね。なんか一番ちゃんと読書してるって感じ」

「えと……。読書の秋を感じる企画、でしたよね……?」


リンはそう言って首を傾げる。そうだ。何も間違っていない。リンは本当の意味で正しいことをしている。


「ええ、そうよ。リンは何も間違っていないわ。あたし達が勝手にあなたに変な期待をしただけだから。あなたは何も悪くないから。ほんとに気にしないで」

「やめてくださいよ!そんな言われ方されたら『あれ?私何かやらかしちゃった?!』みたいになっちゃうじゃないですかっ!」


リンは不穏な空気を感じ慌て始めた。しかし、もう何もかも手遅れなのだ。


「安心しろって。誰も責めてるわけじゃない。むしろこっちが反省してるくらいだ」

「……ごめん」

「なんなんですか、なんなんですかっ!?私は一体何をやらかしてしまったんですかっ!?」

「やらかした、っていうよりかは何もやらかしてない、って感じかなぁ……。そもそも最初に変な期待したのぼくだから、ぼくこそ謝らないとね。ごめんなさい」

「あのリューさんがここまで素直に謝ったことが未だかつてあったでしょうか!?」

「だからさ。俺たちのことは気にせず、読書の続きを楽しんでくれよ。邪魔して悪かったな」

「だからやめてくださいよおおおおお!せめて説明だけでもしていってくださぁぁい!」


もうほとんど半泣き状態のリンを置いて俺達はたいしたオチも付けず、おとなしくダラダラと読書(笑)の続きを再開するのであった。

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