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暇神様は今日も京都で暇してる  作者: いけがみいるか
14/30

『鰻+お約束』

「暑いよぉもう帰ろうよ~」

「言い出しっぺが即座に何を言ってやがる。ヘタってないで歩け」


リューの提案は至って単純、鰻を捕まえに行こう、とのことだった。たぶん何も考えず思いつきで言っただけのことだろうと思っていたのだが、意外にもトラがその話に食い付き、そしてトラにはだだ甘なリンがこの話に乗ってしまい、現在、俺達は鰻を求めてこの夏の炎天下の中で、ある場所へ向かって歩いていた。えっ?飛んでいけって?亀に飛べとか何言ってんの?マジウケル。


「ごめんなさい。帰りましょう。ね?」

「……駄目。鰻、食べる」

「うへぇ~ん!トラちゃ~ん」


そんな中、何故か敬語になるまで疲れきっているリューとその懇願を切り捨てるトラは俺と同様、汗を大量に流していた。もちろん他の二人は全く平気そうだった。トラはこの中で一番暑さに弱いのに、どれだけ鰻が食べたいのか。ん?鰻と言えば最近話題にならなかったか?確か──


「鰻って、絶滅危惧種にならなかったっけ?」

「ええ、確かにそうですね」


俺の何気なく発した言葉を受け、リンが答える。


「えっ?ってことは仮に見付けたとしても捕まえちゃ駄目なの?」

「さあ?私たちは神ですから裁かれるようなことにはならないと思いますが、絶滅しそうな種を食べるのは流石に少し気が引けますね」

「……ぅぅ」

「えぇ~そんなぁ」


リンはう~ん、と考える素振りを取り、トラは残念そうな表情を浮かべた。スズメも実は楽しみにしていたようで肩を落としていた。


いくら神であろうとも命を創ることは出来ない。だから絶滅してしまえばそこで終わりである。そう思うと確かに鰻を食べたいという気持ちとしかし絶滅させてしまうのではという罪悪感の間で揺れ動いてしまう。


「んじゃもう帰ろうよ~。クーラー効いた部屋でアイスでも食べよ~」


ただ一人、こいつだけはいつも通りだった。


「ほれ。あと少しだから歩け」

「タケシ、おんぶ」

「お前な……」


俺は込み上げてくる怒りを抑えて、リューの襟元を掴んで引きずっていった。


~~~


「いつの間にかマイホーム」

「俺が途中で担いだんだよ。はぁ~あちぃ~」


あまりにも動かないもんだから途中で諦めて担いだのだった。暑くて死にそう……。茹で亀になりそうだ。


「なんかここ久し振りに来たわね」

「そうですね。最近はみんな私のところに来てましたし」

「……川。涼しい」


俺達が来たのはリューの神聖空間(しんせいくうかん)が存在している、とある川だった。俺はとりあえず、川に飛び込んだ。


「な、なんで急に飛び込むのよ!?ビックリするでしょ!」

「いや、マジで暑かったからさ。あぁ気持ち良い~」


水属性なのに全然暑さに強くない俺は川で体力を回復させていた。

俺が一人、川で浮いているとリューが自分の神空を現出させていた。どうしたのだろうか?この川で鰻を取るんじゃないのか?


「何してんだ?」

「いやね。さっきまで忘れてたんだけどぼく、神空内で鰻いっぱい飼ってるんだ」

「なんでそんな重要なこと忘れてたんだよっ!?」


な、なんというご都合主義なのか。だが、これなら絶滅危惧とか密漁とか心配しなくてすむな。


「まあ、なんでもいいわよ。気兼ねなく鰻が狩れるなら」

「……うなぎうなぎ」

「トラちゃんのために頑張りますよ~」

「すごい腹減ってきたわ。よし。じゃ早く行こうぜ!」


俺達は早速リューの神空(しんくう)に入っていった。


「ふへへへへ」


この時、俺達の頭の中には鰻のことで一杯だったせいか、それとも暑さのせいか、実に単純なことを忘れていた。

リューはトラブルメイカーなのだということを。


~~~


リューの神空は日本庭園のような形をしており、かなり広い。といっても別に不思議なことではない。神空は(あるじ)の意思と力によって自在に姿も広さも変えることができる。六畳しかないリンの神空の方が特殊なのだ。


その中にある大きな川にやって来た。川を覗き見るとそこにはいるわいるわ。大量の鰻が泳いでいた。


「……ここまで大量にいると逆に食欲無くすわね」

「あ、あはは……」


案の定、スズメとリンは少し引いていた。

が、トラだけは怯むことなく川に入る。


「……おいで『白虎砲』」

「えっ?」


そしてなんの前触れもなく、いきなりトラは己の魂である神器(しんき)を喚び出し、鰻に向かって構えた。


「ちょちょちょちょっ!!?トラちゃん!それはないよ!ないない!ないって!それにそんなので撃ったら木っ端微塵だよ!?食べられないよ!?」

「……む。それは駄目」


リューは大袈裟なまでに慌てながらトラを止めた。トラも気付き、反省したのかすぐに神器を消したので、リューは大きく安堵の息をはいた。


「なら早く釣竿でも出しなさいよ。ここ、あんたの神空なんだしできるでしょ?」

「なに言ってるのさスズメちゃん!そんなの鰻に失礼だよ!」

「えっ?何であたし怒られてるの……?」


何故かリューは大声でスズメを叱咤した。


「鰻と言えば!手掴みでしょ!」

「な、なんでよ!?別に釣りでも──」

「シャラップ!ここはぼくの神空だよ?だからぼくの考えたルールに従ってもらうからね」

「う~ん?一理、あります、かね?」

「……別になんでもいい」


この時、ようやく俺はリューの企みを理解した。そのことを口には出さずに俺はリューの方をじっと見る。あの目、いつものイタズラを考えている時の目だ。あの口、これから起こる出来事を予想して、にやけそうになるのを必死に堪えている時の口だ。そしてリューの手にはあるモノがしっかりと握られていた。


ふと、リューはこちらを振り返った。俺の目を見て自分の企みが俺にバレたことを瞬時に悟ったリューは指を三本立てて見せた。


俺は首を振り、五本の指を立てる。リューは少し悩み、四本の指を立てた。まあ、この辺りで妥協しておこう。俺は了承の合図として親指を立てた。


~~~


「さて始まりました第一回鰻掴み大会。実況はぼくリューと、解説の~」

「タケシです」

「はい。では今大会は、この二人でお送りしていきたいと思いま─」

「何をしてんのよあんたたちは?」

「というかいつの間にこんなセットまで」

「……りゅー、どうゆうこと?」


いきなり始まった鰻掴み大会にスズメもリンもトラも何が何だかわからないようだ。実を言うと俺もまだよくわかってない。なんか解説者になってるけど。リューは自分が創ったセットに上がり、今回の趣旨を発表した。


「ぼく思ったんだよ。ただ普通に鰻を取るだけって全然面白くないって。だから勝負形式にしようと思ってね。ルールは簡単。鰻を多く捕まえること。勝者には豪華賞品プレゼント~」

「や~よ。めんどくさい」

「んじゃ負けるのが怖いチキンなスズメちゃんは参加しなくていいよ。リンちゃんとトラちゃんの一騎討ちってことで」

「誰がチキンよ!やってやるわよ!!優勝してやるわよ!!」


簡単に乗せられてるスズメ。それを見て苦笑いをするリン。そんなのお構い無しに川の鰻をにらみ続けるトラ。この三人による鰻掴み大会が始まった。


~~~


──そして、たった数分で終了した。否、強制終了させられた。


~~~


「ひどい……ひどすぎる……こんなの、こんなのってないよ。あんまりだよ」

「ちょっと泣かないでよ」

「いや。でもこれは流石にやり過ぎではないかと思いますよ」

「スズメさんマジぱねぇ!」

「……ぱねぇ」


ついさっきまで日本庭園のように美しく清らかだったリューの神空は、今は見る影もなく、完全に干上がってしまっていた。


と、いうのも──


~~~


「んぎゃわっ!」


スズメは大きく足を滑らせ、思いっきり転んでいた。

水浸しになったスズメの服は肌に貼り付き、妙に艶かしい。


「おおぅ!鰻さん早速いい仕事しますね流石です旦那。ゲヘヘ。で、どうです?実況のタケシさん」

「そうだな。まずその笑い方やめてくんない?隣に座ってる俺まで品格疑われるだろ」


どうやら聞くところによると、リューの神空内にいる鰻は独自の進化を遂げているらしく、リューの言うことならなんでも言うことを聞くらしい。そして先程鰻たちに「あの三人をめちゃくちゃにしてやって」と命令していた。俺は見て見ぬフリをした。


「ひゃあっ!?ど、どこに入ってるんですかっ!?」

「……うにゅ、ぬるぬる、キモい」


スズメだけでなく、リンもトラもだいぶ苦戦しているようだ。鰻達は二人の体にはぬるぬるうねうねと絡まり、なんともやらしい感じになっていた。

っていうか、どこに入ったんだ?そこんとこ詳しく!


「ゲフ、ゲフフフフ。いいねいいねぇ~。どんどん行こうか」

「……俺は何よりお前がキモいよリュー。お前が男だったら間違いなく捕まってるだろうな」


俺が言うのもあれだがリューがだいぶ気持ち悪い。せめて口に出すなよ。俺みたいにモノローグで喋れよ。そうすりゃバレないから。


そんなことを考えているとまたスズメが盛大に転んでいた。どうやら鰻達はスズメだけはぞんざいに扱っているようだった。


理由はよくわからない。鰻の気持ちなんかわからないからな。だが、あの鰻が雄だというなら少しだけわからなくもない。あんな絶壁──もとい慎ましすぎる胸のスズメなんかの相手をいちいち真面目にしていられるわけもないからな。


鰻達は足下に入り込み足を滑らせる、という行動を続けている。あれはあれで面白いな。なんてその時は思っていた。


スズメに異変が起こったのは五度目の転倒の時だった。


「ふっ、ふふふ、あはははははははっ!!………………燃やす」


急に笑いだしたかと思うと、また急に黙り込み、そして虚ろな眼でそう言った。


スズメがぶちギレた。


~~~


そして、描写したくないほどの熱量を宿したスズメは己の神器『朱雀刀』を喚び、川に向かって全力を叩き込み、一瞬で川が蒸発。異変に一足先に気付いたリンはトラを抱えて飛び上がっていたので無事だったが、鰻は無惨な結果と相成ったのであった。


「形が残ってるだけでも奇跡だな。流石は神空内で育った鰻だな」

「……むぐむぐむぐ」

「トラちゃん?鰻をそのまま食べるのはどうかと」

「……いい感じの焼け具合」

「そ、そうなんですか?まあ、トラちゃんが満足ならそれでいいんですけど」


なんだかよくわからない結果になったが、当初の目的である鰻の確保だけは出来たようなので良かった。……良かったのか?

この鰻達は全部、責任をもってスタッフ(スズメ)が美味しく頂きます。


「うなぎ、全滅、神空、焼け野原」

「ご、ごめんってば」


リューは落ち込む──フリをしてスズメを困らせていた。だが、このことに関してだけ言えばスズメが全面的に悪いので教えてはやらなかった。


「……帰る」

「もうですか?まだ蒲焼きとか食べてないですけど」

「……満足したから、いい」


あれでか?トラの好みがわからん。が、リンはトラが良ければなんでもいいらしい。


「それじゃ帰りましょうか。スズメさん、リューさん、タケシさん」

「ん。先に帰ってて。ぼくはここ片付けてから帰るから」

「じゃ、じゃああたしも手伝っ──」

「んにゃ、いいよ別に」

「そ、そう……?わ、わかったわ」


沈んだ表情のまま言うリューにスズメもこれ以上は余計だと思ったのか、すぐに引き下がった。代わりに俺が残る、と言ってリン達を先に帰らせた。


~~~


「……ふっふっふ。うまくいったね」

「みたいだな。で、そっちは大丈夫なのか?スズメの炎で壊れてたりしてないのか?」

「平気平気。耐熱仕様だから」


その程度で耐えられるような炎ではなかったのだが、どうやら本当に無事だったようで、俺達は早速中身を確認した。


「よく撮れてるじゃねえの」

「でしょ?ちょっと短めなのが残念だけど。これバレないように撮影するの大変だったんだからね」

「これなら確かに売れそうだな」

「でもタケシ。売り上げの四割を貰うとかひどくない?頑張ったのぼく一人だけなのに」

「バラされたら六割どころかリンの全力お仕置きの刑なんだから、贅沢言うなよ」

「まあ、そうだけどさ~」


俺達はリューのカメラで撮影された写真や動画を確認しながらいくらで売れるかの相談を始めた。


「これくらいなら2000、くらいは取れるんじゃね?」

「いやいや。ぼくなら4000でも売れると思ってる」

「へえ。結構お高いんですね」

「そうか?まあ、俺もそれくらいでも出せるけど、あんま高すぎるとだぞ?しかも実質リンとトラの二人だけで、スズメはギャグ担当みたいだし」

「誰がギャグ担当ですって?」

「でも確かにトラちゃんも所謂マニア受けするタイプだし、だったら間を取って3000かな」

「……まにあ?」


ん?さっきからここにいないはずの人達の声が聞こえてくるような。


俺達は画面から目を離し、後ろを振り向く。


とびきりの、満面の、素晴らしいくらい眩しい笑顔を携えたリンがそこに立っていた。その脇には怒りの表情を露にしたスズメと、よく状況がわかっていないトラの姿もあった。


「ど、どうやってここに?神空に入るための扉は閉じたはずだけど?」

「こじあけました」


あくまで笑顔を崩さないリン。簡単に言うが、それは空間をねじ曲げることとほぼ同義なのだが、事も無げに言ってのけるリンに心底恐怖した俺達は


「「こいつが主犯ですっ!!」」


同時に今回の罪を相手に擦り付けあった。だがもちろん無駄だった。


「どちらが主犯だろうと特に関係はありません。では被告玄武。判決、有罪。ではスズメさん。トラちゃんお願いします」


その判決を聞き終える前に俺はすぐさまその場を全力で離れた。が、亀の足で逃げ切れるわけもなく、リンに背中の甲羅を破壊され、その後、燃やされ切り裂かれ砕かれた。


「あ、あわわわわっ!」

「では、被告青龍。判決、有罪。刑は、そうですね。──龍ってどこか鰻に似てますよね。なので、蒲焼きの刑で♪」


リンの笑顔が怖かった。リューも全力、神速で飛んでこの場を離れたのだが、あえなくリンに撃墜された。そのあとスタッフが(以下略





反省文──反省している。後悔もしている。今度はもっと上手くやる。byリュー


全くもって反省していないようだった。


~~~


──後日


「ところで豪華賞品ってなんだったのよ?」

「肩叩き券」

「小学生かあんたはっ!それのどこが豪華賞品?!」

「だって!神様の肩叩きだよ?豪華すぎるでしょ」

「あたしだって神様ですけどっ?!なんで人間目線の豪華賞品なのよ!」

「じゃあ鰻一年分でもいいよ」

「いらんわ!当分、鰻はこりごりよ……」

「うん。ぼくも、そうかな……ははっ」


そんなどこか遠い目をしている二人を横目で見ながらリンは今日も今日とて番茶をすする。


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