『四季+α 』
「あ"あ"あ"ぁ"~。あっついよぉ……」
「……死ぬ、ぅ」
「俺、この甲羅が乾ききったら死ぬかもしれない」
「神はこんなので死なないわよ。あとタケシのそれはあれでしょ?河童の頭の皿の話でしょ?亀はむしろ体冷やしすぎた方が死ぬでしょ」
「詳しいんですねスズメさん」
──夏。暑苦しい夏の季節。リュー、トラ、俺は三人卓袱台の上であまりの暑さに項垂れていた。
そんななか、平然としているのはスズメとリンの二人だけだ。何故、特殊空間にいるにも関わらず外の暑さが伝わってきているのかというと
「情緒があっていいじゃないですか。ちゃんと暑さを感じてこその夏ですよ」
とはリンの言葉だ。部屋の主であり、今は俺達のリーダーであるリンの言うことは聞かなければならない。だがそれにしても限度があった。
「リン、後生だ。クーラー出して……」
「お断りです♪」
「ひ、ひでえ……」
「リンちゃん……ぼくからも頼むよぉ~」
「駄目で~す」
「うぅ~、リンちゃんのいけず~」
全く取り付く島もないとはこのことだ。俺達が再び卓袱台の上に伏せると、次にトラがリンに言った。
「……りん、お願い」
「はいっ。わかりました」
「「納得いかねえっ!!」」
リンはさっと手をかざし、六畳の神空内にクーラーを出現させた。
が、俺とリューは一瞬だけ暑さを忘れて立ち上がっていた。俺達の懇願はことごとく却下したというのに、トラの一言であっさりと前言を撤回したことに憤慨していた。
「え?なにか、文句でも?」
「「いえ。文句なんて全くありません!」」
しかしその怒りはすぐに治まった。というよりかは黙らないとホラー体験よりも恐ろしい目に会いそうだったからすぐにこちらが折れた、と言った方が正しかった。それに結果的には俺達の望みが叶ったわけだし、余計な波風は立てないでおこう。
け、決してリンの声がだんだん低くなっていったことにビビったわけじゃないんだからねっ!
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「それにしても、よくあんな暑さの中で平然としてられるよなお前ら」
クーラーが効いてきてようやく暑さが引いてきたので余裕が出てきた。
「あたしはそもそも暑さに強いからね」
「まあ、私は慣れてますから」
そういやスズメは火を司る神だし、それも当然か。リンは、まあ、チートだからな。
そんなチートキャラであるリンは思い出したようにこう言った。
「それにスズメさんは夏という季節自体も司ってますからね」
「え?そうなの?てことはぼく達にも何かあるの?」
リンの言葉にリューが食いつく。
「はい。ありますよ。リューさんは春、トラちゃんは秋、タケシさんは冬です」
「これはまた、属性みたいにそれぞれ違ってるんだな」
そうか。俺、冬を司ってるのか。でも思い出してみると確かに冬の方が過ごしやすい気がする。それってこういう理由があったのか。知らんかった。
「ぼく春なんだね。一番好きな季節だよ!」
「……秋、良い」
「あたしも夏が一番だわ」
それに皆もそれぞれの季節が一番好きなようだった。……ん?あれ?でも、これって……
「で、リンちゃんは、ってあれ?」
「ね、ねえ春夏秋冬全部出てるってことは……」
「……四季、つまり四つしかない。じゃありんは……」
俺達は全員リンの方を見る。そのリンは顔を反らしながらクーラーの効いている部屋にいるにも関わらず汗を流していた。
「あ、ええ、えと、ですね。い、一応私にも、あるといえば、あるんですが」
どこかぎこちない口調になっているリンに不信感を抱く俺達。そもそも四季なのだからリンが司る季節なんてないのではないのか。俺達の視線を一身に受け、リンは観念したように話し始めた。
「そう、ですね。実は、私が司っているのは、その、土用、なんです」
土用……?それって──
「「「「………… うなぎ?」」」」
「絶っっっっ対言われると思いましたよっ!!ええ!そうです!その土用ですよ!!」
四人の声は綺麗にハモり、リンはうっすら涙を浮かべながら叫んだ。
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「そもそも土用って何の日なんだ?」
「さあ?鰻食べる日ってイメージしかないよ」
「ま~たあんたたちはそんなことを」
「……でもどうせすずめも知らないんでしょ」
「うぅ、どうせ影薄いですよ……。鰻以下ですよ私なんて」
別にそんなことは一言も言っていないのだが、どうやらリンは一人だけ季節らしいものを司っていないことを気にしていたらしかった。いや。いいと思うよ。だって土用、って言われると鰻、って出てくるくらい浸透してるような日なんて珍しくて。
しばらくしてようやくいつも通りに戻ったリンにお約束のお勉強タイムを開いてもらった。
「そもそもまず、この間説明した五行では、春に木気、夏に火気、秋に金気、冬に水気を割り当てているんです。そして残った土気は季節の変わり目に割り当てられるんです。それを土用と呼ぶんです」
「ってことは、別に特別な行事があるわけじゃないってこと?」
「……ええ、まあ」
あっ、またちょっと沈んだ。あまり刺激しないであげよう。
「でも何で鰻食べるようになったんだろうね?」
「諸説ありますが、確かなのは夏バテ予防のため、といったところでしょう。あと、丑の日なので、『う』と付く食べ物が良いとされていたそうですよ。今ではそれこそ鰻しか知られていませんが」
「……なんだか、こんな話ばっかしてたから、鰻食べたくなった」
「あぁ俺も」
「じゃ取りに行こうか!」
「「「「え?」」」」
リューの発言に、俺達は疑問符を浮かべることしか出来なかった。