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 互いの正体が発覚して以来、アンとメアリーは、親友と言っていいほどに親しくなっていた。

 メアリーのみたところ、アンはさっぱりとした気持ちのいい性格で、友人とするには素晴らしい相手であった。ただ、自分が男だったら、こういう気の多い女とは絶対つきあいたくない、とも思ったが。

 それからしばらく、彼らは海賊の仕事に励んだ。

 メアリーとアンの働きはぬきんでており、剣をとっても銃をとっても二人にかなう者はなく、真っ先に敵船に斬りこむのも、最も勇敢に戦うのも、常にこの二人であった。

 そのうち、アンの腹が大きくなってきた。

 時期からしてラカムと知り合う以前の種だが、なにしろアン・ボニーという女のことだけに、父親を特定することは困難であった。

 アンとメアリーとラカムは三人で相談して、他の仲間がアンの正体に気付かぬうちに、キューバに住むラカムの知人にアンを預けることにした。

 「元気な子を産むんだよ」

 別れ際、メアリーは言った。

 「女の子だったら、メアリーって名付けるよ」

 「やめときな、ロクな人間にならない」

 「そんなことないさ。きっといい女になるよ」

 「男だったら、もちろんジョンかジャックだよな」

 ラカムが口を挟んだ。

 「男の子だったら、エドワードにするよ」

 「おいおい」

 こうして、彼らはアンとしばし別れることになった。

 すると、想像した以上に寂しいと感じている自分を発見し、メアリーは驚いた。アン・ボニーは彼女にとって、自分が思うよりもはるかに大きい存在になっていたらしい。

 気分も沈みがちなある日、捕らえた船に乗っていたジョン・ブラウンという男が、エドワード――メアリーに訊いたことがあった。

 「おまえさん、なんで海賊なんかやってるんだね」

 「あん?」

 「みたところいい男なんだから、他にいくらでも仕事があるだろうに、なんでよりにもよって、常に死の危険と隣り合わせで、運良く生きのびておかに上がっても、捕まったら今度は絞首台が待ってるような、そんな稼業を続けてるんだい?」

 気分のささくれ立っている彼女には、面倒くさい質問であった。彼女は投げやりに答えた。

 「縛り首なんか大したこっちゃねえよ。それがなきゃあ、どんな臆病者だって海賊になっちまって、海が海賊であふれちまう。そうすりゃ商人も俺たちも干上がっちまって、みんな仲良く野垂れ死にだ。縛り首大いに結構、バンバンザイだね」

 神ならぬ身のメアリーには、この時のどうでもいいような会話が、のちに重要な意味を持ってくることなど、知る由もなかった。

 もしも半年後に同じ質問を受けていたら、彼女はこう答えていただろう。

 全くその通り。本当は、一刻も早く海賊をやめたいと思ってるんだ、と……。


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