七
互いの正体が発覚して以来、アンとメアリーは、親友と言っていいほどに親しくなっていた。
メアリーのみたところ、アンはさっぱりとした気持ちのいい性格で、友人とするには素晴らしい相手であった。ただ、自分が男だったら、こういう気の多い女とは絶対つきあいたくない、とも思ったが。
それから暫く、彼らは海賊の仕事に励んだ。
メアリーとアンの働きはぬきんでており、剣をとっても銃をとっても二人に敵う者はなく、真っ先に敵船に斬りこむのも、最も勇敢に戦うのも、常にこの二人であった。
そのうち、アンの腹が大きくなってきた。
時期からしてラカムと知り合う以前の種だが、なにしろアン・ボニーという女のことだけに、父親を特定することは困難であった。
アンとメアリーとラカムは三人で相談して、他の仲間がアンの正体に気付かぬうちに、キューバに住むラカムの知人にアンを預けることにした。
「元気な子を産むんだよ」
別れ際、メアリーは言った。
「女の子だったら、メアリーって名付けるよ」
「やめときな、ロクな人間にならない」
「そんなことないさ。きっといい女になるよ」
「男だったら、もちろんジョンかジャックだよな」
ラカムが口を挟んだ。
「男の子だったら、エドワードにするよ」
「おいおい」
こうして、彼らはアンと暫し別れることになった。
すると、想像した以上に寂しいと感じている自分を発見し、メアリーは驚いた。アン・ボニーは彼女にとって、自分が思うよりもはるかに大きい存在になっていたらしい。
気分も沈みがちなある日、捕らえた船に乗っていたジョン・ブラウンという男が、エドワード――メアリーに訊いたことがあった。
「おまえさん、なんで海賊なんかやってるんだね」
「あん?」
「みたところいい男なんだから、他にいくらでも仕事があるだろうに、なんでよりにもよって、常に死の危険と隣り合わせで、運良く生きのびて陸に上がっても、捕まったら今度は絞首台が待ってるような、そんな稼業を続けてるんだい?」
気分のささくれ立っている彼女には、面倒くさい質問であった。彼女は投げやりに答えた。
「縛り首なんか大したこっちゃねえよ。それがなきゃあ、どんな臆病者だって海賊になっちまって、海が海賊で溢れちまう。そうすりゃ商人も俺たちも干上がっちまって、みんな仲良く野垂れ死にだ。縛り首大いに結構、バンバンザイだね」
神ならぬ身のメアリーには、この時のどうでもいいような会話が、のちに重要な意味を持ってくることなど、知る由もなかった。
もしも半年後に同じ質問を受けていたら、彼女はこう答えていただろう。
全くその通り。本当は、一刻も早く海賊をやめたいと思ってるんだ、と……。