十三
一七二〇年十一月十六日、ジャマイカへ連行されたラカム一味は、セント・ジャゴ・デ・ラ・ヴェガにおいて裁判を受けた。
ラカムの逮捕は人々を驚かせたが、それ以上に耳目を集めたのは、法廷において明らかになった、最後まで勇猛に戦った二人の強者が、実は男ではなく男装した女だった、という事実であった。
ラカム以下九名が死刑判決を受け、後日行われた裁判でも、更に数名が有罪判決を受けた。
ウォルター・スコットは、メアリーの言葉通り、ラカムの仲間になった経緯とその後の行動が斟酌され、無罪となった。メアリーがそれとなく援護の証言をしたことは、言うまでもない。
メアリー・リードとアン・ボニーの両名については、日を改めて裁判が行われることになった。
翌十七日、ラカム処刑の日の朝、アンはラカムに面会した。
アンは会いたくなかったのだが、メアリーの勧めで、会うことにしたのだ。
「今さら会ってどうするんだい。あんな男、面も見たくないね」
「文句を言うだけでもいいんだよ。どんな男だろうと、お腹の子にとっては父親なんだろう? 最後に顔くらい見ておいてやんな」
それを言われると弱い。アンの腹の中には、ラカムの子が宿っていたのだ。
アンの顔を見ると、さすがにラカムはバツの悪そうな顔をした。
「ドジっちまったぜ……キャリコ・ジャックともあろう者がな」
と、自嘲するように言う。
「あんたはドジっちゃいないよ、ジョン」
アンは、感情のこもらぬ声で言った。あるいはそれが、最大の侮蔑の表現だったのかもしれない。
「アン……」
「あんたは意気地が無かったのさ。勝てない相手じゃなかった。もしあんたが男らしく戦ってりゃあ、犬みたいに首を吊られることもなかったんだ。あたしらが捕まることもね」
ジョン・ラカムは、ポートロイヤルのギャロウズ・ポイントで処刑され、亡骸は見せしめのため晒しものにされた。
一七二〇年十一月二十八日、メアリーとアンの分離裁判が行われた。
二人の女性の波瀾に満ちた生涯も、ここで語られるところとなった。ただしメアリーは、彼女の愛した男の名については、ついに答えることはなかった。
メアリーの境遇や海賊になった経緯は人々の同情を誘い、一時は無罪も有り得るかと思われたが、一人の男の証言によって、その空気は一変した。
かつてラカムらに捕らえられていたジョン・ブラウンという男が、メアリーと交わした会話について語ったのだ。「縛り首など大したことではない」などといったメアリーの言動が、挑発的で反社会的と取られた。
メアリー・リードとアン・ボニーには、有罪判決が下されたが、二人は妊娠中であることを理由に、刑の執行の延期を願い出た。
事実であることが検査により確認されると、二人の請願は容れられた。
ウォルターは、毎日のように監獄を訪れ面会を求めたが、メアリーは、知らない男だ、と一度も会おうとはしなかった。
一七二一年四月、メアリー・リードは熱病を発し、産褥で死亡した。享年二十八歳。
後日、父親の尽力により少し前に釈放されていたアンのもとを、一人の老婆が訪ねてきた。
亡きメアリー・リードから、預かったものがあるという。
手渡されたのは、生まれることなく母親とともに埋葬されたはずの、メアリーの子供だった。
死と出産の床で、メアリーは助産婦をしていた老婆に事情を話し、子供は死んだことにして、内密にアン・ボニーにその子を渡してほしいと頼んだのだという。彼女なら、きっと悪いようにはしないからと。
女海賊ではなく、ひとりの母親の真摯な願いに、老婆の心は動かされた。
「あの娘は、最後までダンナの名は……?」
「ええ、言いませんでした」
不意に、アンは笑い出した。
何がおかしいのかと老婆が訝しんでいると、アンの眼から、大粒の涙が零れた。
メアリーが死んだと聞いても涙を流すことなく、弔いの酒をくらうだけの日々を送っていたアンが、初めて泣いた。
笑いながら、泣いていた。




