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自作小説倶楽部 第6冊/2013年上半期(第31-36集)  作者: 自作小説倶楽部
第36集(2013年6月)/「雨」&「スイーツ」
61/63

06 かいじん 著  雨 『モモンガの日』

 2013・6・29 防衛省――東京・市ヶ谷――日本 

 本庁舎内で一人で廊下を歩いて来る制服姿の陸自幹部・制服の肩の部分には1尉(大尉にあたる)の階級章……彼の名は狩野一馬 陸上自衛隊幕僚監部内 情報課 特別調査班の調査員である。彼は廊下を歩きながら数日前に行われた(ある会議)の様子を回想している。

   ・・・

(回想シーン)

 会議室の様な場所に、数人の陸自幹部が集まっている。中央にいる1佐の階級章を付けた男が何やら説明を行い、左右のテーブルに座った幹部達がその説明に聞き入っている。説明を行っているのは甘賀崎一等陸佐陸幕監部情報課特別調査班の班長である。

「現在の所、私の手元に届いている(キティちゃん)に関する情報は以上である」

 甘賀崎1佐はそう言った後、それまで手にしていた書類をテーブルの上に置き、それからテーブルの上に両肘を付いて手を組み合わせた。

「今の説明を聞いて、解かってくれたと思うがもし我々が、この一件の処置を誤れば、それがわが国の国土防衛に与える影響と言うのは計り知れない物がある……」

「……」一同は沈黙した。

「ばってん、問題は……」特別調査員の一人丼宅1尉が、口を開いた。「その(キティちゃん)ば、今現在、日本国内におりんしゃらん言うこつばいね」

「その通りだ」甘賀崎1佐が言った。

「つまり我々(自衛隊)の人間が、自ら、かの国に、乗り込んで行動すれば、最悪の場合、深刻な外交問題にまで発展する恐れがある。そこで……だ」甘賀崎1佐はそう言って一同を見渡した。

「私はこの一件の解決は外部の人間に依頼するのが最善の方法だと、考えている。」

「!」その言葉を聞いた瞬間、一同の表情に驚きの表情が走った。

「外部の人間と、言うのはつまり……」

「もちろん、(プロ)に問題の解決を(依頼)すると言う事だ」

 一同は互いに顔を見合わせていたが、しばらくの間は誰も言葉を発する者がいなかった。

(回想シーン終わり)

   ・・・

 会議室に前回と同じメンバーが顔を揃え二回目の会議が開かれている。現在、丼宅1尉が席から立ち上がって報告を行っている。

「オイは、ここ数日、デューク東郷に接触しようと八方、手を尽くしたばってんが、駄目でしたばい。彼は今週、イタリアからニューヨークに渡ったと言う消息までは、掴んだっちゃけど、今はまた、フランスに入国した言う話ですばい」甘賀崎1佐は報告の間、腕を組み目を瞑って黙って聞いていたが、報告が終わると目を開き、残念そうな、表情を見せた。

「ふむう、やはり、突然の事で、ゴルゴの様な売れっ子に接触するのは難しいと言う事か……」

 甘賀崎1佐はそう言って大きなため息を吐いた。丼宅1尉に続いて、今度は、その隣に座っている恵比寿2尉が立ち上がり、これまでの活動報告を行った。

「私が以前報告した通り、(キティちゃん)には、(猫娘)の異名を持ち、(小悪魔)であると言う噂が

ある事が解かっています」

「そこで、私はこの方面のプロフェッショナルとして知られている(鬼太郎)氏に接触すべく、全力を挙げて調査して参りましたが、残念ながら今日に至るまで(鬼太郎)氏の消息も、(妖怪ポスト)の所在地も

まだ、掴めておりません」恵比寿2尉はそう言って報告を終えた。

「そうか、それは残念だが仕方無い。取り合えず、これまでの活動、ご苦労だった」

 そして、私が報告する、番がやってきた。私は立ち上がり、甘賀崎1尉に向かって(室内の敬礼)を行った。

   ・・・

(三日後)

 千葉・北流山7丁目児童公園――日本

 私は指定された、公園内のすべり台の下で、腕時計に目をやった。

 もう約束の午後3時からは三十分以上時間が過ぎているが、市川市会議員のプリティ○島氏から紹介された、その男は、まだ姿を現さなかった。 

「いわゆるプロフェッショナルと言うのは、タイムにベリーシビアなんですね、ハイ」ですから、プロミスのプレースには、早めにサッと行って、パッと待っている。これがいわゆるひとつのセオリーなんですね、ハイ」私は議員から受けた忠告を思い出した。何か私の方の手配に何らかの落ち度があるのだろうか? しかし、この時間と場所を指定して来たのは、あちらの方からなのだ。とすれば、(彼)の方に何らかの(アクシデント)が生じたと言う事なのだろうか? 私はあれこれと、考えを巡らせてみたが、もちろん真相は全くわからない。そもそも我々は(彼)の顔すら、全く知らないのだ。議員も、そこまではよく知らないらしい。

 我々は、この依頼に先立って、伝手を通じ内調(内閣調査室)、米軍関係その他の機関に(彼)に関する照会を行った。しかし、送られて来た、どの回答を見ても、そこには(NO FILE)、もしくは全ての欄にANK(Anknown=不明)の文字が並んでいるばかりだった。「要するに、まだどこにも面の割れていない、(ニューフェイス)と言う事なのだろう。

 私の上司である、陸幕監部情報課 特別調査班長 甘賀崎1等陸佐は言った。私は何と無く思うのだが、その様な人物に、今回の(仕事)を依頼して、本当に大丈夫なのだろうか? 我々は、この(仕事の依頼)の為に、五千万円の報酬を用意して、その他に三百万円の仲介料を、既に議員に渡している。

「いわゆるひとつの、(票は金なり)なんですね。ありがたく受け取っておきますです、ハイ」議員は、そう言いながら、私が差し出した封筒を胸ポケットにしまった。

「……ところで、その(彼)と言うのは、腕の方は本当に確かなんでしょうか?」私はその時、もう一度念を押してみた。

「彼は、(俺にやれない様な仕事なら、他の誰にも依頼しようとは思わない事だ。)と言うのが、口癖らしいですからね、ハイ」

「彼ならきっと、メイクミラクルを、起こしてくれるでしょう。いわゆるひとつの、(これなら安心)ですね、ハイ」 議員は、そう言いながら、部屋の壁に掛かっている大きな姿見で、バッティング・フォームのチェックをやり始めた。

   ・・・

 まあ、今更あれこれ、考えてみても仕方の無い事だ。もはや事態の歯車は、動き始めてしまっているのだ。その結末がどの様なものになるのかは、今は誰にもわからない。私に出来るのは、その時までに、私が直面する事態にベストを尽くす事だけだ。

「まあ、その辺はあんまり、気にせんでよかばい。どうせ金は、国税から出とるったい」特別調査員主任の丼宅1尉は、言った。・・・それにしても、約束の時間から、もう一時間がたとうとしている。もう今日は(彼)と接触出来ないだろうと、思い始めた頃公園の入口に、人影が現われた。

   ・・・

 千葉・北流山7丁目児童公園  ー日本 (続き)

   ・・・

ACT1・(男は遅れてやって来た!)

 その男は、私の姿を認めると、ゆっくりとこちらに向かって歩いて来た。何と無く誰かを真似た様に、短く揃えられた髪に白のスーツに身を包んだ男、連絡で知らされた通りの風貌、間違いない。彼こそが(モモンガ)と言われているスナイパーなのだ。彼は左手に アタッシュケースを持ち、右手に持った

ガリガリ君を齧りながらゆっくりと近付いて来た。

「陸上自衛隊幕僚監部の狩野だな」彼が言った。一時間も遅れて来た割には、それについては一言も無く、横柄な口調だった。

「ええ、そうです。私は陸幕監部の狩野と申します。」

「失礼ですが、あなたが、今回の(仕事)を引き受けてくださる

(モモンガ)さんでしょうか?」  

 男はその質問に、言葉では答えなかったが、その視線は否定してはいない様だった。  

「正直な所、今日はお会い出来ないのかと、

思い始めておりました。」

「路線バスの時間と言うのは、本当にいい加減なものだ」  

彼は言い訳した。  

「そうだったんですか、いや、何と無く、ここへ来るまでのバスは車の少ない、本通りから外れた、町外れの道を走って来るので、時間が遅れる様な事はあまり無さそうな気がしていたのですが……」

「冗舌なおしゃべりは、その位にして、早速、本題に入って貰おうか」彼は、そう言って先を促した。  

   ・・・  

「これが、そのターゲットの顔写真です」私はそう言って、上司の甘賀崎1尉から預かった、(キティちゃん)の写真を差し出した。  

「先程説明した、防衛大臣、統幕議長、陸海空各幕僚長が写っている、(あまりにも恥ずかしい動画)が、もし世間の 明るみにでれば、防衛省と自衛隊は、大変な恥をかく事になるし、何より隊員達の士気に関わって来る」  

「しかも、大臣までもが絡んでいるとなると、事は防衛省だけの問題に留まらない・・・」  

「この一件は、防衛省の体面に関わる事なので、上層部は内部だけでの始末を望んでいた様なのですが、困った事に(キティちゃん)は既に国外に出国してしまっている…」

「そう言うわけで、今回、我々は、(キティちゃんと写真)の(始末)をあなたに、依頼する事になったのです。」

「どうでしょう、モモンガさん、引き受けて頂けるでしょうか?」  

(モモンガ)は標的の写真から、私の顔に視線を移したまま押し黙っている。

「まだ話は、全部終わっていない筈だな?」しばらくして彼が口を開いた。

「?」私ははじめ何の事か、よくわからなかったが、やがて彼が、言っている事の、意味が理解出来た。

「もちろん、もし引き受けて下さる場合は、事前に連絡を受けた通り、報酬は全額、前金でお支払い致します」  

「わかった、やってみよう」彼はそう言って、手に持ったガリガリ君の棒を投げ捨てた。私は彼が投げ捨てた、アイスの棒を拾い上げながら、夕暮れの中を去っていく、彼の後ろ姿を見送った。  

   ・・・  

ACT・2 (降りしきる雨の中、やがて標的は現われた)

2006年12月下旬  東アジア・某国山中

空は一面、厚い雲で覆われ、山中には大粒の雨が降り続けている。山々の谷間に沿って続いている道を、一台の白い乗用車が走っている。

 低い雲がたれ込めている為に、更に薄暗くなっている、鬱蒼とした谷間の道を、キティちゃんは車を走らせ続けた。フロントガラスを、大きな音をたてて雨粒が叩き続けそれをワイパーが忙しなく払い続けている。その音とこの車のタイヤが上げている、水飛沫の音が車内にずっと続いている…  キティちゃんは手元の袋からよっちゃんイカを取り出し口に含んだ。その酸っぱさが×の口を*にした。彼女の隣の助手席には、B4サイズ程の厚い封筒が置かれている。  

   ・・・

 雨が降りしきる中、山の中腹に沿った林道の様な道に、一台の車が停まっている。その車の側の道脇で、レインコートを着た(モモンガ)が麓の方角を見下ろしている。麓の谷間には、先程の道路があり、やがて

やがて、彼が眺めている、はるか前方にキティちゃんの車が姿を現わした。

(モモンガ)は双眼鏡を、取り出して、その方向を眺め直した。レンズには、拡大されたキティちゃんの車が写し出されフロントガラス越しに、顔までは、はっきり見えないが、ハンドルを握る彼女の姿が、

うっすらと見える。(モモンガ)は、双眼鏡から、目を離すと車に戻ってトランクを開けシートに包んであった銃を取り出した。 車の運転席に狙いを定め、徐々に引き金に掛けた指に力を加えて行く。2分後、麓の谷間の道を、キティちゃんの車が、西の方角へ走り去ろうとしていた。雨が降りしきる中、(モモンガ)は、道端に立ち尽くしその方角を無言で眺め続けていた。

(やはり雨の日は、火縄が濡れて仕事にはならないようだ)

(モモンガ)は思った。まあいい、報酬は前金で貰っている。やがて(モモンガ)は(ガン・キホーテ)の火縄銃コーナーで買った八匁玉堺筒をトランクに戻し、車に乗り込んで走り去っていった。

 一週間後、海外の動画サイトかなんかで、防衛省とか政府与党とかがぶっちゃけすごい事になった。

           (END)

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