04 奄美剣星 著 雨&スイーツ 『隻眼の兎の憂鬱』
【隻眼の兎の憂鬱/概要】
異時空を支配せんと目論む魔界王子麾下の魔界衆たちは、時空を自在に移動する潜在能力を秘めた女子高生・有栖川ミカを奪取すべく、果敢に同家にアタックしていた。彼女を密かに警護していた時空警察の隻眼の兎ギルガメッシュとサーベルタイガー・エンキドウの二人に加えて、織田信長・森蘭丸・アドルフヒトラー・山下清画伯といった食客四人衆が加わる。ところが、魔界執事ザンギスのきまぐれな魔法で、有栖川一門と魔界衆は異世界に飛ばされてしまう。
異世界カアラ大陸には、北のジーン侯国と、南のファア王国という二大国が存在していた。両者は犬猿の仲で戦争が絶えない。ファア王国は、偉大な先君が亡くなり、存亡の危機に立っていた。だがジーン侯国は、黙って見逃すほど人は良くない。圧倒的な兵力をもつ侯国は王国に侵攻し、包囲陣形を敷き、殲滅せんとしていた。
そんな戦場のどまんなかに、有栖川家が屋敷ごと、どてんと姿をあらわした。全滅しかけていた王国軍が有栖川家に逃げ込んだ。有栖川一門は王国側につき、しかもミカが特異点能力(魔法ともいう)を生かして、屋敷の周囲に城壁を築いてしまった。信長たち食客四人衆はこれを有栖川砦と呼んだ。
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01 雨 『隻眼の兎の憂鬱』
有栖川家の邸宅は、囲んでいる城壁の内側にあって、いまや砦の本丸御殿か天守閣のような感じになっている。
そこに籠ったファア王国軍生き残り部隊の将領にサートンという人物がいる。サートンは偉丈夫で、赤い甲冑を身に着けていた。サートンに限らず王国の制式甲冑は赤色塗装で統一されている。サートンが、ミカたち有栖川家の人々に状況を説明した。
「先君ユンリイ大王がお若くして崩御なされ、幼君がお立ちになされた。大王には庶子の出であるマギオンという兄君がおられ、宰相になっていたのだが、不平をもつ者がおり、たまたま外国使節として出かけたとき反乱が起き、不在を突いて邸宅を焼き討ち・一族皆殺しにしてしまった」
「それじゃ――」ミカが思わず叫んだ。
「内情を知るマギオンが侯国に寝返り、王国に報復し始めた。今回の戦闘もマギオンが上申したもののようだ」
「内乱は?」
「王族から摂政を擁立することで、なんとか収まった」
「摂政……?」
ミカがいいかけたところで、もう一人の将領で、外で警戒に当たっていたナカイが、飛び込んできた。
「サートン先輩、敵が攻勢をかけてきたっすよ!」
城壁は、先ほどミカが、信長たち食客四人衆の仮説に基づき、土中からドスンと湧き上らせたものだった。そこの階段を、サ-トンとナイカル、有栖川一門が、駆けあがる。するとそこに、眼帯をつけたマントの兎と、ヘルメットを被ったサーベルタイガーが、地平線の方を睨んでいるのにでくわす。二人は魔界衆を取り締まり、時空を変幻自在に操る潜在能力をもった特異点少女有栖川ミカを警護する時空警察官だ。
ジーン侯国の軍団は密集隊形をとっていた。先頭に戦象、後方二戦車を中核とした徒士がついている。数万いる。王国は緒戦で敗退しているので、兵力差は十倍の開きになってしまっている。さらに問題なのは、ジーン侯国の軍団前衛に、魔界衆が歩いているということだ。否、正確を期すれば、最先頭を突っ走る者がいる。
「降伏をうながす使者か。なめられたもんっすよね、先輩」
小柄な将領ナイカルが、相棒の将領にいった。
「いや、違うみたいだ」
偉丈夫のサートンがぽつりと答えた。
白いタキシードを着た、耳の尖った青年が、一条の砂煙をあげて駆けてくる。
――有栖川ひいっ、めへぇえええ。
「キモっ……」
ミカが身体をかがめて、つぶやく。
有栖川砦の城門は、枡形門となっている。二重城壁に囲まれた広場をもった門で、外門と内門がある。外門から敵が侵入しても、内門は閉じられているから足止めにされてしまう。そこに敵の隊伍が突入すると、待ち伏せしていた弓隊は、城壁から熱湯をかけたり矢を射かけたりして、殲滅させてしまう。そういう仕掛けだ。
隻眼の兎・ギルガメッシュがつぶやいた。
「魔界王子め。性懲りもなく、ミカを嫁にとストーク突撃をかけ、自ら罠にかかるというのか?」
内部に突入していたところで格子になった吊り上げ式の扉を、ガタン、と落とす。退路を絶たれ、袋の鼠になったところで、四方に潜んでいた王国の長弓兵が一斉に矢を撃ちかけた。ダリウスは針鼠のようになる。だが、なぜか不敵に笑っていた。
「自爆装置」
舌先で奥歯のスイッチを入れる。
サーベルタイガーのエンキドウが気付いて叫んだ。
――いかん、伏せろ!
エンキドウ、それにサートンとナイカルの将領二人が、
ズドン。
白煙が舞い上がり、瓦礫が散乱した。枡形門にいた長弓兵が城壁ごと吹き飛ばされてしまった。しかも自爆したかに思えた魔界王子ダリウスは、砦から、侯国の隊伍に少し寄ったところに立っていて、銀色の髪をかき上げた。
「まっ、僕だって、いつもヤラレっぱなしってわけじゃないですよ」
さらに後方にいた半人半蛇の魔界執事が、地面を尻尾でバンバン叩いて、「さすがは坊ちゃんま!」と賛辞を送っている。
隻眼の兎が苦笑した。
「魔界王子は、イリュージョン系のマジックを使うのだな」
枡形門の三方が吹っ飛ばされてしまった。しかし内側の城壁と城門は破壊されてはいない。内門が開かれる。
「なら、これはどうだ!」
姿を現したのはタイガー戦車だった。戦車に搭乗しているのは、食客四人衆。操縦するのは山下画伯、砲塔にいるのはヒットラー総統、蘭丸が、せっせと砲弾を詰めている。信長は、砲塔にどっかり座って火縄銃を構えていた。
――撃てっ!
大砲の弾丸が、格好をつけて立っているダリウスにむかった。魔界王子は弾頭に押し付けられた格好で、飛ばされてゆき、はるかむこうで陣取る侯国の隊伍に落っこちた。爆風が砂塵を舞い起こす。
「さすがは坊ちゃま、タマ乗りをなさるとは、魔界一の芸達者!」
魔界執事ザンギスは、愉快そうに、下半身の尻尾を地面にバンバン何度も叩きつけ笑い転げていた。
肩に一つ目蝙蝠乗せた、黒のシルクハットを被り、マントに身を包んだニヒルな魔界の貴紳シモーヌが、ほくそ笑む。
「こういう芸もありますよ」
手にした杖で、地面を叩き土埃を上げる。するとどうだろう、細かな砂礫がおびただしい数の黒い大きな犬になって、走り出したではないか。頭が三つある。そう、獅子ほどの大きさをもった魔獣ケルベロスだ。群れが、戦車が陣取る内門にむかって走ってゆく。
――いかん。
砦にいた、サートンとナイカル、二人の王国将領は、弓手たちに命じて弓矢で応戦した。砲塔からは蘭丸がでてきて信長と一緒に火縄銃を撃つ。ヒトラーは戦車搭載の機銃で応戦した。
被弾したケルベロスたちが、つぎつぎと小さな黒い煙となって宙に消えてゆく。しかし、それはシモーヌが思惑としたところであった。はじめから戦車搭載の機銃銃弾を尽きさせようという腹積もりだったのだ。
「有栖川一門食客のみなさん、お粗末ですよ」
「有栖川一門食客のみなさん、お粗末ですよ」一つ目蝙蝠が復唱する。
三頭の巨犬の群れが、タイガー戦車にいる食客たちに踊りかった。
そのとき、戦車の真ん前に、特異点少女が駆けだしてきて、両手を大きく広げた。
02 スイーツ
――消えよ、魔犬ケルベロス。バルス!
宮崎アニメをパクった一つ覚えの呪文は便利だった。というか、呪文自体はどうでもいいようである。要は通力というものをどのようにイメージするかが重要で、ミカが言葉にすることで、具体的に、「魔法」は執行されたのだ。
禁忌のアニメの透過光テクニック「パカパカ」が起る。動画の迫力を出すために、閃光を強烈にしたり、弱めたりを繰り返すのだ。テレビ番組をみていた子供が脳震とうを起こして問題となったため、アニメ制作会社各社は自粛するようになった。
「パカパカ」を強烈にした毒性の強い閃光と考えればよい。その光によって、有栖川家食客四人衆が乗り込んだタイガー戦車に襲い掛かった三頭の魔獣ケルベロスのうちの一頭が、いまにも、ヒトラーの喉笛を掻っ切る直前に、すべてが光に呑みこまれて消えた。
魔獣を召喚したシモーヌが、「やるな」とつぶやいた。
肩に乗った一つ目蝙蝠も、「やるな」と復唱した。
外門が吹き飛ばされて内門だけが残った城壁、開いた扉のところに弾丸を撃ち尽くしたタイガー戦車がいる。その頭上、城壁には、時空警察である隻眼の兎とサーベルタイガー、それに、王国の将領サートンとナイカルが、王国弓兵と並んで、敵勢の出方を睨んでいた。
隻眼の兎ギルガメッシュには危惧するところがあった。
「ミカは先に、時空特異点の力をつかって城壁を出現させた。そして今度は、ケルベロスの群れを一瞬にして吹飛ばした。膨大なエナジーを消耗したはず。立っているのもやっとのはずだが……」
隣にいたサーベルタイガーが少し間を置いて自分の考えをいった。
「特異点ミカが時空から、自らの身体を介して、膨大なエナジーを吐き出しているのだと思う。だから消耗するということはないんじゃないのか?」
「一理あるな」隻眼の兎のマントが風にはためく。
隣できいていた、王国の将領二人は意味を理解していないようだ。もっとも、それどころではない。
どこに隠し持っていたのか、敵・侯国の兵隊たちは、高さ十メートルはあろう巨大攻城兵器カタパルトを押し、じわじわとこっちに寄せてきたではないか。恐らくは魔界衆が、魔法の力で造りだしたのだろう。カタパルトは、梯子車に似た形をしている。四つの車輪が楼閣に乗っけた竿を、歯車でぐいぐい引き、弓のようにしてから、留め金を外し、一抱えほどもある石弾を城壁にぶっつけて壊すのだ。
城壁に配置した長弓兵が放つ矢の射程距離の数倍ある飛距離で、石弾が飛んできて、激震を引き起こす。城壁に、ぶつかったそれがめり込み、土煙をあげて、だんだん崩れてゆく。
下の戦車にいた信長が、上にいる将領二人にむかって叫んだ。
「騎兵を貸せ。うざい。あの機械を焼いてくる」
二人は少し顔を見合わせた。さすがに、出会ったばかりの人物に部下を預けるのは躊躇されるところだ。しかし、自分たちでは歯が立たない敵を、ろくな兵ももたぬというのに、信長たち食客四人衆はそれなりに、撃退しているではないか。
「判り申した!」口を開いたのはサートンである。追認するようにナイカルがうなずいた。
早速、大声で生き残っている騎兵を呼び寄せる。二百騎ほどにもなった。
蘭丸は手回しがいい。自らも馬に乗り、信長の馬の手綱をとって門までやってくる。戦国時代からやってきた口髭の武将が、それにひらりとまたがった。
「ゆくぞ蘭丸」
「御意にございます」
戦車に乗った総統閣下と画伯が二騎の出撃を見送る。後を、王国騎兵二百が追う。
長弓の射程距離は百五十メートルである。敵は約四百メートルの距離をあけ、主力部隊数万の背後に、カタパルト一両を設置していた。正面にいる主力部隊の方陣を避け、信長たちは、敵の左翼を迂回してカタパルトのある背後に回り込んだ。
敵も信長の意図を読んでいる。主力の右翼に控えさせていた騎兵五百を迎撃させた。
しかし、両軍が剣戟の火花を散らす前に、信長たちは革袋のようなものをカタパルトの台車部分に放り投げ、火縄銃で狙撃した。すると大音響をあげて爆発。石弾を飛ばしている竿を頂きで固定する楼閣、そいつの基部を吹飛ばし、ガラっと音を立てて崩れ出す。
騎兵を率いてきた侯国の将領が叫んだ。
「度重なる侯国との交戦と、内乱で有能な将領はほとんど残っていないはずだ。このように大胆な戦い方をする者が、いまの王国には残ってはおるまい。何者だ?」
「信長だ。憶えておけ」
「――ノブナガ!」
敵将は、麾下の騎兵から一人突出して駆けてきて、信長のすぐ横を駆けてくる。その間にも槍斧を何度も繰り出してくる。
「わが名はマギオン」
信長の先駆けをしていた蘭丸が、上体を半分ひねって、火縄銃の銃口を敵将にむけた。引き金に指をかける。
ズドン。
マギオンと名乗った将領は、手綱をとっていた片手を離す。手を開き、「吧!」と叫ぶ。するとどうだ。火球が現れて飛び、飛んできた弾丸を弾けさせたではないか。
「魔道士か?」
「いかにも」
敵・侯国の将領が白い歯をみせる。なおも信長に斬りかかろうとするのだが、信長麾下の騎兵が走りながらマギオンを囲んでくる。自らの配下である騎兵は追いつかない。
「そうはゆかぬ」
マギオンが、長刀を横一文字に振ると、脇にきた王国騎兵が、鎧越しにざっくり斬られて、後方に弾き飛ばされる。格が違いすぎる。信長たちの騎兵が有栖川砦の長弓射程圏に入ると、駒の踵を返して自らの陣営に戻る。途中で、麾下の騎兵隊が追いつくのだが、「戻る」と号令された。やはりUターンして後に続いた。
信長たちは、戦車が、どでん、と居座っている、城壁内門をくぐり、帰還した。
戻ると、蘭丸が目を丸くした。
「い、いったいなんですか、これは?」
「プリンっていいます。菓子です」ミカの弟・剛志が答えた。
数メートルはあろうガラス皿に載っかった光沢をもった黄色い軟体が、ぷるんぷるん、揺れ、練乳とカラメルの香りが漂っている。
いったい何千食あるというのだ。人の丈ほどもあるではないか。有栖川夫妻と子息の剛志が、紙食器にそれをよそい、食器がなくなると、大きな葉に載せて、兵士たちに振る舞っていた。
ミカはというと、ぐったりして、山桜の古木の根本に腰をおろし休んでいた。
隻眼の兎がやってきていった。
「特異点の通力で、プリンなんかを召喚してどうする?」
「みんなを元気にしたくってやったんだけどさ、通力を無駄に使っちゃったみたい。ごめん」
ミカは、座ったまんま、失神するも同然に、深い眠りについた。
サーベルタイガーが、抱き上げて、家の寝室まで届けてやった。
有栖川砦にいた誰もが改めて悟った。有栖川ミカは切り札であるのだと。
つづく




