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自作小説倶楽部 第6冊/2013年上半期(第31-36集)  作者: 自作小説倶楽部
第34集(2013年4月)/「夜桜」&「ジレンマ」
39/63

02 まゆ 著  ジレンマ 『佐藤が死んだ』

 程よく散らかったマンションの一室で佐藤が死んだ。口と、手にした激辛ドリンクの缶から真っ赤な液体を垂れ流して、うつ伏したテーブルの上の緑色のマットを汚していた。

 悪友の鈴木、田中、遠藤の三人は、青ざめた顔でそれを見つめていた。

 鈴木が口を開いた。

「佐藤のヤツ……死んだのか?」

「ああ、死んだ」

「やべえな……」

「田中が罰ゲームなんて言うから」

「激辛ドリンクを買ってきたのは鈴木だろ!」

「だいたい、遠藤が役満を上がるのが悪いのだ」

「振り込んだのは佐藤だぜ!」

 田中がフーッと息をついて言った。

「落ち着け。とにかくどうするかこれからのことを考えよう」

「そうだな」と遠藤と鈴木がハモった。

「まずは、状況の整理だ。佐藤が死んでいる。佐藤は麻雀で負けて罰ゲームとして激辛ドリンクを一気飲みした。そのショックが原因だと考えられる」

「ああ、だから、買ってきたのは鈴木!」

「待て、待て、ここで罪をなすりつけあっても、裁判じゃ俺たち同罪だぞ」

「そうだな。どうする?」

「来年、俺ら、受験だしな……こんなことで人生を棒に振るのもな……」

「無かったことにできないか?」

「生き返るかな?」

「まさか!」

 そのとき、呼び鈴が鳴った。

「誰だ!」

「こんな時に!」

 田中と鈴木は、部屋主の遠藤を見た。

「わかった、出るよ」

 遠藤は渋々ドアを開けた。制服の警官が立っていた。

 遠藤は口から心臓が飛び出すのでは無いかと思うくらい驚いた。

「あ、あのっ! な、なんでしょうか!」

 警官は、表情も変えずに言った。

「激辛ドリンク!」

「えっ! 激辛ドリンクなんて、知りません! 見たこともありません!」

 遠藤は、必死に叫んでいた。

 警官は安心したように微笑んで、「それなら、良いのですよ」と言って去って言った。

 ドアを閉めた三人は一斉に大きなため息をついた。

「はあああああっ! バッキャ野郎っ! 驚かせあがってっ!」

「何が激辛ドリンクだっ!」

「なんなんだ! あの警官っ!」

 ひとしきり悪態をついて三人は佐藤の死体を見た。

「これをどうにかしないと、俺たちの未来は暗いな……」

「死体を始末してもアリバイはどうする」

「なあに、三人で麻雀を……」

「麻雀って四人でやるんじゃないのっ? 三人でするゲームってなんだっ?」

「花札なら三人でできたんじゃね?」

「そうだっ! 花札をしていたことにしようぜ」

 三人は、それぞれうなずいた。

「じゃ、死体を始末しようか……」

「始末するってどうやる?」

「海に捨てる」

「そりゃ、まずいって、浮いたり浜に打ち上げられたり、地引き網にかかったり……」

「そっか、川もまずいな……湖は?」

「車ねえだろっ!」

「そうだな、まずはバラバラにして運びやすいようにしよう。それで山まで電車に乗っていって埋めるということで……」

 三人はうなずいた。

「俺たちは三人とも来年受験だ。一流大学を狙っている……こんなことで人生につまずくわけにはいかないな」

 三人は、佐藤の死体を風呂場に運んだ。

 少し狭いがそんなことを言っている場合ではない。

「包丁で切れるかな?」

「バカ! 料理するんじゃねえんだ! ノコギリ持ってこいよ」

「うえっ!」

「少しは手伝え!」

「ひいいいいっ! グロッ!」

「バカッ! しっかり押さえていろ!」

「次はお前が切る番だ!」

「おええええっ!」

「ひえっ! なんか、出た!」

「少しは静かにしろよっ!」

「うるさいのはお前だっ!」

「なかなか切れないな……」

「へたくそ!」

「死体を切り刻むのに下手もうまいもないだろっ」

「ふううっ」

「三つにわけて袋に入れるぞ」

「俺、頭が入っているのやだな」

「あとでジャンケンをして、運ぶ袋を決めよう」

 三人は、佐藤のバラバラ死体を三つのゴミ袋に分けて詰め込んだ。

「血をよく洗い流しておけ」

 シャワーで風呂場をよく洗う。

 部屋に戻った田中がテレビの画面を見て「あっ」と声を上げた。テレビをつけっぱなしにしていたことすら忘れていたのだ。

「鈴木、遠藤! テレビだ!」

 テレビには、佐藤が飲んだ激辛ドリンクのカンが映し出されていた。

『猛毒入り○○社の激辛ドリンクのカンは、警察により百八十三個回収されました。犯人の犯行声明によると、あと十七個が出回っていることになります。このドリンクを持っている人は絶対に飲まずに警察へ届けてください。犯人の目的は不明です。このドリンクには致死量を超える猛毒のコロリシンドシン酸が入っているおそれがあります。くれぐれも……』

 三人は顔を見合わせて、三つのゴミ袋に目を落とした。

「こ、これ、どうする?」


   《おわり》

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