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自作小説倶楽部 第6冊/2013年上半期(第31-36集)  作者: 自作小説倶楽部
第34集(2013年4月)/「夜桜」&「ジレンマ」
38/63

01 奄美剣星 著  ジレンマ 『隻眼の兎の憂鬱』

 異世界に瞬間移動してしまう特異点体質の少女・有栖川ミカとその家族。同家に居候する過去からの来訪者・食客たち。彼女を警護する時空警察。そしてミカの能力に目をつけ、ヨメにしたがる魔界王子及び麾下の魔界衆が火花を散らす物語である。

 ザンギス執事は、魔界最強の術者ではあるのだが、何を起こすか判らない困ったチャンだ。いつものように有栖川家と魔界衆がぶつかりあっていると、半人半蛇のこの人と、ミカの特異点現象が、反応を起こしてしまうというアクシデントが生じた。そして、有栖川家一門食客と敵対する魔界衆一同は、異世界の大陸カアラに飛ばされた。

 そこには、南のファア王国と北のジーン侯国の二大国が、せめぎ合う八十年戦争が繰り広げられており、有栖川家はファア王国に、魔界衆はジーン侯国についた。

 有栖川家の食客は四人いる。山下清画伯とヒトラー総統、それに織田信長と蘭丸の主従だ。棒を手にした画伯と総統閣下が、何やら線を描いている。屋敷は、梅林の只中に空間移動して、どでんと、居座ってしまった。

「ふうっ、いい汗かいたな、ヤマシタ」

「い、いい汗かいたんだな、ヒトラー君」

 庭に突きでたバルコニーから、弟の剛志と一緒に、身を乗り出して様子をみていた女子高生ミカの前に信長と蘭丸が立っていた。

 信長がいった。「一つの仮説だ。この世界にくる前、ミカは、画伯と閣下がつくっていた蛙の彫像に手を触れた。途端に、彫像は蛙に転じた。ゆえに、今回はその二人に邸宅の周りに線引きをしてもらうことにした」

「線引き?」素っ頓狂な声をあげたミカが、弟の剛志と顔を見合わせている。

「細かいことは後で説明します。試してみる価値はある。ミカさん、手を貸してください」

 蘭丸がミカの手をとって小走りを始めた。

「え? え? え?」とつぶやく。頬が赤い。まんざらでもない様子だということを、姉の背を見送る中学生の弟は察したのだった。外に行くまでには、邸内のいたるところに、負傷したファー王国兵士たちが休んでいて、有栖川家の人々の手当を受けていたのだった。姉弟はほんの束の間、休息をしていたのだったのだが……。

 線引きし終えたところに、画伯と総統閣下が立っている。そこに信長が加わった。ミカの手をとる蘭丸がいった。

「ミカ、地面に描かれてある線に手を触れて。そして堅固な城塞をイメージするんだ」

 長い髪の女子高生は城塞をイメージした。しかし、汗が出るばかりで、何も起こらない。

 ランニングシャツに坊主頭の画伯がいった。

「こ、こないだ、て、て、テレビをみたんだな。マンガ映画だったんだな」

「アニメ?」

「らら、『ラピュタ』とかいってたんだな」

「あ、宮崎駿の『天空の城ラピュタ』だ!」

「ラストシーンで、じゅ、呪文をつかったんだな」

 セーラー服の女子高生は、山下画伯の言葉をつなぐように、いった。

「地面に描いた線のとおり、お城になれ、バルス。なあんちゃって……」

 ずっどおおおん~。

 するとだ。突如、画伯と閣下が描いた線が盛り上がって、高さ十メートルはあるだろう堅固な城壁が、どん、と地面から飛び出してきたのだった。一同はのけ反って、尻もちをついた。機械仕掛けの扉がついた楼門があり、上に、どういうわけだか、サイドカー仕様のKATANAが置かれている。ライダーはサーベルタイガーで、コクピットに収まっているのは隻眼の兎だった。

 兎がいった。「名付けて、アリスガワ砦!」

 虎が答えた。「いい名前だ」

 そこに、地響きがしてきた。背中に輿をつけた戦象や、馬匹に牽かせた戦車、それに徒士数万の軍勢が、押し寄せてきたではないか。しかし、突然、ただの洋風住宅が、堅固な城塞になってしまったので、立ち往生するしか術がない。

   

 ファア王国の甲冑は赤、ジーン侯国の甲冑は黒だ。

 黒い軍団の中に魔界衆の存在があった。黒衣の貴紳シモーヌがつぶやいた。「これではらちがあかぬ。ジレンマだな」

 すると肩の上の一つ目コウモリがつぶやいた。

「ジレンマだ」

 その横にいたザンギス執事が、魔界に落ちたばかりの先ほど、象に踏まれ、ぺしゃんこになったダリウス王子の唇に、口をつけて息を吹き込んだ。ひらひらと旗のようになっていた王子はもとの形に膨らんで蘇った。しかし、同時にだ……。

「ざ、ザンギスと。お、男同士でキスしてしまったああ!」

 ぎゃあああ……。

 魔界王子は巨大な翼竜に姿を変え、羽ばたき、天空に舞い上がって、炎を吐いて回った。堅固な石垣の要塞に炎の吐息が吹きかかる。城壁に上った守備兵が、火だるまになって、下に落ちた。

「ほお」黒衣の貴紳がつぶやいた。

「ほお」肩の上の一つ目コウモリがつぶやいた。

(つづく)


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