表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作小説倶楽部 第6冊/2013年上半期(第31-36集)  作者: 自作小説倶楽部
第32集(2013年2月)/「チョコレート」&「宝物」
13/63

01 奄美剣星 著  チョコレート 『隻眼の兎の憂鬱』

 白いロールスロイスが、道路の端に寄せて停車した。

 耳の尖ったタキシードの青年が顎に人差し指をあてた。

 魔界執事ザンギスの能力は強大だ。しかし、結果的に、有栖川家の食客であるヒトラーに戦車を贈ってしまった経緯があり、トリックスター的な要素が強い。こういう引っ掻き回し役ではなく、確実に敵を追い詰め、しとめるような片腕が欲しい。魔界王子ダリウスはそう考えた。

 彼は、携帯電話を天空にかざす。ボタンを押した。晴れた空が突然曇って雷が鳴った。

 ――召喚。いでよ、シモーヌ!

 現れたのは黒い外套で身をまとった若い紳士であった。長身細面である。車の窓越しから彼は主筋の彼にいった。

「お呼びでございますか、ダリウス殿下?」

「用があるから、呼んだのだ」

 黒い貴紳は、片脚を退かせる礼法メイク・ア・レグを自然にこなした。


 現在のメキシコシティーは、かつてアステカ帝国の首都だった。皇帝は一日二十杯ものチョコレートを口にしていたという。ミルクやら砂糖は入っていない。どちらかといえばブラック珈琲を飲む感覚だ。

 黒い貴紳もそれを好んだ。彼が指を鳴らすと、カップとソーサーが宙から現れた。カップはマイセン窯で焼かれたような染付白磁である。シモーヌは、立ったまま、一口つけて、宙に放るとそれは霧のようになって、消えてしまった。

 有栖川家の呼び鈴が鳴らされた。この家の長女ミカは、時空を捻じ曲げて、異空間に迷い込んでしまう特異体質をもっている。

 なんて美麗な殿方なのだろう。どことなく優雅で貴族的でさえある。少女は顔を赤くした。シモーヌは、ダリウスにしたようにメイク・ア・レグをしてみせたのであった。すると、長身の少女の肩を、過去からやってきた客が、つかんで後方へ押し返した。娘は、きゃあ、と悲鳴をあげた。

 招かれざる客がいった。

「第六天魔王・信長公、私はシモーヌといい、魔界では、黒い貴紳とも呼ばれています。以後、お見知りおきを……」

 信長は、南蛮帽を被った伊達な衣装の男だった。なんの躊躇もしない。黄金で装飾された小型火縄銃を相手にむけ、引き金を引く。

 だが、シモーヌは、ひらりと、外套をひるがえし、弾道をそらしてしまった。その際、天にむかって、手を上げて、指を鳴らした。

 するとどうだろう。また、マイセンのソーサーとカップが現れ、宙空から、チョコレートが注がれたではないか。それを、まだ構えている信長の銃身に、ちょこん、と載っけた。人を喰った奴だ。

 黒い貴紳の登場により、有栖川家一門・食客たちの物語は、新たな段階に入ることになる。

 隻眼の兎とサーベルタイガーを載せた、サイドカー仕様のKATANAが、同家を訪れたとき、男の姿はなかった。

     了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ