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最終話です。

 全てのことに決着がつき、始末を終えるのに何と一週間近く掛かってしまった。いや、一週間で済んだというべきか、これも夏瀬くんの優秀さとアリシアの力添えがあってだろう。

 当然、殆どの人間は直、病院へ運ばれた。そこはアリシアの”融通”が効く病院であったらしく、俺たちは面倒なことに巻き込まれないで治療を受けることが出来た。と、言っても重傷で入院したのは夏瀬くん、清十郎、長宗我部、アリシアだけであり、他の人間――特に火子と一条はピンピンしており、即日退院していった。

 一条はさすが人間が出来ており、火子とは和解しお互いに武道について語るほどの仲になっていた。しかし、長宗我部は清十郎にからかわれ、怒ると晃に睨まれて謝るという不思議な関係に組み込まれてしまっていた。アリシアにおいては、俺に対する態度はあまり変わらなかったが、夏瀬くんを”お姉さま”と呼び慕うようになっており……正直、周りから見ていても気持ち悪い。

 司はさすが”主人公補正”の持ち主、一日もしないうちに全快してしまった。そういう俺も特に怪我らしい怪我をしていなかったので、晃と一緒に雑用として扱き使われた。

 学校が滅茶苦茶なってしまったのは、夏瀬くんの内政能力と教師に対する堂々とした説明……というよりかは無理を通して道理を引っ込ませる言い訳と、アリシアが動かした業者によってあっという間に証拠を隠滅して、事なきを得た。

 しかし、一つだけ、どうしようもなく辛いことがあった。夏瀬くんの目は治らないらしい。アリシアの力を持ってしても再び彼女の瞳に光を宿すことは叶わず、義眼を入れる程度のことしか出来ないらしい。俺が「どんなことをしてでも償う」と申し出ると、傷跡だらけの顔で微笑み、

 「私がした事ですし、その覚悟を奪おうとすることは炎燈寺くんにも許されませんわ。……でも、そうですわね。今回のことで考えが少し変わりましたわ。もしかしたら責任を取ってもらうかもしれませんわね?」

 と、言われてしまった。どうやら、俺は夏瀬くんには一生頭が上がりそうもない。



 そして俺たちは今、俺――炎燈寺仁の家に集まっている。

 晃、夏瀬くん、清十郎、火子がテーブルに座ってジュースの入ったコップを片手に、俺に注目している。みんな傷だらけだ。夏瀬くんは顔に包帯を、清十郎は松葉杖。なのに皆、こらえ切れないように笑顔を浮かべている。

 「あー……。今回は、俺の為に集まってくれて有難う。結果はともかく、俺は全てを出し切れたし、後悔は無い! いつの間にか俺の家で開催することが決まっていた祝勝会も誰一人欠けることなく集まれて、俺は嬉しい。今日は俺と火子がジャンジャン料理を作る。どんなリクエストも応えられるように、馬鹿みたいに食材も買い込んだ! じゃあ――乾杯っ!!」

 「「「「かんぱーい!!」」」」

 コップをぶつけ合い、笑顔を弾けさせる。俺と火子が立ち上がり、台所へ向かう。

 「大将ーッ!! 俺はアレだ! 肉、とにかく肉ッ! 骨が付いたヤツ!!」

 「僕は玉子焼きかな。砂糖と醤油の甘じょっぱいの。あと、”お袋の味”と大評判の肉じゃがと味噌汁」

 「私はボルシチというのが食べてみたいですわね。あと、炎燈寺くんの作ったケーキなんてものも所望です」

 「おう! 任せろっ。そんなの朝飯前だぜ!! 火子、腕は落ちてないだろうな!?」

 俺の言葉に、割烹着を着た火子が自分専用の包丁を煌かせ、

 「仁にぃ、負けないよ! こう見えても最近は料理に凝ってるし!」

 嬉しそうに袖を捲くる。火子の口調はふざけたようなモノではなく、以前と同じ、親しみを感じさせる懐かしいものに戻っている。彼女の中でも何か変化があったのか。

 せっせと料理していると、晃が質問を投げかけてきた。

 「そういえば、仁。藤堂と橘と何か話はしたのか? 僕らは何も聞いていないんだが……」

 そう問われ、俺は少し困ってしまった。フライパンで玉子焼きを焼きながら答えた。

 「実は、な。司とも美衣ちゃんともあれ以来話をしてないんだ。司はすぐ病院から出て行ったし、美衣ちゃんはそもそも病院まで付いて来てない。学校の片づけをしてくれていたらしいし……」

 皆が驚いている。しかし嘘をつくことは出来ない。俺も話がしたかったが、雑用に追われていたここ数日、会う機会など無かったし、正直に言うと俺は気持ちを全て出し切っただけで”満足”してしまっていた。

 「じゃじゃじゃじゃじゃあ!! 何だ、大将は橘の返事聞いてねェのかヨッ!?」

 「そう……なるな」

 「なら、善は急げですわ。今の時代は携帯電話という文明の機器がありますし、橘さんに連絡をしてみましょう。それが厭ならお隣さんなんだから直接逢いに行きましょう!!」

 「そ、それはちょっと……」

 俺がさすがに腰が引け、弱気になると三人が口々に文句を言い始めた。

 「成長しないにも程があるぜ大将……!」

 「相変わらずの”友人A”っぷりだね」

 「ヘタレ、ですわね」

 胸に次々と言葉の刃が突き刺さり、とどめに火子が一言。

 「……格好悪い」

 その言葉で俺は台所の隅でしゃがみ込み、人差し指を突き合わせ始めた。

 「だ、だって返事もらうなんて怖すぎるし、駄目なら駄目で気まずいし、オーケーならそれはそれでどうすれば良いか分からないし……」

 「ほら、仁にぃ! せめて料理はする! ダメ人間でもそれぐらいは出来るでしょ!!」

 火子に叱られ、俺はしぶしぶ浮かない顔のまま料理を再開する。こんな風に恐い火子は久しぶりだ。と、言うか叱られたのが初めてかもしれない。

 落ち込む俺を他所に、三人が次の作戦について会議を始めた。そこへ玄関から来訪者を告げる鐘が鳴る。

 「火子が行く?」

 「いや、俺が行くさ。料理、任したぜ?」

 了解、と笑顔で応える火子に背を向け、エプロンで手を拭きながら玄関へ。

 こんな夜に誰だろうか、俺がそう思いながら扉を開くと―――

 

 「―――美衣ちゃ、ん」


 そこには美衣ちゃんが、はにかみながら立っていた。手には風呂敷に包まれた何かを持って、俺に笑顔を向ける。

 「仁くん、私も参加……と言いたいところなんだけど、今回はコレを届けに来ただけだから」

 そう言うと、彼女は俺に強引に風呂敷を渡してきた。受け取った俺はとまどい、何も言うことが出来ない。

 「炎燈寺さん、私からもこれを」

 気付かなかったが、後ろには一条とアリシアが立っていた。一条は俺に漆塗りの重箱を手渡し、すぐさま後ろへ引っ込んでしまった。これは彼女なりの心づくしなのか。

 「あ、あぁ。ありがとう一条……」

 礼をすると、待ってましたと言わんばかりにアリシアが此方へやって来て、俺の鼻面へ人差し指を押し付け、いつもの様に騒がしく騒ぎ始めた。

 「アンタのことは相も変わらず気に食わないけど、緋織お姉さまの言いつけ通り、許してあげるわっ! ……で! ここにお姉さまが居るのね!? うん、お姉さまの匂いがするしっ!! わ、私も参加――あ、こら離しなさいよ巴ェ! あたしとお姉さまとの仲を引き裂こうたってそうは……!」

 「ふふふっ、炎燈寺さん。あとはごゆっくり」

 家の中に上がりこもうとしていたアリシアを羽交い絞めにすると、巴はそのまま笑いながら闇の中へと消えていった。すごく、恐かった。

 「ね、仁くん。少し、話していい?」

 「あ、えっ、は、はい! どうぞ!?」

 突然話しかけられ、何故か敬語になってしまった。そんな俺に美衣ちゃんはクスリと笑い、話を始めた。

 「あのね、仁くんの話とか、会長さん……夏瀬さんだよね? 夏瀬さんの話を聞いてね。確かにアタシが悪かったと思うの。それで今さらだし、自分勝手だけど謝れたらって思って今日は、仁くんに逢いにきたの」

 美衣ちゃんの哀しそうな顔を見る限り、本気のようだ。あの話は確かに本音だ。しかし、俺は謝って欲しいわけではなく―――

 「――美衣ちゃん。俺が言うのもおかしな話だが、大切なのは過去じゃなくて未来だぜ? 俺は美衣ちゃんにそんな辛そうな顔されるより、笑っていて欲しいな」

 全く、独善的な話だが、俺はいまそう思っている。美衣ちゃんには笑顔が似合う。それを願うことは、贅沢なことだろうか。

 「アハハ、仁くんはいつも優しいね。でも、ね。アタシはもう―――その優しさに寄り掛かりたくないなぁ」

 へ? という俺の口から漏れた言葉を美衣ちゃんは、どう取ったのだろうか。否定にしろ肯定にしろ、彼女の行動は予め決まっていたのだと思う。

 彼女は右手を差し出し、小指を上げて俺の目の前に掲げた。未だに理解出来ていない俺を諭すように彼女は言う。

 「―――あの日からやり直そう? ちゃんと”幼馴染”になろうよ。妥協したり、寄り掛かったり、我慢したりしない、本当の”幼馴染”に。ダメ、かな……?」

 何とも彼女らしい、解決方法だ。勿論、その話に乗るさ。

 「もう、泣かせたりしない。誓うよ」

 そして、俺は美衣ちゃんの小指に自分の小指を絡めた。


 「ゆーびきーりげーんまーん」


 何処から捻じれたのか、俺にも分からない。


 「うーそついたーら」


 それが分からないなら、やり直してしまえばいい。


 「はーりせーんぼーん」


 気付くのにこんな時間が掛かった。


 「のーまーす」


 でも、失敗するのには慣れている。


 「「ゆーびきったー!!」」


 次は、上手くやるさ。


 二人の少年と一人の少女。昔は同じだと思っていたのに、今ではこんな変わってしまった。苦しいこともあった、辛いこともあった。しかし今はこんなに幸せに笑っていられる。だから、また哀しいことがあっても笑いあえるに違いないさ。



 幸せそうに笑う仁と美衣を羨ましそうに眺める男が一人、夜風に髪を揺らしながらベランダの柵に頬杖をついて居た。

 その男に寄り添うように、顔中包帯まみれの長髪の男が。彼は懐から扇子を取り出して、ぼぅ、と眺める男の頭を叩いた。

 「何だよ、秀久。お前、帰れよ。何時まで俺の家に居るつもりだよ」

 頭を擦りながら悪態をつく男は司だった。彼に文句を言われた長宗我部は喉奥でククッと笑う。

 「友人が辛いときに支えてやるのが友人ってヤツだろう? まぁ、役に立たない負け犬だがな」

 肩を竦めて自嘲気味にそんな事を言う長宗我部は、悪びれず話を続ける。

 「意地なんざ張らずにお前も炎燈寺に逢いに行けばいいものを。何をためらうことがある? 今までの負い目か? 敗北の悔しさか? 自らへの恥辱か? どれもこれも生きていれば掃いて捨てるほどさ」

 司は何も答えない。しかし、長宗我部は話を続ける。

 「……お前も気付いているんだろう。橘の気持ちが揺れ動いているのを。早く抱き止めなければこのまま―――」

 「分かってるッ!!」

 怒声を浴びせられても、長宗我部は話を止めようとしない。

 「いいや、お前は分かっていないさ。どうでもいい過去に縛られて、雁字搦めにされてしまっているのは司、お前だぞ。未来を創っていこうとする炎燈寺、過去に囚われたお前。どちらが勝つかなんて自明の理だ。なのに、なのにだ! お前は何故こんな所にいる!? 何時まですかしているつもりだ貴様はッ!?」

 「分かっている、分かっているさ。それでも、それでも動けないんだよ……!」

 ついに顔を腕に埋め、声を震わせ始めた司。そして彼の肩に、長宗我部は優しく手を乗せた。

 「……承知した、今日が無理なら明日だ。明日が駄目なら明後日、炎燈寺がそうして生きてきたんだ。お前に出来ない道理はない。何、まだ一回しか負けていないんだ。十分に追いつけるさ。それに――」

 顔を上げた司に自信満々で長宗我部は扇子を拡げて扇ぎ始めた顔を向ける。

 「この長宗我部秀久が居るのだ。勝利は約束されたようなものだぞ? ……だから、お前もそんな何時までもそう腐るな。俺は、絶対に未来永劫、お前の味方だ」

 傲岸不遜、そんな言葉がよく似合う彼に司は、いつものようにヤル気の無い笑顔を浮かべた。

 「……まぁ、負け犬同士、今日は仲良くしてやる。ほら、部屋に入れよ」

 司に促され、愉快そうにベランダを後にする長宗我部。一人残された司は、陽気に騒ぎ続けている仁の家に目を向けると、一言。

 「―――仁、まだ決着はついていないからな?」

 そして、部屋に入った。誰も居なくなったベランダを照らす月は、変わることなく、煌々と明るく輝いていた。




 【おまけ】



 スキップで帰ってきた仁を、四人は怪訝そうな顔で迎えた。皆は同時に、

 (あぁ、哀しさのあまりにおかしくなったのだな……)

 と考えた。それも四人で仲良く並んで来訪者が美衣であることを覗いて、知ってしまったからだった。

 「ん? どうしたんだ、みんな? 火子まで手を止めて……。何かあったのか?」

 「え、あ、いや!? 何も無かったよ仁にぃ! うん本当に全然これっぽっちもごめんんなさい!!」

 突如、頭を下げられて困惑する仁は、仕方なく他の三人に問う。

 「本当に何も無かったのか、晃」

 そうすると機械仕掛けの人形のように三人はやけにギクシャクした様子で動き始めた。

 「いやぁ! この玉子焼きは絶品だなぁ清十郎っ!! そう思わないか!?」

 「お、おうヨ! 箸まで旨いゼ! “玉を食わらば箸まで”ッてのは本当だったんだなッ!! カーッ、旨いぜェ!!」

 「それを言うなら”毒を食わらば皿まで”だろうに……。夏瀬くん、本当にみんなどうしたんだ?」

 声を掛けられ、ビクッと肩を震わせる緋織。彼女は油が切れたおもちゃのようにギギギ……と仁のほうに振り向き、彼の両手にある風呂敷と重箱を見た瞬間、我慢し切れなかったのか涙をはらりと流し、

 「手切れのお弁当……!」

 とだけ言うと泣き始めてしまった。それに釣られて清十郎までおいおいと大声で泣き始めた。

 「おおおおおおッ!! 大将……ッ! 雨が降っても何時か晴れてお天道様が顔を見せてくれるサ! だから橘の事は今は忘れて飲もうぜウーロンッ!! いいじゃねェか、もう何度もフラられてるんだ、次があるゼッ!!」

 そして2リットルの烏龍茶をラッパ飲みし始めた清十郎を、仁はポカーンと眺め、頭痛に悩まされているような顔を浮かべた後、

 「―――いや、別にフラれてなんかないぞ?」

 「グブォッフゥゥ!? ゴホ、ゴホ……ッ! あ、いま何てェ!?」

 盛大に烏龍茶を鼻から噴き出した清十郎は鼻から流れ出す雫をそのまま、仁に聞き返す。当然、他の三人の注目も集まる。火子においては、包丁を持ったまま台所のカウンターを飛び越えて仁の下へやって来た。

 「いやなに、美衣ちゃんと”幼馴染”をやり直そうってことで指きりげんまんをしただけだぜ。フラれるも何も、そんな事はこれから先だ」

 それを聞いてテーブルの三人は弛緩し、そのまま突っ伏した。火子は仁の背中に手を重ね、大きなため息を吐いている。

 「な、何だよ!? 俺にはこれが限界だったんだからしょうがないだろ!?」

 ワタワタと手を大仰に振る仁に、晃が顎をテーブルに載せたまま説明し始めた。

 「違うよ、仁。僕らはてっきり、だよ。橘にフラれて君の頭がおかしくなったんじゃないかと危惧していたのさ。だって、ほら。今までのことを考えたら、さ」

 それを聞いた仁が頭をポリポリと掻いて、肩を落とす。

 「……俺ってそんなダメダメだったのか?」

 四人同時に「うん」と首を縦に振る。しかし、いつもなら落ち込むはずの仁は、その四人の様子に大口を開けて笑い始めた。

 「ハッハッハッハッ!! じゃあ俺は少しは成長出来たってことだぜ! この調子で、ドンドン精進していくぜっ!!」

 嬉しそうな仁を見た四人も何故か笑い始める。五人は何がおかしいのか、それともみんなで笑い合えるのが嬉しいのか、それこそ天に届かんばかりの大声で笑う。

 ひとしきり笑うと、仁が何かを思い出したように、ポンと掌を叩く。

 「忘れるところだった。火子に夏瀬くん、俺との約束だ! 何か一つ、お願いをきくのを忘れていたぜ! さ、何かあるか?」

 両手を広げて訊ねる仁に、火子がおずおずと手を挙げて問う。

 「どんなことでも、ですわよね?」

 「おう、可能なモノだったらなッ!」

 やけに嬉しそうに答えた仁に、緋織はならばと願いを伝える。

 「――私を、”緋織”と呼んでくださいな。そして私に”仁くん”と呼ぶ権利を」

 胸に手を置いて緋織はそう願った。仁は数度瞬きをして、悩み、合点がいったように微笑み――

 「―――分かった、緋織。これからもよろしく頼むぜ?」

 握手の為に手を伸ばす。緋織も嬉しそうに握手に答え、震える声で彼に告げる。

 「えぇ、仁くん! これからもよろしくお願いします!」

 そして、握手を終えると振り返り、火子へ向き合う。

 「で、火子は何が望みだ? 先に言っておくが変な事は……」

 「一緒にお風呂っ!!」

 仁が話し終わるよりも早く、火子は叫ぶ。当然、仁は却下する。

 「駄目だッ! もう少し考え……」

 「一緒にお風呂! そのあと添い寝!! 絶対に譲らないよっ!!」

 尚も叫ぶ火子に、頭を抱える仁。

 「何で否定したらすることが増えるんだ……」

 そこにヒソヒソと晃と清十郎の話し声が。

 「……何だろう、僕らが足を踏み入れちゃいけない空間があるような気がするね、清十郎」

 「あぁ、大将も罪作りな男だゼ。しかも見ろ、約束を踏み倒そうとしてやがる……。コリャア今まで何人もの女を泣かせてきたな……!」

 その言葉に背中を押されるように、と言うよりは蹴飛ばされるように、抗えない大いなる意思に導かれるように仁は頷いた。

 「……分かった。火子、お前の言う通りにする。だから金輪際、こんなお願いをしないでくれ、頼むぜ……!」

 へなへなと腰が砕けたように蹲る仁とは裏腹、火子はガッツポーズを何度も何度も虚空へ向かって取り続けていた。

 「くっ、さすが私のライバルなだけあってやりますわね、火子さん」

 緋織が立ち上がって仁の右腕に絡みつく。

 「会長だって手堅く攻めるじゃないですか。火子だって負けていられませんっ」

 そして火子は左腕に。緋織に右腕、火子に左腕を封じられた仁は、どうしたものか迷う。そこへ松葉杖を投げ捨てた清十郎が飛びつき、背中にしがみ付く。

 「大将、炎燈寺の大将ッ! 俺ァ、唐揚げが食いたくなってきたゼッ!!」

 困っている仁の顔が面白かったのか、晃が苦笑いを浮かべて空になったお皿を差し出す。

 「仁、さてさて次は”お袋の味”の一つである里芋の煮っ転がしでも作ってもらおうか?」

 四人を受け止め、仁は呆れ、笑い、叫ぶ。

 「っしゃあ! お前ら全員、俺が面倒見てやるぜっ!!」

 


 

 この物語はしがない熱血漢のサブキャラが、無敵の主人公様に立ち向かい、足掻いた物語。努力と鍛錬だけを武器とし、彼と共に闘い続けることを誓った友人と妹。世界に牙を剝く彼らを機械仕掛けの神は許さないだろう。結末は誰も知らない。知らない、が……彼らはきっと諦めないだろう。


 ――その命、燃え尽きるまで。


 ついに、終わってしまいました。全体通して二ヶ月と半月、飽き性の私がここまで続けられたのは何気ない「面白い」という褒め言葉でした。その一言で、毎日毎日書き続けることができました。

 これからも、たくさんの物語を作っていきたいと思っています。今も、次回作を進行中であり、近いうちにお目見えすることができる予定です。

 ここまで読んでくれた方々に最大の謝辞を。


 「どうも、ありがとうございました」

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