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重層異世界  作者: N.Y.-apple
1  ”要石”
8/14

≪7≫

≪7≫



HPバーとは何も、命の残量=被ダメージ総量というものを示すものではないらしい。


腹を貫かれ、RPGならばクリティカルヒット、という攻撃をもらった。

HPバーが、単に命の残量を示すものなら、ここで青年は死んでいただろう。


どうやらHPバーとは、体の状態をあらわすものらしい。

空っぽならばすなわち死。

これは変わらない。


指先を切ればバーは削れる。

これも変わらない。



しかし。


命の残量=被ダメージ総量ならば指先を切り続ければ死ぬだろう。


が、命の残量=体の状態ならば指先を切り続けても死ぬことはない。


というものらしい。





***





目を開けた青年は寝起きの混乱した頭であたりを見まわした。

辺りには誰もいない。


ぼんやりとした意識のままに、右手をあげてみる。


――あ、LV.UP


そう、戦闘中に青年はLV.UPを行っていた。

時間がかかるし、【硬化】が無ければ普通ならあり得ない。


LV.6 まだ低LV. だからだろうか、たったの一回の戦闘で三つもLV.が上がっていた。


LV.4スキル無し

LV.5自身の質量増加―覚えたてで増やせる量も持続時間も短い―

LV.6【ジャンプ】―結局覚えるんかい!と、つい突っ込みを入れた―


どうやら身体の力も上がっているらしい。

今まではたいして変わった実感はなかったが、今は少し体が軽い。


と、そこまで考えて気がついた。

腹の傷が無い。

跡形もなく消えている。


千枝のスキル【治療】だろう。


でなければあの傷で死んでいただろうな、と思う青年。


ちなみに薬液には最初、千枝に使ったほど劇的な効果はない。

魔力のない人間に魔力の塊である薬を与えた結果らしい。

次に使ったときはあれほどの効果はなかった。


【治療】は回復薬の効果を劇的に上げる力がある。

薬液は魔力の塊だ。

ならば、魔力で介入できるという理屈だと推測している。



つらつら考え事を流していると何やら足音が聞こえる。

たぶんあの三人だろう。

一応の警戒とともに待つ。





***





軽い音とともに開かれた扉は予想外の人物を通した。


「警官ですか?」


「えぇそうです」


そう、苦い表情をした30歳後半ぐらいに見える警察官の制服を着た男は言った。


「今、ここは警察署であってますか?」


「あってますよ。 今はあまり機能していませんがね……他の避難民のみなさんも一緒です」



その言葉に驚く青年。


そう、今まで人間は青年たち一行しかいなかった。

何か理由があるのだろう、でなければ、あの無人の状態はありえない。


――警察に避難民か……そうしばらくは居れなさそうだな…


青年の顔色は優れない。


別に青年が犯罪を犯している、またはいた。という訳ではない。

青年の名前が未だ語られない理由。

それが関係しているのは間違いないが。



コンコン


扉の叩かれた音と同時に女性二人が入ってくる。

千枝と凛華だ。


「あ、起きたんですね。 良かったです。 心配しました」


と、蒼白な顔をした凛華は言った。


青年は少しばかり淡白な言葉に軽く不振を抱きながら―今までの行動から凛華が抱きついてきてもおかしくはないと思っていた。 まぁ自惚れかもしれないが。―凛華を見上げ、その蒼白な表情に気づく。


「どうしたんだ?」と、青年。


答えたのは千枝だった。


「覚えていないの? あのことを」


千枝のもったいぶるような言葉に少しばかりの苛立ちを感じつつ、なんのことですか?と、続きを促す青年。


しかし


「そう」


と、一言で黙る千枝。


何なんだよ…と、凛華すらしゃべらず沈黙に包まれる室内。

沈黙を破ったのは先程の警察官だった。



「ん、ん、ん。  少し、いいかな?」


と、切り出し始めた警官に三人は無言で頷く。


「そちらの彼女たちも含めて話したいことがあって、この部屋に集まってもらった。 まず一つ目。 君たちは、あの駅からどうやって生還したんだ?」


予想外の言葉に驚く青年だが、千枝と凛華はもう聞かれていたのだろうさして反応はなかった。


「ここに君たちが来たとき、何やら大変なことがあったらしいけど、彼女たちは君の判断がないと話せないと言ってね」


困ったものだと肩をすくめながらいう警官。


「っとと、まだ自己紹介をしていなかったね。 私は田野上誠。 本官これでもここの副署長代理をしている。 あぁ、署長と、副署長はいないから、今のところここの実質トップだ」


――ふぅん、そんなお偉いさんがそんなコトを聞きに一人でやってくると。


青年が黙考していると、誠は焦れたので、どうなんだい?と続きを促す。


――何をそんなに焦っている? いや、この異常事態だ、そうなりもするか。仮にも避難民たちの命を預かっている立場のようだし。


と勝手に納得をしながら、


「どうやってもなにも、歩いてですよ」


信じられない。という表情の誠。

二人も詳しい話をしていなかったのだろう怪訝な目で誠を見ている。


相変わらず凛華の表情は優れないが。





***





静かに室内では青年と誠の話し合いが続いていた。


「なるほど…つまり、駅を中心に黒い結界?のようなものが広がり、その中にいた人は問答無用で消えたと」

「あぁ、概ね間違っていない。 かなり意味不明な光景だった。 私はあの時範囲ギリギリにいたんだが、目の前で人がかすみのように消えたんだ」


と、そうとう悔しかったのか表情を歪める誠。

きっと守るべき市民たちを成すすべなく見ることしかできなかった自分が悔しかったのだろう。

地位の割になかなかの正義感だ。


「だから駅から来たという俺たちに何か情報はないか聞いてきたと」

「危険すぎて駅周辺にはいけなかったんだ。 いずれは調べるために探索班を作ろうとしていたが、今は戦力が足りなさすぎる」


と、誠の発言に気になるところがあったのか、


「ん? それはつまり、対抗できるだけの戦力を作れるということですか? LV.のことはご存知で?」と、若干の驚きとともに聞く青年。

「あぁ。 むしろ、情報源がなかった君たちがLV.のことを知っていることに驚いているよ」


何のことだと分からず素直に、


「情報源?」と、尋ねる青年。

「異界の住人さ」


そして誠のもたらした情報にさらに目を見開いて驚く青年。

これには驚いたのだろう、今まで無言を通してきた千枝と凛華も軽く声を上げる。

と、その驚きを予想していたのだろう苦笑をもらす誠。


「予想はしていましたが、驚きですね。 何が分かったのか、話してもらっても?」

「最初から話すつもりさ、ただ、彼らもこの状況を理解できていないらしく、分かったのはLV.とスキルのことだけだったよ」


「お願いします」

「うん。 まずはそうだな。 LV.はその人間の総合的な強さの指標らしい。まぁ、戦いの強さだったり、鍛冶能力の強さだったりと種別はまさに千差万別。 らしい」


らしいねぇ、と心の中でつぶやきつつ。


「では、称号とは何ですか?」

「うん、いい質問だ。 称号とは、魂の器、だそうだ。 言い換えれば、ゲームで言うところの職業とも言えるものらしい。 そしてその称号によって自身の限界LV.が決まるというものだ」


「職業ですか」

「そう、職業だ。 これによって覚えるスキルも大幅に変ってくるそうだよ」


どちらもゲームをそこそこやっていたのだろう、二人ともおかしそうに肩をすくめていた。


「あぁ、なるほど。 個人別スキルではなく、職業別スキルだったんですね」

「うん? いや、正確には魂別スキルかな、同じ称号でも覚えるスキルが違う人もいるそうだし。 そういうのをレアスキルというみたいだね。 さて、次はスキルについてだ。 これには見ることはできないが熟練度というものがある。 これは、上げるほどそのスキルの使い勝手が良くなるそうだよ」


「へぇ…面白いですね」

「さて、こんなところかな。 君たちはこれからどうするんだい? ここにとどまってくれるのなら私たちは大歓迎だ。 LV.のことを自力で見つけたんだ、相当な戦力として迎えるよ」


と、聞いてくる誠に青年は、


「そう、ですね。 それは彼女たちと話し合ってから決めようかと思います。 しばらく俺たちだけにしてもらえませんか?」


あぁ、お安いご用さ。の言葉とともに退室する誠。

行動は迅速らしい。

なかなかの去り際だ。

この室内に立ち込める微妙な雰囲気を嫌っただけかもしれないが。


ふぅ、と一息つく青年。


「たぶん、田野上さんの情報はあれで全てじゃないだろうな…属性のことも話してくれなかったし。 たぶん、俺たちが仲間になってから話すんだろうな」


そして一言。


「実乃里は?」


その言葉に苦渋の表情をする凛華。

珍しく薄い笑みを隠し、無表情な千枝。


あぁやっぱり。 の一言と共に、今までの座っていた状態から立ち上がり、二人と目を合わせる青年。


「田野上さんと話している時から、頭の中身は整理していた。 最後の記憶は」


と区切りを入れて二人を順番に見る。


「実乃里の腕が、俺の、腹を突き破っていた」













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