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重層異世界  作者: N.Y.-apple
1  ”要石”
6/14

≪5≫

≪5≫



軽く言った青年はまだ知らない。





***





駅のホームから出て、改札にむかう一行。

男子高校生二人には悪いが、今は緊急事態だ、死体は放置させてもらった。


これから死体は数多く見ていくことになるから、三人には早く慣れてほしかった。

青年は驚くほどの冷静思考だ。 死体を見てもあわてず騒がず。 最善を考えようとする。

それは、20歳のパーソナリティーとしては異質に過ぎる。

青年は死体を見慣れているわけではない。 これでたったの2度目だ。

青年の過去に影響されているのは間違いがないが、一体どれほど青年はねじ曲がっているのだろうか。





***





ホームから階段を下り、改札へ向かう。

それだけのはずだった。


漂ってくるのは異臭。

さっき男子高校生の前を通り過ぎる時にかいだ匂いだなと、心のかたすみで思っていたのもつかの間、階段を降り切った先、目の前の光景に青年は目を見開く。


血、血、血、血、血、血、血。


どこもかしこも血だらけだ。

目に付く場所はすべて血に覆われている。

いたるところに血だまりができ、手形の血痕が恐怖を誘う。


「……………………」

「うぅ………………」

「ひぃっ………!!」


千枝は無言、その眼は冷徹に周りを見渡している。

実乃里は口を押さえて吐き気を我慢している。

凛華は腰が抜けている。


あまりにも現実離れした光景に脳がこの光景を受け付けない。

分からない、分からない、分からない。

ぐちゃぐちゃになった思考はただひたすらに、この場にいたくないと願うだけ。


「…………………行くしかない………」


青年の言葉に信じられないものを見たかのような凛華と実乃里。

そう、青年はこれを突っ切ると言っているのだ。


「怖いのなら、俺が背負って行ってやるから目を閉じてろ」

「私は平気。 それより、気づいてる?」


と、苦渋の表情の千枝。

彼女も内心は恐怖に駆られている。

今すぐ逃げ出したいとも思っている。

しかし、ここで逃げたら足手まといになる。

そんなことは許せないと自身の矜持に発破をかけて、ギリギリのところで精神のバランスをとっているのだろう。


「……肉片が無い。 この出血量で、ここまで何もないのはおかしい」

「それに、あの【緑小鬼】程度でこれができるとも思えないわね」


確かにそうだ。 あの華奢な体躯で大勢の人間から血を絞りとり、更に体を運び出すのは不可能だ。


「やばいな、今これをやったやつに会えば間違いなく死ぬ。 けど、かなりの人間を運び出したはずだから、しばらくはなんとかなるだろ………」


なってもらはないと死ぬ、という言葉を呑み込み青年。

無言で腰を抜かした凛華を抱き上げ―いわゆるお姫様だっこ―千枝に視線で実乃里を頼んだ。


今、周りに敵はいない。

この機会はもうないかもしれない、だったら今のうちに行くしかないだろう。

そう、青年が覚悟を決めて前に進む。

正直、千枝がこれに踏ん張れたことには驚いた。

最悪危険だが、3往復するつもりだったのだ。


「とりあえず、駅はヤバそうだから一刻も早く出るぞ」


無言でうなずく千枝に青年もこれ以上しゃべることはせずに前を向いた。





***





駅から離れて3時間がたち、ようやく日も昇り切り、中天に射しかかるころ合い。


道中見つけたコンビニに入り、体力というより精神力を回復するために、2時間ほど休息をとっているころだった。


コンビニの窓から外を見張っていた青年は、遠くに緑色の動くものを発見した。

それは【緑小鬼】だろうとあたりをつけて、いい機会だと考える。


「少し見てくる」と、いうやいなや、コンビニから出ていく青年。


「あっ……」


さびしそうな不安に満ちたような声を上げる凛華。

意外なことに精神の強さは凛華より、実乃里のほうが強かったようだ。


――精神の支えがあると、人はそれにすがってしまう。 なら、これは青年が凛華を抱き上げたときについでに恋心を拾ってしまったせいかもしれない。



30分後。

「いた。 【緑小鬼】だ。 通りを一本挟んだ道に4匹だ」

「じゃなくて! 突然行くなんて! 何かあったらどうするの!?」

「【緑小鬼】程度なら何匹いようが負けはねーよ」

「他に何かいるかもしれないでしょうっ!!」

「そのくらいはわかってる、そのために見失う前に単独行動でこっそり追いかけてったんだ」

「だからってもっと慎重に行動するべきです!!」

「だから見失いかけてたんだよ…………」



凛華のお小言にうんざり顔な青年は視線でほか二人に助けを求める。

しかし、実乃里は顔をそむけて、千枝は薄く笑っているだけだ。


「何とも頼もしいこって………」

「ちょっと聞いてるの!?」

「分かってるって、次から気をつけるからさ!!」

「本当に分かっているのっ!?」


とまぁ、さらにいくつかのやり取りがあり、見かねた実乃里がため息をつきながら仲裁に入るまでは5分ほどの時間を要した。

そしてさらに【緑小鬼】達の情報から作戦を立てるのに5分を使うことになる。





***





「凛華! とどめ! 実乃里続け!」


青年の掛け声に走り出す二人。

手は震え、走り出したばかりなのに息苦しい。

これをやらなければこの先確実に生きていけない。

分かっている。分かっているのに、手は震え、吐き出す息は凍えるように冷たかった。


怖い、怖い、怖い。 

恐怖で真っ黒に染まった心を、彼を目指して走ることで少しずつ少しずつ白く戻していく。

彼の腕の中は暖かかった。

異臭の立ち込める駅に、震えて目を閉じ、真っ暗になった視界は余計に恐怖を掻き立てた。

しかし彼の腕の中はそんな凛華の恐怖を受け止め、やわらかく解きほぐしていくようだった。


彼の腕の中なら目を開ける事が出来る。

彼の腕の中なら異臭も気にならない。

彼とともにいれば何だってできる!


凛華はそう、思った。


―――――勘違いだが。



「ぁあぁあああああああ!!」

「…………………ふっっ!!」


気合一閃

凛華は【緑小鬼】のナイフを突き出した。


狙いたがわず【緑小鬼】の後頭部に突き刺さる!

実乃里も続いたようだ。短い呼気とともに後頭部にナイフを突き立てる。


そして、パリン。


という音と同時に激痛に苛まれる。





***





「うっ、あぐぅ…………」


どうやら寝かされていた凛華は、知らない天井に首をひねりつつ起き上がる。


「起きたか………とりあえず、おめでとさん」


何のことか、ぼんやりしつつ考えていた凛華は次の瞬間ハッとなり、目の前の青年に縋りついた。


青年の困ったような声が聞こえるが、凛華は気にせず抱きつく。

しばらくすると青年は凛華のセミロングの茶髪を撫で始めた。

怖かったな、大丈夫だ、青年の声が身にしみた。


――5分後。


「さて。 皆のLV確認だ」


さっきの事などなかったかのように振る舞う青年。

内心はどうなのか分かったものではないのだが。


「私はLV.2ね」と、千枝。

「………………LV.0」 相変わらずな実乃里。

「LV.0です!」と、ようやく落ち着き敬語が戻ってきた凛華、テンション高し。

「んで、俺がLV.3と」最後に青年。


「私は、LV.1で、【ステップ】で、LV.2で【治療】をおぼえたわ」

「【治療】ですか?」

「えぇ、LV.2で覚えられるのは【治療】だけだったし」

「なるほど、俺はLV.2で【硬化】を覚えました。 けど、LV.3はなしです」

「ってことは、LV.2は【個人別スキル】かしらね」

「そうだと思います」


青年と千枝の会話が続き、またもや、蚊帳の外になる二人。

しかし、今回は割って入るネタがあった。


「あの、あの、先輩!」

「ん、なに」

「見てください! 称号……黒の巫女です!」

「………何やらヤバげな称号だな、おい……」

「違いますよ! ほら! 」

「んーなに、黒の神に仕える巫女に選ばれた証。 黒の属性持ちのそばにいる事で、それぞれに【ブースト】?」

「黒の属性です! 先輩と私が黒の属性です!」

「ってか、黒の属性?」

「はい、黒の属性です!」 

「いやいや、黒の属性ってなんやねん!」

「分かりません!」

「なんでそんなにテンション高いのっ!?」


と、まぁ意味の分からないやりとりはあったものの、新事実が発見された。


【属性】だ。


今のところ訳が分からないものに分類されるが、ここでも定番ネタが役に立つ。


「どうせ、あれじゃね? 黒…闇、白…光、赤…火、青…水、黄…土、緑…風、 って感じかな。 あながち間違えじゃないんじゃない?」

「おおざっぱね、紫…毒とかまだありそうだけど。 まぁ間違いないわね」

「んで、相関性があると」


また、


「凛華? さっきの【ブースト】ってなんだ?」

「はい、えっとですね、身体能力全般強化です!」

「全般って?」

「スミマセン…これ以上のことは…」

「あぁ、んで、なんで俺と凛華が黒の属性だってわかったんだ?」

「私と同じ波長? いえ、魔力ですね。 それを感じたんです」


と、同じ魔力性質はひかれ合うという―おそらく―ことも発見された。





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