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「がああああああああああああああッッッッっ!!!!」
叫び声と同時に緑色の小さな人形は、目の前にいる男子高校生の右太ももに自身のもつ錆びたナイフを根元まで突き立てた。
「あ? あ、あ、あ………ぁああああああぁああああぁあああ!!!」
男子高校生は一瞬、何が起きたのか分からなかったのか不思議そうな声を上げた。
だが、焼け付くような痛みに脳の処理が追いつき激痛に悲鳴を上げる。
悲鳴を聞いた通勤ラッシュの電車から降りてきた乗客は、ビクッと身をこわばらせて叫びを上げる男子高校生に目を向け、その日常ではまず見られない光景に息をのんだ。
そして気づく。 男子高校生にナイフを突き立てている、小さな異形に。
「ヒッッ…!!」
誰かが小さく悲鳴を上げている。それもそうだ、その小さな異形は醜悪で悪意に満ちた笑顔で傷口から流れる血液を見て舌舐めずりをしていた。
「ぃやあああああぁあぁぁぁぁああ!!」
女性の悲鳴が上がった、それを合図に今まで時が止まっていたかのような状況が動き出す!
最初に動いたのは刺された男子高校生の隣にいた友達だろう同じ制服を着た少年だった。
「ッノヤロウ!!」
異形に怯まずその小さな体躯に向かって拳を振り下ろす!
普通はナイフを持った通り魔に即座に反撃などできないだろう。
それは称賛に値するかのような勇気ある行動だった。
「ギャッッ!! ……??」
しかし、小さな異形は体格差があるにもかかわらずピクリとも動かなかった。
1m75cmはあろう少年と、1m行くか行かないかの大きな体格差があるにもかかわらずだ。
「はっ?」
疑問の声を上げる男子高校生、当然だろう、大きな体重差のあるだろう小さな異形がわずかにも動かなかったのだから。
よく見ると男子高校生の目にかすかに怯えが走った、が、それを振り払うかのように雄叫びを上げ、幾度も拳を振り下ろした。
しかし動かない。動かない。動かない。
小さな異形はかたく閉じていた目を開き、いまだ拳を振り下ろす男子高校生を不思議そうに見上げ、直後、加虐的な笑みを浮かべる。
「ギャッギャッギャッ!!」
愉しそうな声を上げて自身の持つナイフを、拳を振り上げる男子高校生の腹に深々と刺した。
そして、硬直する少年にメッタ刺す。刺す。刺す。刺す。
血を浴び、真っ赤に染まった顔面を、歓喜に歪ませながら。刺す。刺す。刺す。
「いぎゃああああああああああぁぁぁっっっ!!」
「ぎゃぎゃぎゃぎゃがががががが!」
男子高校生の断末魔の叫びと、醜悪な異形の笑い声。
降る血の雨に状況のつかめない人々はようやく動き出した。
「いやああああああ!」
「なんだあれ!なんなんだよっ!!」
「あ、あ、あぁぁぁ……」
崩れ出す人垣は一斉に駅のホームから逃げ出す。
将棋倒しにならないのが不思議なほどの混乱ぶりに悲鳴が飛び交い、まだ気づいていなかった乗客たちも意味不明ながらも逃げ出す。
***
混乱の極みに陥ったホームでは、やはりというべきだろう、踏み倒され蹴りつけられるひとたちが出る。
それでも、足を引きずり、手を引き、逃げ出していく。
「あああああああああああああっっ!!」
「い、いたいよぅ…」
「…………………ウっ……うぁ……………………」
血をみて更に恐慌に駆られる人々、踏みつけられすすり泣く女の子、もはや声もあげられなくなるほど刺された男子高校生。
――そんな光景からこの物語は動き出す。