九話 エモノ
僕の殺気に押され、全員が動かなくなった。まるで大地に根を生やしたように動こうとしない。村内はさっきまでの喧騒が嘘のように静まり返る。
「あ、相手はガキ一人じゃねえか! 行け、野郎ども!」
リーダー格らしき男が声を裏返して、周りの男達をけしかける。一人が前に出ると、また一人、また二人とこちらに向かってくる。赤信号は皆で渡れば怖くないという奴か。
「……お前からか?」
僕との距離が一番近い男に向けて、駆け出す。男は後ずさったが、リーダー格の男に尻を蹴られ、僕の前によろめきながらやってきた。剣を抜くまでもない。
腰を落とし、右肘を男のみぞおちに叩き込む。男はその場で腹を押さえて倒れた。
熱気を感じて前を見る。山賊の一人がルーンを唱え、野球のボールくらいの火をこちらに放った。ルーン使いがいたことは予想外だったが、問題ない。
すぐさま僕もルーンを唱える。小川の清流をイメージして、手の平から巨大な水柱を放つ。放たれた水柱は、火のルーンを飲み込み、そのまま男を数メートル先へと吹き飛ばす。
加減をしたが、それは相手に配慮しての事ではない。村への被害を最小限に抑えるためだ。奴らの様な悪にかける情けは無い。
「頭、ここは黄金のダンナに出てもらった方が……」
山賊の一人が頭、リーダー格の男になにやら耳打ちする。それを受けて頭も頷き、男達をまとめると引き上げて言った。『覚えてろよ!』と、これまたテンプレセリフを残して。
僕は肘を叩き込んだ男をつかみあげ、尋問を始める。
「アジトはどこだ?」
男は、顔を歪ませ僕をあざ笑った。
「へへ、頭悪いンで忘れちまったよ」
「そんな事は顔を見れば解る」
男の右の手首をつかみ、そこに握力を加える。男はみるみる脂汗を顔から垂れ流し、青い顔になった。
「アジトはどこだ? 早く言わないと折れるぞ」
もう少しで、折れる。腕が折れる痛みというのは、尋常な痛みではない。吐き気と熱と激痛、そして、腕を失う喪失感。それらを同時に味わうことになる。
「へ、へへ。教える、教えるよぉだから離してくれよぉ」
右腕を離すと男は僕の指跡が残った手首をさすり、口を開いた。
「村の裏山に少し大きめの洞窟があるんだよぉ。そこを3日くらい前から根城にしてるんだ」
「裏山か」
「けど、お前ぇ。死ぬぜ?」
「何?」
「俺たちには、心強い味方がいるんだよぉ。いひひひ」
男は狂ったように笑い出した。そしてその名を口にする。
「いひひ、伝説の殺し屋、黄金のヴァンブレイスだよぉ!」
男の顔面を蹴り上げて黙らせると、僕は空を見上げた。
「ようやく……ようやくか」
煙の上がっていた家々を水のルーンを使って鎮火させ、僕は裏山を目指し、歩き始める。
師匠には悪いが、あいつは僕の獲物だ。誰にも渡さない。絶対にこの手で奴を殺す。