八十一話 ロッテハツライヨ
「ねえ、サウラ……さん?」
「……」
前を歩くサウラは、振り向こうとはしない。迷い無く一点をただ目指し、突き進む。
「感じ悪いわね……なに、この女」
ロッテはサウラを睨みつけながら、指をポキポキと鳴らした。額には血管が浮き出て、今にも破裂しそうだ。
「いや、ロッテも人の事は言えないと思うけど」
「あん?」
ポキポキと指を鳴らしながら振り向いたロッテは、鬼か悪魔のようで、怖かった。いや、というか、鬼か悪魔だろうこれは。相当うっぷんが貯まってるのかも……。
「いえ、何でも。そ、そんな顔で僕を見ないで……いつものロッテでいて欲しいなな」
「え、いつもの可愛いあたしでいて欲しい!? アルがそこまで言うなら……うん。あたし、抑えるわ。この澄み切った青空よりも広い心で、全てを受け入れようじゃない!」
「いや、可愛いとは言ってないけど……それに、もうすぐ雨降りそうだし」
僕がそういい終えるまでに、冷たい滴がぽつぽつと頬に垂れてきた。
「……雨、か」
サウラは不意に立ち止まると、天を見上げて立ち止まった。
「この国の雨は、一度降り出したら強烈な土砂降りになる。今日は一日、この村に止まった方がいいかもしれん」
「そう、なんですか?」
「ああ。ゼオンは森と山に守られた天然の要塞を持つ。さらに、天候の変化も激しい。何も知らずにこの土地をさまようと、大地に還る事になるぞ」
「そうか。だから、あなたのような現地の人が必要なわけですね」
「そうだ。戦は力だけではまかりならん。地形、戦術、知略、経験……お前達には足らぬモノが多すぎるな」
僕は、またロッテが噴火するんじゃないかと思っておそるおそる視線を移した。
しかし、ロッテは神妙な面持ちでサウラの言葉を聞いていた。
「……そうかもね。悔しいけど、この女の言うとおりよ。慣れない土地で安易に動けば苦戦は免れないでしょう。現実に、あの変則的な動きで見事に翻弄されたわ。今度は、ちゃんと対処してみせるけどね。パターンさえ解れば、どうということはないし」
「……聞き捨てならんが、いい返事と受け取っておく。もっとも、某も本気を出したワケではないが……本気を出してうっかり殺しでもしたら、外交問題にまで発展しそうだからな」
「やっぱ、むかつくわ、こいつ」
「まあまあ」
「ふん。雨が本格的に降らないうちに、お前達の宿に向うぞ」
「え? 僕たちと一緒に泊まるの?」
「何だ、ダメなのか?」
「いや、部屋あるかな?」
「誰かと相部屋でもいい。雨をしのげる場所が欲しい」
急にロッテが僕とサウラの間に入ってきて、両手を水平に上げ通せんぼした。
「アルの部屋はダメよ。あたしが予約してるんだから!」
「いや、女将さんがフィーザと一緒だって言っていたような……」
「フィーザなんか、関係ないわ! ん、いやまてよ……。ちびサウラちゃんは、フィーザと相部屋にしなさい。きっと、性格悪い者どうし、仲良くなれると思うわよ」
ちびサウラちゃんって……。
「それで2人が意気投合しちゃったら、面白いね」
サウラとフィーザか。タイプとしては全然違うよな。ていうか、師匠やリト、オルビアとうまくやってくれるのだろうか、サウラは……。