表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金のヴァンブレイス  作者: 岡村 としあき
第二部 第二章 『いつまでも一緒に』
83/85

八十話 サウラ

 サウラと名乗った仮面の少女。彼女は音も無く僕の目の前にやってくると、僕の腕をつかんで引っ張った。


「行くぞ。すぐにここを発ち、アジトへ向う。説明は、移動しながらで構わないな?」


「ちょっと待って! いくらなんでも突然すぎるよ。準備もある。それに、お世話になった村の人たちに一言くらい――」


「余計なことに時間を割いているヒマは無い。本来ならば、かような任務。もっと下の者を充てるはずだったものを……派遣されるのが、名高きエルドアのルーンナイトと聞いて、上の連中は見栄の張り合いで我を派遣した」


 なるほど。国家間で連携するとはいえ、上には上の思惑や、プライドみたいなのがあるのかもしれない。ロッテに釣りあう人材……それが彼女なのだとしたら、彼女はルーンナイトクラスの実力者、ということになる。いや、実際さっき彼女とやり合って僕とロッテは翻弄されてしまった。


 ここが彼女のホームグラウンドとはいえ、圧倒されたのは事実。だがそれは同時に、頼れる仲間ということでもあるか。


「あ、そうだ。さっきの男の子の……遺体をそのままにしておくわけにはいかない。探して……家族のところに……」


 戦いから解放されたせいか、安堵ともにあの子のことを急速に思い出した。村は近い。せめて、家族の元まで運んで最後のお別れを告げさせたい。


「余計なことに時間を割いているヒマは無いと言った」


「そんな、余計なことって!」


「……」


 冷気すら漂ってきそうなほどの、冷たい視線。サウラは、それ以上を言わず、言わさず、再び僕の腕を引っ張り歩き出す。


 そして、彼女が歩いた地面には、うっすらと血がにじんでいた。視線をサウラに戻すと、彼女のふとももから血が少しづつ流れ落ちている。さっきの戦いで負ったのか?


「サウラさん。足をケガしてるみたいだけど」


「気にするな。かすっただけだ。某の肉体は、治癒力の強化が施されている。放っておけば時期に傷が治るだろう」


 治癒力の強化。この子は一体……。


「アルーー!!」


 後からロッテがやってくる。そして、僕とサウラを見つけると、瞳を鋭く輝かせ、獰猛(どうもう)に吼えた。


「ちょっと、アル。何、その可愛らしい女の子は……こんな森の中でナンパ? あたしというものがありながら……それも、戦闘中に……いいご身分ですこと……」


「いや。ちが――」


 弁解しようとしたら、サウラが僕の前に出て、冷たく言い放った。


「先ほどの女か。確か、ルーンナイト第六席だとか言っていたな。この程度がルーンナイトとは……エルドアも底が知れる」


「なあんですって、だいたい、あんた何者よ! アルの手首なんて握っちゃって! あんたが手首ならあたしは胴体よ! どう、うらやましいでしょう!?」


 ロッテは鼻息をロケットのように噴出すると、僕の腰に手を回してしがみついてきた。何やってんだよ、ロッテ!


 ……ちょっと、嬉しいけど。


「ちょっと! へんな争いやめて! ほら、ロッテ。この人だよ。例の協力者!」


「え?」


「ゼオン王国王室警備隊長サウラだ。先ほどお前達に攻撃を加えたことについては、謝罪しよう。おかげで実力の程も知ることが出来た。フォローが十二分に必要なようだが。……久しぶりにやりがいのある仕事のようだ」


 ロッテは噴火しそうな火山のごとく、うなった。


「どうどうどう。落ち着いてよ、ロッテ」


「な、ん、で! なんで毎回、あたしは旅に同行する女共にケンカ売られなきゃなんないのよ!! く・や・し・いいいいいい!!!!」


 ロッテは目の前にあった木に八つ当たりした。思い切り放った拳は幹を砕き、大木が地面に崩れる。クールダウンさせるのが苦労しそうだな、これは。


 でもまあ、たしかに。フィーザの時もそうだったな。ロッテって、同性にからまれやすいのかも。


「おねーさーーん!!」


「ん?」


 男の子の元気な声が聞こえてくる。その姿を認めると、僕は思わず驚きの声を上げた。


「え、あれは」


 森の向こうから息を切らせてやってきたのは、さっきタウロスに殺されたはずの男の子だった。


「おねーさん、さっきはありがとう! おねーさんの言うとおり、リーザちゃん、家に戻ってたよ! これ、お礼! じゃあね!」


 男の子はサウラに駆け寄ると、大きなあめ玉を一つ手渡し、また元気よく走り去って行った。どういうことだ?


「あの子……さっき、タウロスに殺されたはずじゃ……」


「某が助け出した。おかげで、足に傷を負ってしまったがな」


 サウラはにこりとも、にやりともせず、自分のふとももをさすった。先ほどまで流れていた血はすでに止まっていて、傷がふさがっているようだ。


 そうか。あの一瞬で、サウラがあの子を助け出していたのか。じゃあ、あそこに落ちていたのは、サウラの血? ……でも、よかった。あの子が生きていてくれて……サウラには感謝しないといけないな。


「子供はこの国の宝だ。守ってやるのは当然の事」


「何よ、自分だって子供のクセに」


 すかさずロッテが突っ込んだ。確かに……サウラはどこからどうみても10代前半といったところで、子供だ。


「心外な。某は去年成人の儀を終えたばかりなのだぞ。大人が子供を気遣うのは当然だろう」


 え? このサウラが成人? 身長だって、150CMもなさそうなのに。


「成長を抑制するルーンを体に刻んでいる。この体のほうが、潜入もしやすいし、敵と戦うとき、愚かな輩は油断してくれるからな。……とにかく、くだらない話をしていないで、さっさと行くぞ」


 サウラという少女? に僕らは手を引かれ村に戻って行った。

次回は9月23日更新です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ