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黄金のヴァンブレイス  作者: 岡村 としあき
第二部 第二章 『いつまでも一緒に』
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七十九話 ヒメイ

 タウロス。確か……この前ドルイドのシチューに入っていた、あれか? けれど、それらしい物は影も形も無い。


「リーザちゃん? 出てきてーぼく、降参するからー!」


 男の子は森の奥に向って大きな声を出した。


 そして――。


 男の子の大きな声は、一瞬で悲鳴に変わった。小さな影は、いくつもの触手となって、男の子に襲い掛かったのだ。


 触手は一気に男の子に覆いかぶさると、すでに男の子の姿はそこになかった。


 さっきまで男の子が立っていた場所には、血の痕があって、それ以上彼の身に何があったのかは……考えるまでも……ない。


「あ……」


 僕は……助けられなかった。年端も行かない小さな子供を。遊びたい盛りの、あどけない笑顔を守れなかった。


「アル! 大丈夫? 気を抜かないで!」


 心配そうに駆け寄ってくるロッテ。そうだ、まだ敵がいる。異形もいるんだ。


 タウロスという奴と正体不明の敵。三つ巴の戦いになる。


 悲しんでいる場合でも、悔いている場合でもない。気を抜けば今度は自分の番だ。今、僕は生きている。生きている以上は、生きないと。


「アル、あれがタウロスよ。あいつは、自分の触手を自在に変形させて、獲物の同族に姿形を似せて油断したところを襲ってくるの。……でも、どうして? こんな所にいるだなんて……」


「そうか。あれがタウロス……ん? さっきの仮面は? 姿が見えないね」


 つい先ほどまで近くにいた、あの仮面の敵の姿が無い。逃げたか?


「どこかに隠れて漁夫の利を狙ってるのかも。あいつの目的があたし達なら、わざわざタウロスと戦う必要なんてないし。あたし達がタウロスと戦って、消耗したところを再度襲撃するつもりよ。その方が、効率いいもの……」


 効率、か。なんだか嫌な言い方だ。けれど、それも当然なのかもしれない。第三の敵を相手に共闘だなんて、ムシのいい話はそうそうないだろうから。利用できる物は最大限利用する。この状況すらも。


「行こう、ロッテ。あの子のカタキをとってあげないと……それに、これ以上被害を出さないために」


「うん」


 森の奥に向って、警戒しながらおそるおそる進む。すると、ロッテが僕の前に出て、左手で制した。


「私が前衛。アルは後衛よ」


「いや、僕が前に出る」


「大丈夫よ、アル。あたしは防御特化だから……それに、タウロスとは一度戦ったことがあるの。触手には気をつけて、いくら斬り付けてもすぐに再生するわ。本体の頭を狙うの」


「わかった」


 再度前進。周囲に気を配りながら歩き続けるのは、疲れる。しかし気を抜けない。さっきの仮面がいつどこで僕らを狙ってくるか解らない。


「うわ?」


 一瞬、目の前が真っ白になった。どうやら、霧が当たりに立ち込めているようで、前後が解らなくなる。


「ロッテ、どこだ!?」


「アル!!」


 確かにロッテの声が聞こえるが、姿がどこにも見えない。はぐれてしまった?


 まずいな。この状況で……タウロスが触手で惑わしてきたら、判断ができなくなるぞ。


 嫌な時に、そんなことが偶然起きた。


「ロッテ、か……?」


 目の前に、少女のシルエットが浮かび上がる。背の高さも、髪型までそっくりな人影が、霧の向こうにいた。


 ここでうかつな行動に出れば……僕もさっきの男の子と同じ運命をたどる。なら、どうするか。


「ロッテ、君を信じるよ!」


 意識を集中する。研ぎ澄まされた刃をイメージして、烈風を巻き起こす。


 風は霧ごと人影を切り裂いて、周りの木々を薙ぎ倒した。そして、霧の向こうから茶色い触手がうねうねと、気味悪く伸びてくる。


「……ロッテならよけれるはずだからね。後が怖いけど……とりあえずよしとするか、行くよタウロス」


 霧の向こうには、白い牛。赤い瞳と、茶色い触手をうねらせ、僕に向ってくる。


「僕、あんなのをおいしそうに食べたのか……」


 あの時のロッテの気持ちが理解できた。少し気分が悪くなったが、今は戦闘中。あとにしないと……。


 タウロスと互いに睨み合う。接近戦に持ち込むにしても、あの触手のリーチが気になるな。うかつに飛び込めば、刺されるだろう。


 遠距離から攻撃して、徐々に追い詰めて行くか。


 よし!


 考えをまとめ終わると、タウロスが僕を求めて間合いを詰めてきた。後退して距離を取りつつ、反撃の機会を窺う。


「?」


 頬に水が垂れた。それは、赤くてねっとりとした、血。そして、断末魔。


 いつの間にか、勝負はあっけなく終わりを迎えた。


 白い霧の中で、赤い飛沫が四方八方に飛び散り、音も無くタウロスの首が地面に落ちたのだ。


 そして、その傍らにはこちらに背中を向けた仮面の女がいた。どうやら彼女が仕留めたらしい。しかも、タウロスを一撃で。


「……エルドアの戦士とは、この程度のモノか?」


「え?」


 仮面の女はこちらに振り向くと、顔に手をやり仮面を外す。その下から出てきたのは、幼い少女の美しい顔だった。しかし、表情というものがまるでない。素顔すらも仮面が張り付いたような……そんな冷たい印象を受ける。


「まずは非礼を詫びよう。突然攻撃を仕掛けたこと、それは、そなたらの実力をこの身を持って知っておきたかったからだ」


「……あなたは?」


(それがし)の名はサウラ。ゼオン王国王室警備隊長。そなたらの案内人であり、件の殺し屋のアジトに同行する者」

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