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黄金のヴァンブレイス  作者: 岡村 としあき
第二部 第二章 『いつまでも一緒に』
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七十六話 ゼオンニテ

 エルディアを出発して、数日が経った。エリスともそこで別れることになったけど、こればっかりはどうしようもない。


 必死に僕の腕をつかんで無言で何かを訴えていたけど……行かなければならないんだ。


 ――黄金のヴァンブレイスを仕留めるため。


 ゼオンで何が起きるのか。そこで何が待っているのか。


 僕の旅はそこで終わるのか。戦争はどうなっていくのか。


 ……解らないことだらけだ。


「ちょっと待ちなさいよ、このバカ! あんたでしょ、あたしのブラシ勝手に使ったの!」


「あ? うるっせーな。ブラシくらいいいだろ。人間助け合い。困ってる人がいたら手を差し伸べる。ぴーぴーうるせえんだよ、赤毛は」


「それだけじゃないでしょ! あたしが命の次に大事にしてるスカーフを、ぐちょぐちょに濡らしたのもあんたね!」


「ちょっと手ぬぐい代わりにしただけだよ。トイレに何も拭くものなかったんだから、それぐらい大目に見ろって」


「トイレ!? いやらしい……この痴女! トイレで何をしていっていうのよ! 一体何を拭いたっていうのよ! 不潔!」


「何でトイレ行っただけでオレが痴女扱いされなきゃなんねーんだよ! 手え拭いただけに決まってんだろ! 埋めるぞ、こら」


「なら、こっちは素っ裸にして道端に放り出してやるわ! 痴女にはお似合いね!」


「てめえ、朝っぱらから何様だ、この野郎」


「朝っぱらからロッテ様よ、この野郎」


 うるさいな。


 感傷に浸る時間も無いのか。


 僕は朝食をとった後、紅茶をすすっていた。


 ここは宿の一室。ゼオンに入ってすぐ近くの、寂れた村にある宿屋。


 室内はぼろぼろ。お化け屋敷っていう言葉がぴったりと似合う。キングオブお化け屋敷だ。


 フィーザの勧めで泊まったのだけど、見てくれは確かに悪いが、料理は一流だった。なんというか、お袋の味的な、素朴さと懐かしさがある。


「オレのフランベルジュを受けるか、赤毛?」


「そんなモノ、あたしのイージスの盾の前では、ムダよ」


 狭くて汚い宿屋の真ん中で、ロッテとフィーザが戦闘態勢に入る。


 睨み合う2人の間に立とうという者は、誰もいない。いや、師匠は寝てるし、オルビアは腕立て伏せしてるし、リトはパンにがっついていて、興味が無いからなんだけど。


 しょうがない。


 僕が止めるか。もう、毎度のことなんだけどね。


「はい、そこまでだよ。いい子だから、2人とも落ち着いてね」


 僕がそう言って止めようとした時、目の前に影が立ちはだかった。


 そして、その影はフィーザの首根っこを軽々つかむと、笑った。


「フィーザちゃんや、およし。お友達にちゃんと謝って、仲直りするんだよ」


 この宿の女将さんらしい。フィーザとは知り合いのようだった。


「女将!? 離せ! こいつはここでオレがぶっ殺す!」


「まったくもう。少しは女の子らしくなったのかと思えばこれだ。あんたは確か……ロッテちゃんだったね? フィーザちゃんはこんな子だけど、本当はとっても優しい子なんだ。どうか、嫌いにならないでやっておくれ」


 女将はロッテを見ると、優しく微笑んだ。


「それは……もちろん。友達ですから……」


 ロッテは照れくさそうにすると、目を逸らす。


「女将! 余計なこと言うんじゃねー!」


「はいはい」


 女将から解放されたフィーザは、面白くなさそうな顔をしていたが、ロッテの目の前までずんずん勢いよく歩くと、急所を貫くような速さで右手を差し出した。


「……悪かったな」


 ロッテはフィーザと目を合わそうとしない。


「……いいわよ。あれ、あんたにあげるわ。また新しいの買えばいいし」


 2人は互いに目を合わせずに握手をした。


 ケンカは毎日のようにしているが、仲直りも同じ数だけしている。結局なんだかんだで仲がいいのかもしれない。


「あんたがアルフレッドちゃんかい? う~ん、う~ん。うん、合格だよ!」


「は?」


 いきなり女将が音も無く間合いを詰めてきた。速い。フィーザとやりあった時よりも速い。


 あの体型でこれほどの瞬発力をもっているとは、あなどれない。一体、何者なんだこの女将。


「フィーザちゃんをよろしく頼むよ。あの子は、あたしにとってかわいい娘なんだ。泣かしたら、しょうちしないからね!」


「絶対泣かしません。むしろ、僕が泣かされそうです」


 即答した。


 気迫だけなら、ドルイド・ハーケンといい勝負をしそうだ。


「でも、安心おし。部屋はちゃんとフィーザちゃんと同じ部屋にしといたからね。へっへへへ。若いモンはいいねえ」


「は? フィーザと同じ部屋?」


「そうだよ。フィーザちゃんとは恋人同士なんだろ? あたしの目は節穴じゃないよ。今夜は2人の愛が加熱しすぎて宿が家事になるかもしれないねえ」


 女将は下品に笑いながら二階へと消えて行った。


 僕、野宿しようかな。ここにいたら身がもたないかも。

8月は多忙につき、

次回更新は9月1日になります。

二話分投稿しますので、どうかお待ちください。

後ほど活動報告でもご連絡します。

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