七十二話 ナカヨシ
「あ?」
「ふむ」
「え?」
ロッテが発案したのは、フィーザを僕らに同行させるというものだった。
「彼女の実力は、刃を交えた私だからこそ解ります。それに、彼女はゼオンの出身。道中の道案内はもちろん。現地に詳しい人間は重宝するでしょう」
そういえば、掃除の間にロッテはフィーザに何やら聞いていたみたいだった。それは会話というより、怒鳴りあいのようなものだったけど。
「ほう……なるほど。実力面でも、私の目から見て問題は無い。むしろ、我らが王の下でその腕を振るってもらいたいくらいではある。それに、私も個人的に気に入っておるしな」
「おお? なんかおっさんがオレの事褒めてる……? やべえ、なんかおっさんかわいい」
フィーザは遊んでいた手を止めてドルイドを指差し、げらげら笑った。
ドルイドのきょとんとした顔は……かわいい、のだろうか。僕にはよくわからないが。
「……その性格を直した後ではあるが」
ドルイドがフィーザをチラ見して、視線をロッテに戻す。
「まあ、よかろう。本来ならば、正式な手続きが必要になるが、今は戦時中。特例ということで、娘を第六席の下に着ける事を許可しよう。身分の保証も私がしてもよい」
「ありがとうございます」
ソファに座ったまま、ロッテが深々と頭を下げる。
僕もそれにならって頭を下げたが、チラリと隣を見ると、フィーザはあいかわらず、げらげら笑ったままだったので、ロッテが左手で強引にフィーザの頭を倒した。
「って! んだよ、赤毛!」
頭を上げたフィーザはロッテを睨みつけた。
「ドルイド様があんたの同行を許可してくださったの。その何も詰まってなさそうな軽い頭を下げなさい、バカフィーザ」
「なんだかよくわかんねーけど、オレ。アルフレッドと一緒に行っていいのか?」
「ええ、そうよ」
ロッテが天使のような笑顔をフィーザに向けると、フィーザはソファの上に足を乗せてガッツポーズする。
「おっしゃあ! やっぱ持つべき物は友達だな、見直したぜ、赤毛!」
「あんたには、あたしの部下としてせいぜい役に立ってもらうわ」
途端、ロッテの天使のような笑顔が、悪魔のようにクククと笑い出す。
「さんざん使い倒して、虫けらみたいに扱ってやるわ……フフ。戦闘の時はちょうどいい盾になりそうだし、戦死でもしてくれれば一番都合がいいんだけど。宿に着いたら肩でももんでもらいましょうか。その前に買出しね。しつけもちゃんとしなきゃ」
「んだと、この赤毛。誰がてめーの命令なんか聞くかってんだ! 相変らず何様だ、この野郎!」
「相変らずロッテ様よ、この野郎!」
始まった。赤い龍と黄色い虎が、目の前で天下を分かつ戦いを始める。
「やめい! 見苦しい! 若い娘がそんなはしたない姿で争うでない!」
が、それは黒い魔神の一喝であっけなく終息した。
「も、申し訳ございません、ドルイド様」
「チ。命拾いしたな、赤毛」
ロッテはドルイドに怒鳴られて、しゅんと落ち込み、それを横目でフィーザが小ばかにした笑いを浮かべている。
「いいなー。野生的なお姉さんは……本当ならぼくも行きたいんだけど……お兄さんとゼオンで遊びたかったなー」
「ならん! この馬鹿者が!」
地震が起こった。どうやら、原因はドルイドが床を右足で踏みつけたことが原因らしい。
「仮にもハーケンの家を継ぐ者が、戦以外で軽々しく国外に出るものではない! 戦は遊びでは無いのだぞ! 解っておるのか!」
ものすごい迫力だ。目の前で火山が噴火したかのように、怒涛のごとき説教の波がエリスに襲い掛かった。
エリスは涙目になっている。
「ごめん、なさい、父上」
「うむ。解ったのならばよし。……お前が遠いところにいってしまうと、屋敷が静かになる。それでは……寂しいではないか」
怒り顔のまま、ドルイドはぽつりと本音を漏らした。けっこうこの人、寂しがり屋さんかもしれない。
「見苦しい所を見せたな。さて……大方の話は済んだ。今日はこれくらいにして、お前達は休むがいい」
「はい」
僕らは立ち上がると、広間を出ようとする。しかし、ロッテとフィーザがドアの前でぶつかって、やり始めた。
「ちょっと、フィーザ! 今あたしの足踏んだでしょ!? 痛いじゃない!」
「うるせー、んな所でちんたらしてるのが悪いんだよ! って痛てえ! てめーこそ、オレの髪引っ張ってるじゃねーかよ!」
「……仲良くケンカしてね」
宿への帰路を辿る最中も、2人は相変らず仲が良くよりそっておしゃべりをしていた。
こんなんで、この先やっていけるのだろうか?
かなり不安だな。
それに、僕らに同行するということは、ロッテだけでなく師匠やリト、オルビアらとも行動を共にするということだ。
彼女達ともうまくやってくれるといいのだけど……。
不安に思いながらも、なんとか宿にたどり着き、僕はさっそく師匠たちを部屋に呼んだ。
「フィーザ。僕の連れを紹介するね。まず、こちらが僕の剣の師匠、セインさん」
「セインです。初めまして、フィーザちゃん」
師匠が微笑んでフィーザの手を取った。
「おう、よろしくな。セインさん」
フィーザも笑顔で師匠の手を握る。
「で、こっちがリト」
「リトです。よろしくね、フィーザお姉ちゃん!」
「おう、困ったことがあったら、何でもオレに言え」
「フィーザお姉ちゃん……かっこいい……どっかの赤毛のおばちゃんとは大違い」
フィーザが男前に笑ってみせる。すると、リトは感激したように胸の前で手を合わせ、きらきらとした眩しい視線をフィーザに向けた。
たぶん、僕だけだろう。ロッテのこめかみに、青筋が浮き出たのを気付いたのは。
「最後に、オルビア」
「オルビアだ。ふむ。ふむ。ふむ。いい筋肉をしているな、フィーザ殿は。まるで理想を絵に描いたようだ」
オルビアはフィーザの全身を眺めて、そう呟いた。
……どんな理想なんだろう。でも、確かに太ももとかいい形をしている。
ふっくらと、それでいて引き締まっていて……いや、僕は太ももフェチというわけじゃないんだけど。
「へへ、褒めるなよ、照れちまうぜ。あんたとは気が合いそうだな、オルビア」
「うむ。よろしく頼むぞ、フィーザ殿」
「おう!」
がっちりと握手するフィーザとオルビア。よくわからないが、2人は馬が合うみたいだ。
みんなとの挨拶を終え、フィーザは改めて3人を見渡し、腕を組んで溜め息を付いた。
「にしても、リトはかわいいな。赤毛とは大違いだぜ。セインさんも優しいし、赤毛とは大違いだ。オルビアは頼もしいし、やっぱ赤毛とは大違いだな」
そして、フィーザとロッテの目が合う。
「なんですって!? あたしだって、こんなにかわいいし、こーんなに優しくて、こんなにこんなに頼りなるんだから!」
「自分でかわいいとか言うんじゃねーよ、引くだろが」
火花が散った。
「どうどうどう。ロッテ、落ち着いて」
髪色だけじゃなく、顔まで真っ赤になったロッテをあやす。これでは話が進まない。
「おばちゃん、見苦し~い。少しはフィーザお姉ちゃんを見習いなよ。そんなだから、小じわが増えるんだよ」
リトが追い打ちをかけた。
「このっ! なんでフィーザを持ち上げるのに、あたしばっかりこき下ろすのよ! この子は~! 悔しい~~~~!!!!」
ロッテは悔しさを募らせ、地団太を踏む。
こんなんでやっていけるのだろうか……。
ちょっと最近、目の調子が悪いので来週はお休みして
6月24日に更新します。