表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金のヴァンブレイス  作者: 岡村 としあき
第二部 第一章 『復讐する者とされる者』
61/85

六十話 ニギヤカナアサ

 光の無い闇の中。重なる二つの影。荒い呼吸と滴る汗。僕と彼女。そこは、僕ら二人だけの世界。


 僕は、彼女の上にまたがり、腰に両手を添え、そこに力を入れる。上下する彼女の上半身。その度に彼女は刺激で満たされる。


 単純な上下運動がベッドの上で繰り返される。その度に、ベッドがギシギシと音を立てていた。


「アル……」


「ロッテ……」


 何度も何度も、命の鼓動が近づいては離れる。これは神聖な儀式。


 ロッテの白い素肌がみずみずしい。右手は必死にシーツを握り締め、何かに耐えるようにしている。


 次第に熱気を帯びていく体と体。頂点は、すぐそこまできていた。


「アル……あたし、もうダメ……!」


「ロッテ!!」


 ロッテはベッドの上に倒れこみ、苦しみのあまり肩を上下させて荒い息を付いていた。


 以上――今日の筋トレ風景(今日のメニューは腹筋と背筋だった)。


 決してやましいことをしていたわけではない。


「それにしても、急にどうしたの? ロッテから筋トレしようだなんて……いつもはオルビアのセリフだったのに」


 ロッテは息を整えると、仰向けに寝転がり、起き上がっていた僕の目を見た。


「毎日毎日毎日……まぎらわしいへんな声上げて、筋トレされてる同行者の身にもなりなさいよ。それも、あたしの隣の部屋で! あの子は天然だからなんとも思ってないのかもしれないけど、こっちは気が気じゃないんだから!」


「え?」


「とにかく、これからはあたしがアルのパートナーよ! 文句は言わせないわ。逆らったら軍法会議モノよ!」


 もう何度目だろうか? 僕がロッテに軍法会議にかけられそうになったのは……。


 僕らが故郷を旅立って数日……王都エルディアはすでに目前に迫っていた。ここは、王都から一番近い村の宿屋。そして、ルーンナイト第六席ロッテ・ルーインズ……僕の幼馴染の部屋だ。


 と、その幼馴染の部屋のドアが急にバタンと開いて、そこから黒髪の少女が現れた。オルビアだ。


「見つけたぞ、少年! さあ、今日はどんなトレーニングをする? そうだ! 内転筋(内股の筋肉)を鍛えてみてはどうだろうか? 鍛え方はだな」


 と、唐突に侵入してきたオルビアが、僕をベッドの上に倒し、僕の太ももに手を掛けた。


 その瞬間、ロッテが叫び狂う。


「ダメよ! オルビア。アルはね。もう今日の筋トレは終わったの。あんたの出る幕じゃないのよ。もし相手を探しているなら、アルじゃなくて、変わりにあたしが相手を務めてあげるわ!」


「本当ですか、ロッテ様? これは光栄です。では、さっそく」


 オルビアは僕から離れると、寝転んでいたロッテの股関節……両足を開いて、それを内側から両手で押さえた。


 一瞬、骨の軋む鈍い音が宿屋を貫通した。


「ギャア! 痛い、痛いわよ! ナニコレ、筋トレじゃなくて関節技でしょうが、やめなさいバカ! あんたはこの旅が終わったら絶対軍法会議にかけて、牢屋にぶち込んでやるんだから! 覚悟しなさいよ!!」


 その夜。ロッテがどうなったかを僕は知らない。


 朝目覚めると、すでにロッテと僕を除く全員が宿の一階の食堂に集まっていた。


「みんな、おはよう」


 師匠にリト、オルビア、そしてエリス……みんな、今日も元気そうだった。


「あらおはよう、アルちゃん」


「アル兄ちゃん、おはよー!」


「少年、今日も体の調子が良さそうだな。筋肉の動きを見れば解るぞ」


「お兄さん、おはよう。あれれ、ルーインズ卿はどうしたの? まだ姿が見えないけど」


 僕がエリスに答えようとした時、かたかたと、まるで壊れかけのロボットのようなぎこちない足取りでロッテが食堂にやってきた。


「おばちゃん、おそいー。年寄りなんだから早起きしなきゃ」


「誰がおばちゃんだ! だいたいあんたとは、3つしか年が違わないでしょうが!」


 リトが朝からロッテに噛み付き、ロッテが朝一番でキレる。


 何日か寝食をロッテと共にした僕らは、それなりに打ち解けていった……と思う。そう思いたい。


 ロッテとリトは基本的に仲が悪いようで、会うたびに口ゲンカが絶えない。オルビアとは仲が悪いわけでは無いが、筋トレの名を借りた拷問で、ロッテは自分からオルビアに近寄ろうとはしない。


「本当に仲がいいのね、ロッテちゃんとリトちゃんは」


 師匠が能天気に笑顔で二人を見ている。ロッテと師匠は一番仲がいい組み合わせだろうか。


「ほら、アルちゃん。ごはんがきたわよ。私が食べさせてあげるわね、はい。あーん」


 師匠が皿に盛られたスクランブルエッグをスプーンですくって、僕の口元に持ってきた。未だに子ども扱いされて参るが、厄介なのはこれを見たロッテだった。


「アル。あたしもやってあげるわ。ほら、あーんしなさいほら、ほら! ほら! ほらあ!!!! 口開けなさいってのよ! この野郎!」


 ロッテも負けじとスクランブルエッグの皿ごと持ち出して、僕の顔面に突き出した。なんて強引な……。


「ちょっと、ロッテ! 朝からこんなに食べれられないよ!」


 やれやれ。今日も一日、賑やかになりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ