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黄金のヴァンブレイス  作者: 岡村 としあき
第一部 第一章 『誕生』
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六話 セイン・カウフ

 セインさんが僕を見つめる。


「ウォルフおじ様がこの町に来ていたのね。よかったわ、ならあなたはアルフレッドちゃん?」


 どうやら、僕の事や父、ウォルフの事を知っているようだ。それにしても、ちゃん付けはちょっとこそばゆいな。


「うん。アルフレッド・エイドスだよ。お姉ちゃんは、お父さんの知り合い?」


「ええ、私の家、カウフとあなたの家、エイドスは先代から付き合いがあるの。あなたのお父さんに助力を得ようとここまできたの」


「わかった、付いてきて、こっちだよ」


 僕は店先で骨董品を品定めしていた父を見つけ、セインさんと引き合わせた。二人はなにやら、話し込み、時折父が深刻な顔をして頷き、セインさんが真剣な眼差しで何かを訴えていた。


「こら」


 ポンと僕の後頭部に軽く握り拳が落とされ、慌てて振り向く。


「あ、セレーナ姉さん」


 少しむくれた顔で、セレーナ姉さんが仁王立ちしていた。


「どこ行ってたのよ、心配したじゃない」


「ごめんなさい」


「もう、いいけどね。それよりアル。何か欲しいおもちゃはないの? 小難しい本ばっかり読んでないで、お外で友達と遊べるような物を何か買わなきゃね」


 僕が家に引きこもって本ばかり読み、友達がまったくいない事を姉達は心配していたらしい。まあ、当然か。それにしても、おもちゃ……ね。ゲームやプラモデルがあるわけでもないし、物は限られてくるんだよな。


 特に欲しい物があるわけでもないしな……けど、この様子じゃ何か選ばないと開放してくれそうにない。


「じゃあ、あれ」


 僕は向かいの店の店頭に飾られていたクマのぬいぐるみを指差した。あれでいいや。適当に部屋の片隅にでも置いておこう。


「クマさんのぬいぐるみだね! ちょっと男の子らしくないけど、かわいいし、いいね! 待ってて、お姉ちゃんが買ってきてあげるからね!」


 そう言って背を向けるセレーナ姉さん、まるで我が事の様に嬉しそうにはしゃいで駆けていく。


「セレーナ、アルを連れて馬車に戻りなさい。緊急の用事が出来た、すぐにここを発つぞ」


 急ブレーキが掛かったようにピッタリと足を止めるセレーナ姉さん。ものすごく残念そうな顔で僕の手をつなぐと、とぼとぼと馬車に向かって歩き出した。


「ごめんね、アル。でも絶対買ってあげるから、しばらくの辛抱だからねっ」


 力強く僕の手を握り直し、すさまじい勢いでつないだ手を上下にぶんぶん振る。別に気にしてはいないし、欲しくもなかったからなんとも思わないけど……。


 馬車に戻るとすでにフィーナ姉さんとレイナ姉さんがいて、さらに何故かセインさんの姿もあった。


「あら、アルフレッドちゃん。私も馬車に同乗させてもらうことになったの。よろしくね」


 そしてセインさんと僕ら家族を乗せた馬車が動き出す。車内は4人の少女達の笑い声でいっぱいになり、僕は居心地の悪さを感じ、目をつむって寝たフリをした。


 いつしか、寝たフリのつもりが完全に寝入ってしまったらしく、全身に受けた衝撃で僕は最悪の目覚めを迎えた。


「な、何だ!?」


「アル、じっとしてて! お姉ちゃんの側で静かにしていなさい」


「何が起こったの?」


 僕の問いに、セレーナ姉さんが不安と恐怖で震えながら答える。


「盗賊よ、今、セインが外で戦っているの。あなたは絶対にここから出たらダメ!」


 馬車の外に目を向ける。セインさんが二本の剣を抜き、構えていた。その視線の先には5人の男達がいる。


 ボロキレの様な服と、ねっとりとした長い髪と汚い顔。そのどれもが黄色い歯をのぞかせ下品に笑っていた。得物は手入れの行き届いていない剣。 


 日の傾きかけた森の中で、殺し合いが始まる。初めて見る、人と人が命を奪い合う瞬間。


 先に動いたのはセインさんだった。早い。有無を言わさず盗賊の一人を右の剣で腹を貫き、左足で後ろへ蹴り飛ばした。腹を貫かれた男は、噴水の様に飛沫(しぶき)をあげながら転がり落ち、生き物からモノへと変わる。


 後は4人。4人はセインさんが何のためらいも無く仲間を殺す様子を見て、気を引き締め直したのか、やらしい笑みを消すとセインさんを包囲する。


 今度は逆にセインさんが笑った。両手の剣をオーケストラの指揮者が持つ指揮棒の様に振るい、盗賊達の悲鳴が死のハーモーニーを奏でる。そして、辺りに散らばるのは盗賊達の死体のみとなった。


 僕は息を飲んだ。その圧倒的な強さと、美しさに。いつしか日はすでに落ち、雲の間から顔を出した三日月がセインさんの横顔を美しく照らし出した。


 ふいに、セレーナ姉さんが後ろから僕の肩を抱いた。


「セインはね、とっても強い子なの。カウフ家は王家を守る盾とも呼ばれていて、カウフ流双剣術は大陸で五指に入る最強の流派なのよ。あの子はカウフ家の当主の妹さんなんだけど……」


 言葉を切って、窓から視線をそらして、また続ける。


「去年、賊に王家から授けられた宝剣を盗まれた上に、当主……セインのお兄様が殺されたの。それがきっかけでカウフ家はお家お取り潰しになってしまって……。セインはカウフ家の再興と、カタキを追っているのよ」


 僕は悟った。もう、カウフ家は存在しないんだ。彼女の言う『黄金のヴァンブレイス』によって兄が殺され、財産もすべて奪われ残ったのは身一つ。


 血にまみれた銀髪と美しい顔の少女が馬車に戻ってきたとき、僕はなんと声を掛けてよいものか迷った。

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