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黄金のヴァンブレイス  作者: 岡村 としあき
第一部 第五章 『8年目のボーイミーツガール』
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五十一話 ハルマキソウドウ

「リト、アルお兄ちゃんのソレ。……欲しいなあ」


「え? 僕の?」


 リトが僕の大事な物を指して言った。


「う~ん。リトの口にはちょっと……大きいんじゃないかなあ」


「欲しいよ! ちょうだい! ねぇ」


 僕を上目遣いでみつめるリト。僕はその瞳に宿った魔力についつい負けてしまい……。


「じゃあ……こぼさないように、気をつけるんだよ」


「うん!」


 リトはソレを小さな口で一生懸命くわえる。


「あ!」


 僕はつい声をあげてしまった。


「お汁がかかっちゃった……」


 案の定、多きすぎて、中の汁を顔に撒き散らしたようだ。


「ちょっと、あんた! 朝っぱらからこんな小さい子に何卑猥なことさせてんのよ!!」


 急にロッテが宿の食堂に飛び出して、早口でまくしたてる。しかも、何故か顔が真っ赤だ。


「え? リトに僕が作った春巻をあげただけなんだけど……」


「え? 春巻?」


「アルお兄ちゃんのハルマキおいしー!」


 朝食の前に僕が宿の食堂の台所を借りて、有り合わせで作ってみたのだがうまくできたようだ。リトは満足そうに喜んでいる。


「ま、まぎらわしいのよ! 春巻食べてるんなら、最初からそう言いなさいよ!」


「え? ああ、ごめん?」


 リトが席を立ち、僕の隣にくると袖を引っ張り恐ろしいことを言った。


「アルお兄ちゃん。この怖いおばちゃん誰~?」


 ロッテの顔が険しくなった。


「こら、リト! この人は怖くないよ! 優しいんだよ!」


 急に殺気を感じて振り返る。


「アル~。まず先におばちゃんを否定しなさいよぉ。あたしの優しいとこ目に焼き付けておく? ン?」


 フォークを握った右手がわなわなと震えている。やばい。しかも、前髪で片目が隠れているので、ビデオを見たら7日後に出てくるあの人とビジュアルがそっくりだ。


「ふぁああ~。あら、おはようアルちゃん。今日は賑やかなのね」


 師匠が眠気まなこをこすり、あくびを引きつれ二階から降りてきた。師匠の登場のおかげで、その場はなんとかしのげたようだが……。


 ちなみに何故ロッテがここにいるのかというと、オルビアとの筋トレで体中が筋肉痛になりすぎて一晩動けなくなったらしく、同じ宿に泊まっていったのだった。


 あと、オルビアは現在朝の筋トレ中なので、ここにはいない。


「師匠、おはようございます。食事はそこに――」


 僕の下半身の上に柔らかい感触。そして、いい匂いと長い銀の髪。ぬくもりと重さが僕にのしかかり、一瞬僕は違う世界に旅立った。


「って! 師匠! 師匠の席は逆です! ここは僕の膝の上ですってば!」


 師匠が寝ぼけて僕の膝の上に着席してしまったようだ。


「逆~?」


 まったく、師匠の低血圧にはまいる。しかし。――もうけたな。


 そのぬくもりが離れたと同時、師匠がくるっと180度回転してきて、今度は目が合う。一瞬頭の中が?になるが、また柔らかい感触とぬくもりが僕にのしかかり……。師匠が僕にもたれかかってくる。朝からこれは刺激的すぎた。


「これで……ふぁああ……いいのぉ?」


 ――イイ。いいや、よくない! しかし……時間よ止まれ!


「師匠、だから違いますってば! 師匠の席は……」


 今度はさっきよりも凄まじい殺気を感じた。振り返ると……ロッテがナイフを持ってこちらを凝視している。……怖すぎる。


 僕は音速を超えるんじゃないかと思えるくらいの速さで、席を立ち、師匠を本来の席に座らせ、自分の席に戻る。


「ほ、ほら、ロッテ。君の分の朝食もあるみたいだよ。みんなで仲良く一緒に食べよう、ね? ロッテの事、待ってたんだ、中々降りてこないから心配したんだよ!」


 ロッテの顔が急に明るくなって、殺気が陽気に変わる。


「あたしの事、待ってたんだ……? そんな、ほっといてくれてもよかったのに……。でも、当然よね。ルーンナイトを差し置いて勝手に朝食始めるなんて、軍法会議モノよ! ……フフ。待っててくれたんだ……フフ」


 にやけながら席についたロッテだったが、すぐにその陽気が怒気を含んだ叫び声に変わる。


「ギャア! 何よこれ! あたしの分がないじゃない! どこへ行ったのよ!」


「あれー? それリトのおかわりだと思ってた! ごめんね、おばちゃん」


 しれっとした顔で、しかも顔も向けずにそのままの視線でリトがルヴェルド以外に言葉のナイフを使った。


「あたしの食事を……軍法会議モノよ! 今すぐ吐き出しなさい! 水攻めにして、罪を洗いざらい白状するのよ!」


「ロッテ、ダメだよ! 民間人を軍法会議にかけちゃ! リトだって、悪気があったわけじゃ……」


「アルお兄ちゃん、助けて! このおばちゃん怖い!」


「こら、リト! この人は怖くないよ! 優しいんだよ!」


 ロッテの殺気が……これは、無限ループなのだろうか?


「ったく、あいかわらず賑やかにやってるじゃないの」


 男の声がして一同が振り向く。食堂の入り口にいたのは清潔感あふれる服装と、整った顔。そして、引き締まった口元。どこからどうみても美青年と呼んでいい、若い男だった。


「あの、どちら様ですか?」


 僕は気になって問いかけてみた。


「アルちゃんよ。俺だよ、俺、俺、俺」


 まさか、異世界でオレオレ詐欺にでくわすとは思わなかった。


「えっと、たぶん、人違いか何かだと思いますけど……」


「ジーン卿。どうして、ここに?」


 ロッテが立ち上がって、美青年の前へ飛び出した。ロッテの彼氏……だろうか?


「おいおいおい! だから、俺だよ。ルヴェルドだよ!」


「え!?」


 皆一様に驚いて指を指した。


「違うよ! ルヴェルドは汚くて、臭くて、気持ち悪くて、けばけばしくて、カビ臭いもん!」


「リトたん……さすがに俺、傷付くぜ」


 美青年は何故か涙を浮かべていた。まさか。


「あの~。1+1はいくつですか?」


 美青年は自信満々に答える。


「そんなの決まってるだろう? 8だ!」


 間違いない、ルヴェルドだ。


「これ、ルヴェルドなの?」


 リトは未だ信じられない様子で、美青年ルヴェルドを凝視している。


「ほ~んとだって! いいオトコはこの世に二人もいないのさ」


「いいオトコはどうでもいいのですが、ジーン卿。何かありましたか?」


「どうでもいいって言われると、ちょっと目に汗が入っちゃうよ、俺……。まあ、いいけどさ」


 ルヴェルドは一つ咳払いをして、通る声で言った。


「ここに来たのは、いいオトコルヴェルドとしてじゃないんだ。ルーンナイト第七席ルヴェルド・ジーンとして、第一席エリオ・ハーケンの命令で来たのさ」


 そして、ルヴェルドは僕の目を見て続ける。


「アルフレッド・エイドス。エリオ様からの命令で、お前を連行する。……抵抗するなよ」

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