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黄金のヴァンブレイス  作者: 岡村 としあき
第一部 第五章 『8年目のボーイミーツガール』
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四十七話 キョウキノキリフダ

 ロッテが僕の目の前にいる。信じられない。いや、そもそも――


「ロッテ、何でここにいるの? 前線に出たんじゃないの!?」


「あーもう、いきなりウルサイわねえ。後で説明するから、イイ子にして待ってなさい」


「何だよ偉そうに! 僕達同い年だろ!」


「あたしのほうが精神年齢、あんたよりはるかに上なのよ!」


「へえ? じゃあ一体いくつくらい?」


「あんた……先にぶっ殺すわよ?」


 何故か敵ではなく、ロッテは僕に剣を向け、今にも斬りかからんとしていた。この話題はタブーだ。今後一切触れないようにしよう……しかし、ちょっと気になる。


 そういえば以前。芋焼酎が飲みたいだなんて、おっさん臭い事を言っていた気がするが……いや、もう考えるのはやめよう。


「背中、預けるわ」


「こちらこそ」


 僕はロッテと背中を合わせるようにして、シャナール兵ら5人と対峙する。背中越しに感じるロッテの体温……こんな時なのに、余計な事を考えてしまう自分が不思議だ。


「おおぃ。そっちの赤毛ちゃンはよくみりゃ、カワイイじゃねえのぉ? 俺の奴隷(ペット)になる気は無いかあ? 一生、気持ちよくしてやるぜぇ。ヒヒヒ」


 バイエルはロッテの下半身を見てよだれを垂らす。あいかわらず汚い男だ。


「あたし、気持ち良くされるより、するのが得意なの。上にまたがって、こういう風に――ね!」


 僕の頭の中にちょっとエッチな妄想が流れる。ていうか、ロッテ。エロイよ!


 ロッテが前方の騎士めがけ、剣を振る。下段からの逆袈裟斬り。兵士は剣を弾かれ、のけ反る。そこにロッテの白い右足が伸び、腹部に一撃入れると、左肘を首筋に打ちたて兵士の体を地面に叩き落す。


 そしてその背に剣をつき立て、息の根を止めた。


 僕の妄想はそこで中断される。ロッテ。怖いよ!


「この、メス猿が!」


 ロッテの背後から襲い掛かる兵士。僕は滑り込み、右足をスライディングのように差し出して、兵士の足を砕く。小気味良い音がして兵士は崩れ落ちる。うめき声をあげて、地面をのた打ち回る兵士の腹に刃を煌かせ、命を断つ。


「少しはやるじゃない」


「おかげさまでね」


 再びロッテと背中を合わせるようにして、構える。死角が無くなった分、攻めることに躊躇いが無くなった。攻撃は最大の防御か。


 僕が前に出る。二対三と数の上では向こうが有利ではあるが、僕とロッテの技量の前では数は問題ではない。さっきまでの立ち回りでそれを十分に理解したのだろう。兵士の一人が後ずさりすると、他の二人の兵士も後ろに下がった。


 風はこちらに向いている。僕とロッテはそのまま前に出て、兵士を追撃しようと剣を振りかぶるが、急に3人の兵士の体が燃え上がり剣が空を切り、たたらを踏んでしまう。


「敵前逃亡は死刑なのよぉ。お忘れボウヤ達ぃ? もう聞こえねーか。あははは! 俺の手を煩わせンじゃねえよ、クソ共が!」


 バイエルの手には黄色い札……クレストが握られていた。あれを使って自分の部下を……。


「バイエル・シャウター。あんたの小賢しい挟撃作戦は、ルヴェルドが見抜いているわ。後続の部隊もここには来ない。今頃待ち伏せしているあたしの部下が、始末している頃よ」


「あちゃあ~バレちゃったあ? じゃ、降参しちゃお~かな。捕虜だから~丁重に優しく扱ってねぇ。でも、僕ちゃンこんな病原菌一杯の野蛮人に囲まれたら、ストレスで死ンじゃうかも、いやン」


 悲しげな目で崩れ落ちるバイエル。やっぱりこいつは理解できない。


「……抵抗の意思が無いなら、お前を捕縛する。町に散らばっているお前の部下も、即刻下がらせろ」


「や~だね」


 ロッテの眉がひそむ。


「何?」


「猿はこれだからなあ。えひひ、切り札ってのはぁ、まさにコレの事だよなあ?」


 バイエルが懐から取り出したのは……赤い札だった。


「これ、何だと思う~?」


 それを見たロッテの顔が青ざめる。


「戦略級クレスト……」


「ぴんぽーン。これ一つで町が一つ吹き飛ぶ、お得感満載。お手ごろ価格でガイザーちゃンから買ったのよお。ヘタなまねしたら、起動すンぞ、お?」


「そんなことをしたらお前も死ぬだろうが!?」


「じぇーンじぇーン。僕は死にまちぇーン。って言いたいけど、やっぱ死んじゃうか。まだまだ女とヤりたいし、エルドア猿狩りももっとしたいよぉ? でもでも~ここでデカイ花火上げて、歴史の一ページに名前残すのも悪くないンじゃね? みンなで仲良く弾けちゃわない? ヒャハハハ!」


 こいつは頭がおかしい。


「クレストを奪いとるしか……ないか。それとも、起動の直前にクレストをタイミングよく燃やすか……」


 ロッテの額から一筋の汗が流れ落ちた。


「起動されたくなかったら、俺に近寄るンじゃねーぞぉ。ひゃはっは!」


 バイエルは今にも起動してしまいそうな勢いだ。


「ロッテ。ロッテは万が一に備えて町に残っている人を避難させてくれ。あれがブラフの可能性だってある。僕がスキを見て……なんとかする」


「本気で言ってんの? マジでやばいわよ。あれ。あいつの言葉通りこの町が吹っ飛ぶわ。それでも一人で残るって言うの?」


「僕に考えがある」


「……信じるわよ」


 ロッテはすぐに背中を見せ、その場を去った。


「おおう? 情けねーなあ。お前は逃げなくていいのかぁ?」


「逃げる必要なんて無い」


 前を見る。荒された花壇。そして思い出す。痛めつけられたアイク。虐殺を楽しむこの男。


 意識を集中する。終わり無き苦痛と、凄惨な最後をイメージして、ルーンを唱える。


 もはや、同情の余地はない。


「あひ?」


 バイエルの顔が一変した。


 右手に広がる黒い空間。深い闇。僕の心――。


 さっきまでのバイエルの狂気が恐怖へと変わるのが、とてつもなく笑える。こいつには、たっぷりと礼をしなければならない。


「バイエル・シャウター。お前には死すらぬるい。輪廻の輪から外れて永遠を彷徨え」

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