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黄金のヴァンブレイス  作者: 岡村 としあき
第一部 第五章 『8年目のボーイミーツガール』
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四十三話 カイセン

 シャナール……。今まで幾度と無く耳にし、口にしてきた国名だ。正式には、神聖シャナール帝国。


 僕は、アイクに昔教えてもらったこの世界の歴史を思い出す。数百年前、この世界に原初の統一国家が存在した。しかし、当時の支配者が急逝すると、あっけなく瓦解。


 5人の息子たちはそれぞれが自分を正当な後継者だとし、5つに別れた領地を互いに奪い合った。その結果が今の世界の状況であり、5つの国の始まりだ。


 次男だったエルドが現在のエルドア王国を興し、長男だったシャナイルが神聖シャナール帝国を。三男、四男、五男もまた、同じ様に。今の仮初の平和はたくさんの血肉の上に成り立っている。


 5つの国が互いに争っていたのは、遥か昔の事。敵は人間ばかりではない、異形の存在もある。次第に戦いの波は引き始めるが、シャナールだけは違った。


 他の4国に対して今もなお、侵攻する機会を窺っている。というのも、シャナールは5国の中で一番大きな国土を有し、世界最大の人口を誇る。しかし、国土の大半は痩せた土地で、砂漠化が進んでいるためか、作物にも恵まれない。


 それに対し、隣接するエルドアは肥沃な土地で、緑あふれ、自然に満ちている。だからだ。シャナールとエルドアの戦いは常に国境地帯で繰り広げられていた。エルドアの緑を、自然を手にいれるために。


 それが、祖父の代に大規模な侵攻があったのだが、祖父がそれを少数の部下と共に撃退した。自国にはルーンナイト第一席ロイド・エイドスの名は英雄として語り継がれ、敵国には畏怖の対象として当時の軍人の間では有名になった。


 ……祖父の事を話している時の父は、厳しい表情をどこかに置き忘れたのか、少年の様に目を輝かせ、誇らしげに祖父の武勇伝を語ってくれた。


 その祖父のお陰か、この十数年は比較的平和であった。だが、それも今日までの事。


「すでに国境では先遣隊との戦いが始まっている頃だろう。ルーインズ卿には現地に急行してもらいたい。騎士たちの士気も上がるだろうしね」


「わかりました。すぐに向かいます」


「うん。といっても、君はまだルーンナイトになりたてだし、大規模な戦は今回が初めてだろう? 指揮を執るのも未経験だし」


「はい」


「だから、新しい第七席を君に付ける事にした」


 新しい第七席?


「こんなご時勢だ。臨時の選定会を開いている暇はない。それに、現存の騎士達じゃドングリの背比べもいいところだ。期待はできない。だから」


 そう言って、エリオは僕を見る。


「あなたにお願いしたいんだ、第七席を」


「え?」


「これまでの事は全て水に流そう。現状、実戦の経験が豊富でシャナールのあしらい方を知っているのはあなたくらいでしょ?」


 ロッテも僕を見る。


「敵部隊の指揮官はバイエル・シャウター。恐ろしいくらいズル賢い奴で有名だよ。こっちも双天使あたりをぶつけたい所だけど、彼らも持ち場を離れるわけには行かないからね」


「あなたなら……」


 二人の視線が僕に集まる。


「しょうがねーなあ。いいオトコは一時休止かねえ」


「え?」


 二人の視線は僕ではなく……いつの間にか、背後に立っていたルヴェルドに向けられていた。


「バイエル・シャウターはケツの穴まで腐ったクソヤローだ。今思い出しても吐き気がするぜ。お上品にお相手してたら、即全滅だ」


「現時点で頼めるのはあなたしかいない。復帰、お願いできますね。元第三席?」


「エリオちゃんに頼まれたら、断れないでしょーよ。それに、ロッテ様とお近づきになれそうだしな」


「ぼくがここに来た理由はルーインズ卿に開戦の事を告げに来ただけじゃない。ルヴェルド・ジーンのルーンナイトへの復帰要請。陛下の命だ」


「宿に来たときは驚いたぜ。俺にも黄金のなんたらをぶっ殺す目的があったが、戦争が始まったんじゃそれ所じゃねーからなあ。ルーンナイトが一人欠けたこの状況。攻め込むにはうってつけの時期だったわけだ」


「僕がガイザーを……殺したせい……ですね?」


「アルちゃんよ。思い上がるんじゃねーぞ」


「ルヴェルドさん?」


「お前さんのやった事が引き金かもしれねえが、それはきっかけの一つに過ぎない。あらゆる要素が折り重なって今の状況を作ってんだ。それに、その論法でいくと……一番悪いのは俺だよ。弟を止められなかった俺が、一番悪い」


 ルヴェルドは僕に顔を近づける。 


「早くここを離れろ。セインちゃんと、リトたんとオルビアちゃんを連れて、出来るだけ遠くにな。へたをこくと……この町が戦場になる。俺はフィーナの生まれた家を守ってやりたい。もちろん、弟もな」


「逃げなさい、アル。あなたは民間人。私は騎士、ルーンナイト。……この国を守る義務がある」


 ロッテは、少し間を空けて僕を見た。


「もちろん、そこに住む人々の命も。でも、あなたには望みがあるんでしょう? ここにいると戦闘に巻き込まれるわよ」


「わかったかな? お兄さんの命にもう用はないの。だから、さっさと逃げちゃいなよ。死なないうちにさ、じゃあ行こうか二人とも」


 ロッテとルヴェルド……それにエリオが僕に背を向けて歩き出した。何か……できる事はないのだろうか?


 ルヴェルドだけがその場に止まり背中を向けたまま、僕に語りかける。


「アルちゃんよ。三人を守ってくれや。そんで、できるなら俺の分も黄金のなんたらの顔面に何発かパンチ、ブチ込んでくれ。短い間だったけど、楽しかったぜ? ここにフィーナがいたら……いや。こればっかりはしょうがねーよな。そんじゃ、行ってくるわ」


 ルヴェルドは今度こそ去っていき、川原には僕一人が取り残された。

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