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黄金のヴァンブレイス  作者: 岡村 としあき
第一部 第五章 『8年目のボーイミーツガール』
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四十ニ話 クリティカルヒット

 見られていた。そいつは確かに私を見ている。どこかに目がある訳ではない。そんな気がしただけだが。


 闇が蠢き、真っ黒な手に変化した。5本の指を持つそれは、私に引き寄せられるように伸びて来る。


「何なのよ、これ!?」


 迫る闇に向けて盾を差し出す。闇を受け止めるが、それは一瞬の事。あっけなく盾が崩れ去り、危険を感じた私は後ろへ跳躍する。


 ルーンを跳ね返すイージスの盾をいとも簡単に……あれは一体何なのか? 生物ではない事は確かだし、異形の類でもない。


 再び迫る闇。私は火のルーンを放ち、闇に直撃させる。しかし、闇に吸い込まれ、闇はその体積を増した。


 闇に向けて剣を振るうが、霧のように散らばっては再び集まり、すぐに再生する。


「あれは、彼の心そのものだな」


 後ろから唐突に声を掛けられるが、振り向かない。闇と対峙したまま私は答えた。


「ハーケン卿……どうしてここに?」


「私の事より、目の前のアレをなんとかするほうが先だろう。おそらく、あの闇は彼が抱え込んでいる負の感情だ。ルーインズ卿の心があれを呼び覚ましてしまったのかもしれないな」


 私が……あれを? いや、それよりも……アルは……アルはあんなものを抱えて生きていたのか? どす黒く、暗く、光さえ飲み込む果てしない闇。


 私は……アルの事、どれだけ考えた? あの時、悲しかったのも悔しかったのも私だけ? 違う。


 アルは目の前で家族を殺されたんだ。惜しみない愛情をたくさんくれた家族を。優しい姉と、厳しい父を。私は……アルの事、どれだけ考えた?


 考えていないじゃないか。自分一人が悲劇のヒロインを気取って、自分一人が一番不幸な顔してる。


 私は……嫌な女だ。


「ハーケン卿……どうすれば、あの闇を抑えられますか?」


「おそらく、彼の意識から離れて暴走しているんだろう。彼の意識が呼び戻されれば、或いは」


「お手数をお掛けしますが、あれの注意を引き付けていただけませんか? その間に、彼の目を覚まさせます」


「まあ……いいだろう。あれを放置しておくのは危険だ。ここは任せて、そっちを頼む」


「はい!」


 今更、何がどうなるわけでもない。こじれてしまった私達の関係は元に戻せないかもしれない。けれど。


 あんなの……アルじゃない。あれはアルには似合わない。私は月。太陽の光がなければ輝けない。太陽が沈んだままなら――。


 私が太陽を引きずり出す!


 目の端に、木の棒を捉える。きっと、子供が遊んでいたんだろう。あの時もこれを拾って、振り回したっけ。そして、アルに出会ったんだ。


 こんな棒切れ一つが、私の運命を変えたんだ。そう考えると、バカバカしくなる。


 考え方一つじゃないか。アルが復讐に囚われているなら、私がそこから解き放つ。そして、私に振り向かせてやる。だから、アル。目を覚ましなさい!


 木の棒を構え、アルに振り下ろす。


『殴っていい?』


『はあ?』


 そんなセリフが脳裏に浮かぶ。8年前は未遂に終わった木の棒で叩く行為。今度は、クリティカルヒットした。



 *****


 急激に世界が揺れた感覚に陥る。そして、目を覚ますと何故か頭が痛い。かなり痛い。けっこう痛い。


「目が覚めたようだな」


「ハーケン卿。お下がりください、彼は――」


「ああ、それならもういいんだ。それどころじゃなくなったからね」


「は?」


 目の前には、ロッテともう一人……。


「おはよう、お兄さん。こんな所でお昼寝したら、風邪引くよ?」


「……エリオ?」


 エリオが僕の顔を覗き込んで微笑む。


「ハーケン卿。『それどころじゃなくなった』とは、どういう事ですか!?」


「エリオ。離れて、危ないから。ロッテ、まだやるつもりなら――」


「だからさ、もういいの! 今お兄さんに構っていられるほど時間ないし」


「何を言ってるの、エリオ?」


「ぼくは、ルーンナイト第一席エリオ・ハーケン。ルーインズ卿を呼びに来たんだ。もうすぐ、始まるからさ」


 エリオはキャッチボールをしていた時とは違う、影のある暗い表情になって言った。


「シャナールとの戦争が、ね」

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