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黄金のヴァンブレイス  作者: 岡村 としあき
第一部 第五章 『8年目のボーイミーツガール』
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三十八話 シンジダイノヤドヤ

登場人物紹介


ロッテ・ルーインズ


14歳。ルーンナイト第六席。

アルと同じく転生し、前世の記憶を持って生まれ変わった。

前世で恵まれなかった彼女の人生は、生まれ変わっても変わらなかった。

5歳の時に偶然アルと出会い、自分に近いものを感じ惹かれる。

エイドス家と交流を深めるに連れて、アルとその家族に心を開き、自分の居場所を手に入れたと思った矢先、黄金のヴァンブレイスが引き起こした事件でアルは彼女の元を去ってしまい、心の拠り所を失くしてしまう。

以降は、アルに対して愛憎入り混じった感情を強く抱き、捨てられた事に対する反発からか、ルーンナイトになるという以上の野望を抱いた。

そして彼女がルーンナイトになって初めて与えられた仕事はアルを殺す事……二人が刃を交えるその時は近い。

 僕は働いていた。旧エイドス領に向かう途中、立ち寄った村の宿屋兼食堂で。


「いらっしゃいませ、こちらにどうぞ」


 僕と師匠がウェイターをして注文を取る。リトが厨房にいるルヴェルドに注文を伝え、ルヴェルドが料理を作る。


 オルビアが鉛を仕込んだトレイに料理をのせ、それを上下運動しながら配膳する(たぶん筋トレ兼ねてる)。しかし、たまに食器の上の料理の量が少なかったりする(たぶんリトのつまみ食い)。そして、オーダーと料理が違う事もザラだった(たぶん師匠の聞き間違い)。


 そんな時は大丈夫。3人を呼んで頭を下げさせる。男性客の場合はそれで轟沈する。むしろ、ごめんなさいと謝ってくる。女性客の場合は僕が出向く。これで乗り切れるところがまたすごい。ルヴェルドの作った料理がどれもうまいというのもあるだろうけど。とにかく、僕らがここで働き出してからここの利益も倍になったというのだから、開放される日も近いだろう。


 何故こうなったか? 理由は一つだ。お金がない。


 もっと砕いて言うと、出費がかさみすぎて宿代が払えなくなった。かな? 少し記憶を巻き戻そう。


 赤い髪の女の子を助けた後、僕らはこの村に到着した。


「5名様ですか……申し訳ありません。ただいま空いているお部屋は、二人部屋が2つしかありませんでして……」


「そうですか……どうしよっか?」


 僕ら5人は宿屋の入り口で腕を組んで考える。二人部屋が二つ。ようするに4人しか寝泊りできない。すると唐突に、オルビアが何かを閃いた。


「自分は別に外でも構わないぞ。屋根の上で腹筋をしながら見上げる星空もオツなものだ」


 頼むから絶対しないでね。やらせないよ?


「ふふ。じゃあ、俺とセインちゃんとリトたんが同じ部屋でアルちゃんは別の部屋ってのはどうだ? もちろん、リトたんは俺のベッドにカモンだけどな。いや、セインちゃんもカモンだぜ?」


 ルヴェルドの脳内がピンク色になった。


「どうやったらそんな思考になるの? 脳ミソ、ヨーグルトに入れ替えた方がいいんじゃない? きっと1+1は2っていう答えがすぐ出るよ」


 リトがざっくり言った。


「リトたん……1+1は8だろう? こんな簡単な算数解らないなんて……いいオトコになれないぜ?」


 ルヴェルドがイタイ。ルーンナイトは全員こんな脳筋野郎ばかりなのだろうか? というか、リトは女の子だから違うでしょ。とりあえず僕は頭の端にそれをおいて、当初の問題を考え直す。


「まあ、そうだな。オルビアさんとリトで一部屋使うとして……うーん」


「私とアルちゃんでいいじゃない? ほら、昔は毎日一つのベッドで寝てたじゃない。お風呂も一緒に入ってたし、あの頃のアルちゃんはかわいかったなあ」


「ギャあああああああああああああああ! 師匠、昔の事をほじくらないでください!」


 あれは、違う。決して僕に下心があったわけじゃない。宿泊費を浮かせるためだ。お風呂だって、背中を流しっこして師匠とコミニケーションを図るためであって、幼児である事をいいわけに女湯にどうどうと入りたかったわけじゃない! ……ウソだけど。


「アルちゃん。オレ、生まれ変わるならアルちゃんになりたいわ」


 ルヴェルドの目はマジだった。


「ふむ。しかし、そうなるとルヴェルド殿の部屋がないな。そうだ。廊下で空気イスというのはどうだろうか? 鍛えれて室内にも止まれる。素晴らしい案だと思うが」


 ルヴェルドは高速で首をフルフルと振る。確かに、これ以上脳筋化が進んでもらっても困るが。


「じゃあさ、ルヴェルドのお部屋はあそこでいいんじゃない?」


 リトの指差したドア……そこは。


「……トイレ?」


「だって、ルヴェルド臭いしー。ちょうどいいかなって、お水もあるし、友達(ごきぶ○)も一杯いるから寂しくないよ!」


 明るい笑顔でリトが残酷な事を言った。天使が悪魔の様に笑うというのはこの事か。


「あら、ちょうどよかったじゃないですか、なんか、ルヴェルドさんのイメージにぴったりで」


 師匠は邪気の無い笑顔でそれに同意する。おそらく、最大級の天然だ。トイレが自分のイメージにぴったりだなんて言われたら、僕でも一年くらいヘコむ。


 ルヴェルドは涙を流しながらトイレに駆け込み、出てこなくなった。おやすみ、ルヴェルド。


 結局、その日は僕と師匠。リトとオルビアの組み合わせで部屋割りが決まり、床についた。


 翌朝。問題が起こったのはそれからだ。


 僕は朝、起きると身支度を整え、宿の前に出た。日課になっている剣の素振りをする為だ。鳥のさえずりをBGMにして、1000回の素振りを終えると、宿に戻り、それが始まった。


 宿の一階はフロント兼食堂だ。唐突に宿の主人に請求書を叩きつけられて唖然とする。


「あの……これは?」


「おたくのとこのお嬢ちゃんが食べた朝食代だよ。払えるんだろうね?」


 食堂のテーブルを見ると、すでに食器の山がそびえたち、見るものを圧倒させる。食器連峰だ。そしてその中心にリトがいた。


「ああ、ここにいたのか少年。ご主人、この宿はもう少し強度を考え直した方がいいな。少しスクワットをしたら床が抜けてしまったぞ。壁だって、ほら。少し触っただけで崩れてしまう」


 と言って、オルビアが食堂の壁を押すと、見事に壁がすっぽりと前に倒れ、風通しがよくなって冷たい風が吹き抜けた。


「はっはっは。これはいい。見ろ少年。隣の山が見えるぞ。なんという絶景。それにこの開放感。新時代の宿屋だな、これは。感動のあまり声も出ないか、ご主人。そうだろうそうだろう。礼はいいぞ。いい事をすると気持ちがいいものだ」


 宿の主人は顔を真っ赤にして肩を震わせていた。そんな主人の態度に気付かず、オルビアが腰に手をあて、『ワハハ』と笑った。冷たい風が僕の背中をひんやりとさせる。


「アルちゃ~ん」


 今度は師匠が壁だった場所からひょっこり顔を出した。やはり、嫌な予感がする。


「な、何ですか、師匠?」


「ほら見て! これ! かわいいでしょ~?」


 師匠が羽の生えた不気味な魚の骨の冠を頭に乗せて、走り回った。はっきり言って不気味以外何物でもない。装備したら二度と外せないであろう呪いのアイテムである事は間違いないだろう。そしてそこについてあったままの値札に視線が釘付けになる。


「これだけ使っちゃったあ、えへ」


 師匠の満面の笑み、そう。これがでたら危険信号だ。このとろけるような上目遣いの視線と、艶のある唇にだまされてはいけない。


 おそるおそる師匠の請求書を見て、僕はもう……現実逃避したくなった。


 というわけで。僕らは宿代を支払わない代わりに、ここでしばらく働く事になったのだ。


 以外にルヴェルドは料理がうまい。神様も人間一つくらい取柄が無いとかわいそうだと思ったのか、出荷の際に料理の才能を与えたようだ。


 師匠は注文をかなりの確率で間違うが、そこは師匠のスマイルでなんとかなる。どこで覚えたのかはしらないが、スマイルにもバリエーションがあった。……保護者として将来が心配である。


 リトはあいかわらず料理をつまみ食いしてしまうが、たくみな話術で再調理する時間を稼ぐのがうまい。といってもその料理をまたつまみ食いしてたりするけど。


 オルビアは配膳の瞬間まで筋トレに余念がない。鉛を仕込んだフォークやスプーンを手渡して、客の腕が骨折してしまった事件は記憶に新しい。骨折を無理矢理力で治してしまうオルビアにも驚かされる。


 そんな問題だらけのメンツなのに、一躍この宿は有名になり、売り上げも確実に伸びている。


 ぽっかりと開いた宿の壁も、客に好評だった。『新時代の宿屋だ』と。今度王都に二号店をオープンするらしい。そこの店長にと頼まれたが、僕にそんな暇は無い。


 ずいぶんと宿の主人に引き止められたが、多額の退職金を無理矢理手渡され、ようやく旅立つことが出来た。


 そして、僕は帰ってきた。旧エイドス領――僕の産まれた町。すべてが始まったあの場所へ。

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