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黄金のヴァンブレイス  作者: 岡村 としあき
第一部 第三章 『ヴィーグ動乱』
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二十五話 カイコウ

 歩き始めて数分が立ち、僕はオルビアの横に並んで歩き、声を掛けた。


「オルビアさん、ちょっと聞きたいことが」


 オルビアは振り向き軽快に答える。


「何だ、少年。筋肉の事か? 効果的なトレーニングを積めば君も――」


「え、いや」


 30分くらいして、ようやく話の腰を折る事ができて、本題に入ることが出来た。


「シャイド・アルバーブ理事長。あなたから見て、どんな人ですか?」


「理事長か……。あの人は尊敬できるいい人だ。筋肉を見れば解る」


「は、はあ」


 結局そこなのか。


「ガイザー様と理事長はよく仕事上顔を合わせることが多いので、自分もそれに付き添うのだが……そうだな。最近、ガイザー様は忙しくされている。一週間くらい前からか……ああ、ちょうど君たちと出会ってからくらいだな。最近では自分に行き先も告げずに外出なさるから、困っているのだ」


 ガイザーは影で何かをしている。それは確実か。しかし、部下であるオルビアも何も知らないのでは、これ以上の情報は聞きだせそうに無い。


「ありがとう、オルビアさん」


「気にするな。自分は少年の事を気に入ってるからな。特にその、大腿四頭筋がすばらしい」


「そ、それはどうも……」


「む」


 急にオルビアが立ち止まり、地面に目を向ける。その視線の先には一輪の可憐な花が咲いていた。


「リリアンの花、ですね」


「よく知っているな、少年。自分はこの花が大好きなんだ」


 そういって、そっと花に手を伸ばし、優しく摘んで花を見つめる。


 花を愛でる少女。その姿はなかなかサマになっていって、花も恥らう乙女と形容してもいいだろう。というか、筋肉筋肉と連呼しなければかなりモテると思うのだが。


「少年。これを君にあげよう」


「え!?」


 オルビアは僕の眼を見て、そっと微笑み、リリアンの花を僕の鼻先に差し出した。……リリアンの花言葉は『永遠の愛』。カップルがプロポーズの際に婚約指輪と一緒に贈るのが、一般的なのだが……。それを僕にということは?


 リリアンの甘い臭いが僕の鼻腔を付きぬけ、思考をマヒさせる。受け取るべきか、否か。


「君の事を考えると……ぜひとも受け取って欲しくなって……迷惑だろうか?」


 オルビアの目は真剣だった。


「いや、その、そんな突然言われても……」


「いらないのか? だが、自分はそれが欲しい」


 オルビアは視線の先……リリアンの向こう側、つまり僕の唇を見てそう言った。


 オルビアの端正な顔が僕に迫る。鼻先がすりあうんじゃないかと思えるぐらい近づいて、僕は眼を閉じた。そして――。


 むしゃむしゃ、ごっくん。


 コミカルかつ、可愛らしい音がして、目を開けると、オルビアがリリアンの花を咀嚼していた。


「うむ、美味だな」


 オルビアは『永遠の愛』を胃袋に流し込んで、満足げに頷いた。


「この花には、筋肉を作るために必要な栄養素がふんだんに含まれている。君にもぜひ摂取してもらいたい食物なのだが……一緒にどうだ?」


 やっぱりオルビアはオルビアだった。花より団子というが、花より筋肉なのだろう。


 僕はその後もオルビアの栄養学を聞くハメになり、ようやく開放されたと思ったら、ヴィーグに到着していた。


「ふう、疲れたなあ。さっそくメシにしようぜ。この前、うまい肉料理の店を見つけたんだよ」


「あら、おいしそうですね。オルビアちゃんも一緒にどう?」


「肉か。動物性たんぱく質の摂取も必要だな。しかし、自分は今回の件を報告しにいかなければならん。悪いが、ここで失礼する」


「あら、残念」


 オルビアは右手を上げ、街の中に消えて行った。それと入れ替わるように、リトが買い物籠をぶら下げて僕らの元にやってきた。


「アルお兄ちゃんっ! お帰りなさいー!」


 僕に走ってそのままの勢いで飛びつくリト。少しよろめきながらも僕はその小さな体を受け止める。


「ただいま」


 その様子を見て、ルヴェルドがリトに言う。


「リトたん、ただいま。さあ、俺の胸においで、一週間ぶりの再会の喜びを分かち合おうじゃないの」


「臭いんだよ、ジジイ。加齢臭ぷんぷん巻き散らかしてないで、川に飛び込んでおぼれろよ」


 一週間ぶりのナイフに、案の定ルヴェルドは泣き出した。一週間ぶりだけに、ナイフどころの切れ味ではない、チェーンソーだ。


「アルお兄ちゃん、伯父さん帰ってきたから、お家でお昼、皆で食べよう!」


「そっか、シャイドさん帰ってきたんだ。うん、家に帰って食べようか」


「うんっ」


「リトたんと昼食か。これは心踊るどころじゃないぜ」


 リトはルヴェルドの顔をじーっと見て、笑顔で答えた。


「いいよっ、じゃー、レックスと同じメニュー御馳走してあげるね!」

 

「お、マジか! ひさしぶりにマトモな飯にありつけそうだな」


 ルンルン気分のルヴェルドには申し訳ないが、レックス(犬オス4歳)と同じメニューなんだよ、君は。


 僕らは、昼食をとるため帰宅した。家にたどり着くと、門の前に小さな影を見つけて僕は眼を細める。


 誰だろう? カリンだろうか?


 近づいてみて、それが一体誰なのかわかった。


 ずっと会いたかった。ずっと会いたかった。ずっとずっと――。


 脳裏に焼きついていたあの日が蘇る。僕から新しい家族を奪い、殺してみろと笑ったあいつだ。


 赤いローブ。金色の左手。フードで見えない顔。今にも笑い出しそうな口元。


「黄金の……ヴァンブレイス……」


 ニタニタと不気味に笑って、左手を僕に向ける。間違いない、この存在感。この殺気。先日戦った、ニセモノなんかとは違う。本物だ。


 前に出ようとした僕よりもルヴェルドが先に出て、出鼻をくじかれた。


「久しぶりだなあ、黄金のなんたら……探したぜぇ」


 ヤツは笑いを止め、つまらなさそうに言った。


『何だ、お前は?』


 ルヴェルドはルーンを唱え、右手を地面にめり込ませ、左手を空高くかかげた。


 そして、右手を引き抜くとバウを薙いだあのハルバードが具現され、また左手にはさっきの戦いで見せた緑色のボウガンがあった。


 二重詠唱――ルヴェルドは二つの武器を構え、もう一歩踏み出す。


「なら、こっちの方が解りやすいか? 元ルーンナイト第三席、ルヴェルド・ジーン。お前を愛してやまない男だよ」

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