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黄金のヴァンブレイス  作者: 岡村 としあき
第一部 第三章 『ヴィーグ動乱』
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二十三話 オルビア

 街の門で僕と師匠を待っていたのは、ルヴェルドだけではなかった。


「おはよう、少年。今日は自分の依頼した仕事に同行してくれて助かる」


 ルヴェルドの横で腕立て伏せをしていた少女騎士。オルビアがキラキラ光る汗を弾いて、爽やかに笑った。同じ汗でもルヴェルドのとはえらい違いだ。


「へっくし! あー朝は冷えるなぁ。いや、誰かこのいいオトコの噂でもしてるな、こいつは?」


 ルヴェルドがにへへと薄気味悪い笑みを浮かべる。


「ふう、こんなものか。朝は腕立て伏せに限るな! 見てくれ、このパンパンに張った大胸筋を!」


 オルビアが胸当てを外し、僕に近寄り、胸を前に出す。……本人は大胸筋と言っているが、どこからどう見ても、女性のふくよかな胸だ。


「ふふ、少年。この筋肉、羨ましいだろう、触ってみるか?」


「は、はあ!?」


 師匠ほどではないが、大きくて形もイイ。男のロマンがそこにあると言っても過言ではない。


「遠慮しなくていいぞ。なんなら叩いてくれても構わない。叩いて筋繊維を断裂させ、筋肉痛を起こしてだな……」


 オルビアの筋肉談義が始まり、やがて彼女は一人で違う世界に旅立った。


 叩けと言われても……いや、叩きたいけども。むしろこっちが頼みたいくらいだが……。


 『じゃあ俺が』とよだれを垂らしたルヴェルドが、その魔の手を未知のフロンティアへ伸ばそうとするが、オルビアはそれを拒み、逆にルヴェルドの胸に正拳を打ち込んだ。


「ルヴェルド殿。心地いいだろう、筋肉痛は? あ、そうだ。今夜も一緒に熱く燃えようではないか! この前のあれはすごかったぞ! 自分もさすがに壊れてしまうかと思うくらいの衝撃だった」


 筋トレの話のはずなのに、何でこんなにエロく聞こえてしまうのだろうか?


「おっと、いかん。まただ……筋肉の話になると周りが見えなくなる……そこが自分のチャームポイントでもあるのだがな」


 『ワハハ』と笑って胸当てを装着し、オルビアは騎士の顔になる。チャームポイントだったのか。


「さて、残念だが筋肉の話は置いておくとしよう」


 別に残念ではないが。


「君達も知ってのとおり、ガルダの巣を叩き、討つ。民間人を守る事が騎士の仕事なのだが、今回はいかんせん相手が悪い。本来ならば君達も民間人。心苦しいのだが、ルーンを扱える騎士はヴィーグには自分とガイザー様しかいない」


「任せとけって。ガルダは仲良く四等分だ。皆でおいしくいただこうじゃないの」


 ルヴェルドが舌なめずりして、獰猛な犬の様に吼える。僕なら迷わずダンボールに詰め込んで、雨の日に捨てるような犬の顔だ。


「うむ。存分に腕を振るってくれ。報酬は弾もう。場所はここから小一時間ほど歩いた森の中だ。気を付けてくれ、ヤツは獲物を見つけると空から襲ってくる。常に頭上に気を配るように」


「わかったわ」


 僕と師匠は力強くそれに頷く。そして僕ら4人は街の門を出て、ここに来たときとは逆の方向の道を歩き、森を目指した。しばらく歩いて、目的地に到着する。


「これは……」


 巣はもぬけの空だった。辺りには何の気配も無い。


「エサを調達しに行ったか?」


「エサ……って何を食べるんです、オルビアさん?」


「人間だ」


「まずいわね。被害が出ないうちに討伐しないと……」


「へっへっへっへ」


 ルヴェルドが不敵に笑い、一同を見渡す。


「策ならあるぜ」


「ほう? 何だ、筋肉で釣るのか?」


 筋肉から離れようよ。


「囮だよ。ガルダは若い女の肉が好物なんだ……」


 そう言ってルヴェルドは師匠を見る。


「何だ、自分の筋肉ではダメなのか?」


 オルビアが不服そうに顔をしかめる。


「あの、私ですか?」


「セインちゃん、服を脱げ」


 ルヴェルドの顔が、下心一杯に笑う。


「いや、何で脱ぐ必要あるんです? 普通に歩いてるんじゃダメなんですか? 別に反対ってわけじゃないんですけど」


 反対しろ、僕! 師匠のピンチじゃないか!


「へ、考えてみろアルちゃん。目の前に裸のおねーちゃんがいたら、どうする? 俺なら迷わず突撃するね」


「いや、ガルダはあなたじゃないでしょ」


「なるほど、一理あるな」


 オルビアが妙に納得した顔で頷く。


「筋肉を見たら食いつかずにはいられないだろう。悲しいかな、それが本能というものだ」


「いやいや、ガルダはあなたじゃないでしょ」


「決まりだな」


「え、そんなの師匠が承諾するわけ――」


 ふと見れば師匠が上着のボタンを3つほど外し終わったところだった。


「ダメですってば、師匠!」


「だって、暑いんだもん。ちょうどいいかなーって」


「嫁入り前の若い娘が人前で素肌さらしちゃいけませんってば!」


「チ」


 ルヴェルドが背後で舌打ちしたのが聞こえた。


「なら、自分の筋肉の見せ所か」


 今度はオルビアが胸当てを外し、臨戦態勢になりつつあったのを僕は止める。


「チ」


 ルヴェルドが背後で舌打ちしたのが聞こえた。いいオトコはくだらない所にやたら知恵が回るらしい。


 ジト目でルヴェルドを睨むと、ふいに辺りが暗くなった。そして、頭上から何かが落ちる音が僕の耳に届く。


「師匠、オルビアさん、離れて!」


 一瞬の事だ。僕のセリフが終わるか終わらないかの間にルヴェルドは、白い物の下敷きになった。2メートルほどの体長に4枚の翼。こいつが……空の悪魔、ガルダ。


「ルヴェルドさん!」


「なかなか……グルメじゃないの、ガルダちゃんってば。若い女よりいいオトコをご所望みたいだぜ?」


 仰向けに倒れたルヴェルドに、鋭いくちばしが突き付けられ、ルヴェルドは右手……義手でそれを食い止める。そして、ルーンを唱え左手を水平に伸ばすと、そこに風が収束し緑色のボウガンが精製された。


 風の武器化。ルヴェルドは左手のボウガンを零距離で腹に打ち込むと、ガルダは悲鳴を上げてのけ反った。


「俺を殺すにゃあ、愛がたりねーな。ガルダちゃんよ、お手本を見せてやるぜ、俺の愛がお前の心臓(ハート)を貫く……!」


「4対1か……囲むぞ、早々にケリをつけるんだ」


「いや」


「繁殖しちゃったみたいですね……」


 頭上からさらに3つの影。僕を一直線に狙ってきた。


 意識を集中する。草原を走る疾風をイメージして、風のルーンを唱える。靴底に風を収束。音を置き去りにして疾駆する。


 一匹目のくちばしが空を切った瞬間、彼の目に映ったのは首を落とされた自分の体。思考する間もなく、彼の命は絶える。高速で動く僕の動きを捉えることはかなわない。リトを助けたときに使ったこの技術も、今ではすっかりサマになるくらい使いこなせている。


 二匹目が爪で僕をえぐろうと低空で迫る。素早く、右横へ回避。木々の間を縫うように走り、風と一つになる。木の枝を伝い、そこから跳躍し、ガルダに肉薄する。思考する時間を与えない。


 火のルーンを唱え、顔面に火炎をバーナーの様に放射する。空中で焼け焦げ、先日師匠が調理した黒い化石。もといパンケーキのようになって地面へ落ちる。


「あと、二匹」

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