表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金のヴァンブレイス  作者: 岡村 としあき
第一部 第三章 『ヴィーグ動乱』
19/85

十九話 ムイチモン

 小奇麗なレストランよりも、大衆的な食堂の方がいい。なんてったって、安くて早いからだ。この前のグリセス討伐の報酬だけで、数日やりくりしなければならないのだから、慎重にもなる。


 昼をとうに過ぎたというのに、ヴィーグ中央広場に程近い、小さな食堂は未だ人で賑わっていた。木製のテーブルに4人で着き、豊富なメニューとにらめっこする。


「リト、リトは何にする?」


「んー」


 リトはメニューを見て、考え込む。そしておもむろに口を開いて、僕の度肝を抜いた。


「これ、全部っ!」


 成長期の女の子はこんなに食べるものだろうか? リトは食堂の全メニューを注文して、『デザート何にしようかなぁ』と、闇のルーンよりも恐ろしい呪文を詠唱した。


「リトちゃん、もっとたくさん食べていいのよ。いっぱい食べて大きくなってね」


 師匠が笑顔でそれを遮るでもなく、助長させる。そして、その隣の席には『幸運のかぼちゃ』という、なんとも胡散臭いアイテムが鎮座していた。


「……師匠、ちなみにそれ何なんですか?」


「よくぞ聞いてくれました! アルちゃんはお目が高いわね。これは幸運のかぼちゃと言って、持ってるだけで幸せが舞い込んでくるありがたいかぼちゃなの! これがあれば、きっと私達の周りの困った人達が幸せになるのよ。素晴らしいと思わない?」


「いくらしたんですか?」


 じーっと師匠の目を見つめる。師匠は笑顔のまま固まった。


「いくらしたんですか?」


 今度は目を細めて、凝視。顔から健康的ではない汗を垂れ流して、顔色もみるみる悪くなって行く。


「えへへ」


「その笑顔にはだまされません」


 師匠はうつむいて、その値段を口にする。僕は世界が終わるような眩暈(めまい)に襲われた。なにせ、報酬の半分がこれでぶっ飛んだわけだ。


「ああ……いつも通りだな……ちょっと目を離したスキに……」

 

 頭が痛くなってきた。


「でも、あの露店商さん、50%引きしてくれたのよ? いい買い物をしたと思わなくちゃ、ね!」


「師匠はだまされてるんですってば!」


 とたんにしゅんと落ち込む師匠。


「まあまあ、こんな美人のねーちゃんいじめたら、(ばち)が当たるぜ? アルちゃんよ」


「それじゃあ、ルヴェルドさん。このかぼちゃ、引き取ってくれませんか?」


 とたんにルヴェルドが顔を引きつらせ、あさっての方を向いて下手な口笛を吹いた。そして、目を合わせず小さな声で呟く。


「アルちゃん。世の中金が全てじゃない。俺たちには愛があるじゃないか。生活が貧しくても、心まで貧しくなっちまうなんて悲しくないか?」


「お腹が減れば、悲しいでしょ。愛で腹がふくれるなら、世界中を愛で満たしてくださいよ、もっと現実見てください」


 泣きたくなった。そして、ルヴェルドの顔を見てふと思い出す。


「そういえば……ガイザーと……知り合いだったんですか?」


「ん?」


「ほら、僕を止めたとき、ガイザーがルヴェルドさんの顔見て、なんだか驚いてましたけど」


「あまりにも不細工だから、驚いたんじゃないの? リトなら、生まれてきた事を後悔しちゃうかもっ」


 これは、もちろんリトの言葉(ナイフ)


 ルヴェルドの瞳がどんどん水分で満ちていく。


「まだそっちの、かぼちゃさんのほうがかっこいいよね! 世界が破滅してルヴェルドと二人きりになったとしも、リトはかぼちゃさんと結婚しちゃうかも」


 いいオトコ<かぼちゃ。その辛すぎる現実にルヴェルドは砕け散った。


「どうせ俺なんて、俺なんて……うううううう! なんだ、このかぼちゃ! こうしてやる!」


 かぼちゃを持ち上げて、叩き潰すところを師匠が慌てて阻止するが、また力加減を間違えて、ルヴェルドの頭にかぼちゃがめり込んでしまった。


「あら、ほら見て見てリトちゃん。ルヴェルドさん、かぼちゃの国の王子さまみたい」


「……」


 リトはフォークを持つ手の動きを止め、小さく呟く。


「アルお兄ちゃんより、かっこいいっ!」


 僕<かぼちゃの国の王子様。僕も少し泣きたくなった。


 そして、さらに追い打ちをかけるように手渡された食事代の領収書を見て、僕は気絶した。金額が幸運のかぼちゃと同額……つまり、たった一日で僕らは無一文になってしまったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ