十六話 ダイナナセキ
登場人物紹介
アルフレッド・エイドス
主人公。14歳。前世で家族を皆殺しにされ、転生する。
その凄惨な事件は、彼の魂を深く傷付け途方も無いルーンの才能を
得る事になった。しばらくは、転生先の新しい家族に愛され、幸せに過ごすが
『黄金のヴァンブレイス』に家族を皆殺しにされ、再び大切なモノを失う。
8年の歳月をセインと供に過ごし、剣術とルーンの技術を向上させ、ついには
その才能と、復讐心から地水火風以外の属性。闇のルーンを開発する。
生と死を司る禁断の力で、アルは復讐を成すことが出来るだろうか。
セイン・カウフ
23歳。王家を守る盾、カウフ家の令嬢であったが、当主である兄を
『黄金のヴァンブレイス』に殺され、王家から授けられた宝剣を盗まれたこと
で、カウフ家は取り潰しとなった。身一つになった彼女は単身、復讐をなそうとしていたが、幼いアルと出会うことになり、彼が家族を殺されて以降は時間を供に過ごしてきた。金銭感覚がマヒしており、けっこうな天然ちゃんである。
巨乳の姉さん(ルヴェルド談)
リト・アルバーブ
11歳。山賊に父親を殺され、アル達とヴィーグを目指すことになった。
大食らいで、毒舌家であり。ルヴェルドには容赦ない。
父親からクレスト製造技術を受け継いでおり、クレストメーカーとしての才能は
戦略兵器レベルの超1級品クレストを作り出してしまうほど。
金髪ツインテールのロリっ娘(ルヴェルド談)
二日間の旅もようやく終わりが見え始めた。小高い丘の上から目的地が小さく目に飛び込んできて、リトは歓声をあげる。
ヴィーグ。仮初の旅の仲間である僕らにとって、共通の目的地であり、ゴール地点。そこで僕らの旅は終わり、リトは伯父夫婦との生活に。ルヴェルドはそこで仕事を探すのだろう。
そして僕はまた続ける。復讐の旅を。
「なんとか無事にここまで来れてよかったなあ」
遠くにそびえるヴィーグの街をまるで手の平につかむように、右手でぐっと握り締めるルヴェルド。
「いいオトコのおかげですかね」
「お、解ってるじゃないの。アルちゃんは~」
「ムダに食費がかさんだし、でかい図体が邪魔でしょうがなかったけどね! 早くいなくなればいいのに」
リトが笑顔でいいオトコを言葉のナイフで刺した。食費に関しては、リトのほうが圧迫してくれてるんだけど、デカイ図体に関しては僕も同意見だ。
涙目になったルヴェルドが、師匠に『胸の中で泣かせてくれ』と懇願し、師匠はそれを哀れに思ったのか、そっと優しくルヴェルドを包み込んだ、が。
ボキバキという何かが折れたり、砕けた音がしてルヴェルドは師匠の腕の中で泡を吹いていた。あれが、天国と地獄を同時に味わうという事か。
動かなくなったルヴェルドを放置して僕らはヴィーグに向かった。
「おいおい、何か大切な物、忘れてんじゃねーか?」
いいオトコが息を切らして、ヴィーグの門前で追いついてくる。
「首、大丈夫ですか?」
「いいオトコは首が丈夫。下の首はもっと丈夫なのよ」
フフン。と鼻を鳴らし、下半身を少し前に出すルヴェルド。
「下の首ってなーに?」
リトが小首を傾げて尋ねてくる。
「ちょっと、ルヴェルドさん! 昨日言ったじゃないですか!」
「あーごめん、ごめん。変わりに俺が説明してやるから……リトたん、下の首っていうのはね、男のた――」
言い終わる前に、ルヴェルドの首に手刀を叩きこむ。『ま』というルヴェルドの声と、地面に崩れ落ちた時の音が同時に僕の耳に届く。
「リト、男の魂のことさ。ルヴェルドさんは心も体も頑丈だって事を言いたかったんだよ」
「そっかー、ルヴェルドってそれしか取柄なさそうだもんねっ!」
「そうそう、ルヴェルドさんはバカで頑丈だからねー」
視線を下に向けると、地面に崩れたルヴェルドの顔面あたりから、水溜りができた。泣いてるんだろうか?
「アルちゃん。兵士さん達が中に入ってもいいってー、ルヴェルドさん放っておいて中に入りましょー」
通行証を提示しに行った師匠が僕らを呼んだ。こういった、検問とか入退出のチェックはすべて師匠に行ってもらう。男の僕が行くより早く終わるからだ。ちょっと師匠がかがんだだけで、面倒な書類の記入も『自分達がやっておきます!』と言って、勤勉な兵士さんが自ら進んでやってくれるので助かる。
「行こうか、リト」
リトは大きく頷いて、いいオトコを踏みつけて師匠の元に走る。水溜りが少し大きくなった気がするが、僕はそれを気にせず大きな体を踏みつけて、二人の元へ向かった。
門をくぐり、ヴィーグの空気を肌に感じる。クレストの本場だけあって、クレスト屋が多く立ち並び、それ以外にも宿屋や食料品の店も活気に満ちていた。
しかし。
突然、その活気がかき消される。街の人々は急に道を開けて、整列し頭を下げだした。一体、何なんだろう?
「おいおい、もちっと頭下げとけって、睨まれるぞ」
背後に立ったルヴェルドが涙の痕を拭いて、僕の肩を叩く。
「何? 何か始まるの?」
「ルーンナイト様だよ。ほれ、向こう見てみ。馬に乗ってエラソーにしてるだろ?」
ルヴェルドの指先には、白馬に乗った王子……とは、程遠いタコみたいに禿た頭と、筋骨隆々としたゴリラみたいな男が馬にまたがって、こちらに向かってきていた。
「ルーンナイト第七席ガイザー・ドルベン。あいつに睨まれたら、ステキな思い出と一生消えない体の傷が、もれなく進呈されるぜ」
第七席。ルーンナイトは全員で7人いるから、あいつは最下位者ということか。
「お馬さんだー。かわいいー!」
リトが無邪気に白馬に乗った、たこ焼きに駆け出した。
「リト!」
たこ焼きは馬を急停止させ、不機嫌そのものの顔でリトを睨みつける。
「なんだ小娘。ワシの道を阻むのか? ワシの道は陛下に続いておる。その道を阻むとは……おい、オルビア」
「は」
たこ焼きの隣に控えていた女騎士が、前に出る。年は僕と同じくらいで、黒い長髪が左半分を覆う形で伸びており、凛とした美しさがあった。
「槍をよこせ。ワシを邪魔する事は、陛下への反逆と同義。この場で殺してくれるわ」
「は? しかし、彼女はまだ年端もいかない少女。そのような事は……」
「だまれえぃ!」
たこ焼き――ガイザーはオルビアと呼ばれた少女騎士から強引に槍を奪い、オルビアの腹を左足で蹴り飛ばす。
「あの『ルーインズの赤毛猿』のように、ワシに刃向かう愚か者は、すべて処分してくれるわ!」
こいつ、本気か?
ガイザーは馬を降り、リトの前まで来ると槍を振り下ろそうとした。