十五話 アイジョウノウラガエシ
しばらくして歩き回って、すぐに見つかった。ルヴェルドは川辺で無表情のまま月を見上げ、どこからか取ってきたのか木の実にかじりついていた。
「ルヴェルドさん」
「おう、アルちゃん。どした、俺の胸が恋しくなったの? 俺の胸はいつでも空いてるから、飛び込んできていいんだぜ?」
やっぱりこの人はそっちの気があるんじゃないだろうか? 僕は無言でルヴェルドの隣に立ち、同じ様に月を見上げる。
「リトたん、すげーよなあ。大したルーンの才能だわ、ありゃ。今の内にもっと仲良くなって、唾付けとなくちゃな~、ガハハ!」
「絶対無理だと思いますけど」
「……なんか俺の扱いひどくない?」
「普通ですよ、たぶん」
「あらそう」
「そういえば、戦いの最中。愛がどうのって言ってますけど、それも含めてあんまりヘンな事を、リトの前で言わないでもらえますか?」
「ああ、そりゃそうだわな。気ぃつけるわ」
「でも、何で愛がどうこうとか言うんです?」
「愛情の裏返しって何だ?」
「……憎しみ、ですか?」
「そう、それよ」
月を見上げるのをやめ、視線を下に落とし、ルヴェルドは暗くなった川面をみつめていた。
「まだ俺がガキのころ、頭ん中にゃそれしかなかったのよ。ちっとワケアリでな、どうしても許せない奴が一人いたんだわ。そいつはルーンも効かないバケモノみたいな奴でよ、赤いローブに身を包んだ、金に輝く左手の殺し屋」
「黄金のヴァンブレイス……」
「そうそうそれそれ。その黄金のなんたらには、一言では言い表せ無い位の借りがあるのよ。んで、ついにある時俺は、数人の仲間とあいつを追い詰めることに成功した。俺は気が狂うほど笑ったさ。そして、数人で殺しにかかった。結果――」
ルヴェルドはズボンの裾を上げ、右足をさらけだすと上着を脱ぎ、右腕を見せた。
「この有様」
義手と義足。それらは夜の闇で冷たく輝き、金属製であることがわかる。
「その、仲間の人たちは?」
「死んだ、俺が先走りすぎたせいで、全員、な」
ルヴェルドは裾を戻し、上着を羽織るとまた続ける。
「憎しみっていう感情が俺の理性を狂わせた。だから、俺は逆に考えることにしたのよ。愛情の裏返しが憎しみなら、憎しみの裏返しは愛情だろ? 俺は愛することにしたのさ、全ての敵を。自分の中の激情を抑えるために。これ以上何も失わないために」
そして背を向け、歩き出し別れ際にこう言った。
「アルちゃんよ。お前の目はガキの頃の俺と同じだ。お前さんの過去に首を突っ込む気は無いが、覚えとけよ。お前もいつか俺と同じ道をたどる。何も失いたくなかったら、何も持つな。それでもお前が仲間を持つことと復讐の両方を願うなら、負の感情だけで戦うな、もっと周りを頼れ。以上、いいオトコのアドバイス。先に戻ってるわ」
川辺に一人取り残され、僕を静寂が包む。リトも、ルヴェルドも、それぞれ心に色々な物を抱えている。師匠も、僕だってそうだ。人間って奴は単純じゃない。改めてそう思う。
ルヴェルドも黄金のヴァンブレイスを追っていた。だが、負の感情だけで戦うなと言う。けど。
「僕は違う。僕には闇のルーンがある。この力なら、絶対に黄金のヴァンブレイスを殺せる。だから、僕は違うんだ」
負の感情は力だ。絶対に何も失うことなく、復讐を遂げてみせる。僕は心にそう決めると、皆のいる場所へと歩いて行った……仲間の元へと。