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黄金のヴァンブレイス  作者: 岡村 としあき
第一部 第二章 『14歳』
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十五話 アイジョウノウラガエシ

 しばらくして歩き回って、すぐに見つかった。ルヴェルドは川辺で無表情のまま月を見上げ、どこからか取ってきたのか木の実にかじりついていた。


「ルヴェルドさん」


「おう、アルちゃん。どした、俺の胸が恋しくなったの? 俺の胸はいつでも空いてるから、飛び込んできていいんだぜ?」


 やっぱりこの人はそっちの気があるんじゃないだろうか? 僕は無言でルヴェルドの隣に立ち、同じ様に月を見上げる。


「リトたん、すげーよなあ。大したルーンの才能だわ、ありゃ。今の内にもっと仲良くなって、唾付けとなくちゃな~、ガハハ!」


「絶対無理だと思いますけど」


「……なんか俺の扱いひどくない?」


「普通ですよ、たぶん」


「あらそう」


「そういえば、戦いの最中。愛がどうのって言ってますけど、それも含めてあんまりヘンな事を、リトの前で言わないでもらえますか?」


「ああ、そりゃそうだわな。気ぃつけるわ」


「でも、何で愛がどうこうとか言うんです?」


「愛情の裏返しって何だ?」


「……憎しみ、ですか?」


「そう、それよ」


 月を見上げるのをやめ、視線を下に落とし、ルヴェルドは暗くなった川面をみつめていた。


「まだ俺がガキのころ、頭ん中にゃそれしかなかったのよ。ちっとワケアリでな、どうしても許せない奴が一人いたんだわ。そいつはルーンも効かないバケモノみたいな奴でよ、赤いローブに身を包んだ、金に輝く左手の殺し屋」


「黄金のヴァンブレイス……」


「そうそうそれそれ。その黄金のなんたらには、一言では言い表せ無い位の借りがあるのよ。んで、ついにある時俺は、数人の仲間とあいつを追い詰めることに成功した。俺は気が狂うほど笑ったさ。そして、数人で殺しにかかった。結果――」


 ルヴェルドはズボンの裾を上げ、右足をさらけだすと上着を脱ぎ、右腕を見せた。


「この有様」


 義手と義足。それらは夜の闇で冷たく輝き、金属製であることがわかる。


「その、仲間の人たちは?」


「死んだ、俺が先走りすぎたせいで、全員、な」


 ルヴェルドは裾を戻し、上着を羽織るとまた続ける。


「憎しみっていう感情が俺の理性を狂わせた。だから、俺は逆に考えることにしたのよ。愛情の裏返しが憎しみなら、憎しみの裏返しは愛情だろ? 俺は愛することにしたのさ、全ての敵を。自分の中の激情(バカ)を抑えるために。これ以上何も失わないために」


 そして背を向け、歩き出し別れ際にこう言った。


「アルちゃんよ。お前の目はガキの頃の俺と同じだ。お前さんの過去に首を突っ込む気は無いが、覚えとけよ。お前もいつか俺と同じ道をたどる。何も失いたくなかったら、何も持つな。それでもお前が仲間を持つことと復讐の両方を願うなら、負の感情だけで戦うな、もっと周りを頼れ。以上、いいオトコのアドバイス。先に戻ってるわ」


 川辺に一人取り残され、僕を静寂が包む。リトも、ルヴェルドも、それぞれ心に色々な物を抱えている。師匠も、僕だってそうだ。人間って奴は単純じゃない。改めてそう思う。


 ルヴェルドも黄金のヴァンブレイスを追っていた。だが、負の感情だけで戦うなと言う。けど。


「僕は違う。僕には闇のルーンがある。この力なら、絶対に黄金のヴァンブレイスを殺せる。だから、僕は違うんだ」


 負の感情は力だ。絶対に何も失うことなく、復讐を遂げてみせる。僕は心にそう決めると、皆のいる場所へと歩いて行った……仲間の元へと。

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