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黄金のヴァンブレイス  作者: 岡村 としあき
第一部 第二章 『14歳』
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十三話 ドウギョウシャ

 翌朝。朝食の準備に取り掛かるため、リトに枯れ枝を集めるよう頼んでから師匠を起こす。ニ、三度顔をぺちぺち叩いてその上に、コップ一杯の水をスヤスヤと寝息を立てるその艶やかな唇の上に投下。……こうまでしても、起きない。


「アル兄ちゃん。これ、食べれるかなー?」


 背後からリトの元気な声が響いて僕は振り返る。


「今度はなんだい? 野ウサギでも捕まえたの?」


 そう言ってからリトの手元に目を向けると、視線が釘付けになる。クマ……かと思ったが、それはクマの様な大男だった。


「食べれない……と思うよ。失礼だけど、まずそうだし……」


 男は気を失っているのか、リトに襟首をつかまれたまま、だらんとしている。旅人風の格好をしているが、全身スリ傷だらけで泥まみれ。おそらく、リトに引きずられてこうなったのだろうけど。


 男を拾ってきた事にも驚いたが、クマのような大男を片手で引きずってきたリトにも驚いた。あの食欲の源はこのパワーか。


「ん……うぅ……」


 男はうめき声をあげる。


「食い物を……たのむ」


 袋からパンを取り出し、男に手渡すとパンはみるみると男の口に吸い寄せられ、消える。


「あー……。いや、死ぬかと思ったよ。やっぱ、いいオトコは早死にするのかねえ」


「はあ」


 男は満足そうに空を見上げ一息つくと、自己紹介を始めた。


「俺はルヴェルド。ヴィーグへ旅の途中、路銀が底を付いちまって、飲まず食わずを気合で抑えてたんだが……この有様だ」


 ルヴェルドは、あぐらをかき腕を組んでニヤッと笑う。年の頃は20代後半といったところで、無精ひげと眠たそうな目でこちらを見ている。……あまりいいオトコでは無い気がするが。


「僕はアルフレッドです。この子はリト。あっちで寝てるのが僕の師匠……セインです」


「そっか、アルフレッドくんよ。助かった助かった。おたく、将来俺に似ていいオトコになるぜ、絶対!」


 こいつに似たら僕の将来はお先真っ暗だ。清々しい朝が一瞬でおじゃんになる。


 ルヴェルドに暑苦しいほど接近されて、がっしりと握手。手を握ってすぐに気付く。――同業者だ。


 おそらく、傭兵やら用心棒の類だろう。武器らしきものは何も持っていない所を見ると、素手で戦うタイプなのかもしれない。


「にしても、いい趣味してるねえ、おたく。巨乳の姉さんに、ツインテールの金髪ロリっ娘ねー。守備範囲の広いこと広いこと」


 ニヒっといやらしい笑いを浮かべたルヴェルド。


「まあ、俺ぐらいいいオトコになりゃ、女も選び放題、向こうからよってくるってもんよ、ガハハ! さあ、おいでお嬢ちゃん。俺の膝の上で旅の話でも聞かせてあげよう」


「いやだ、気持ち悪い」


 リトは即答する。


「ふ、お嬢ちゃんにはまだ早すぎたかな。あと10年もすりゃ、この魅力がわかるってもんさ」


 ルヴェルドは両手を挙げ、肩を大げさに空かせた。


「ふぁー……あら? アルちゃん、おはよぅ……。今日はなんだか、クマさんみたいにカワイイのね」


 寝ぼけた師匠が、後ろからルヴェルドにむぎゅっと抱きついた。


「師匠、それは僕じゃありませんってば。川で顔洗ってきてください、あと、軽くショックです……」


 川を指差し、洗顔を促す。眠気まなこをこすりながら、寝癖のついた髪をゆらし、師匠はこの場を去っていった。


「な、大人の女にゃ、いいオトコが解るんだよ」


 鼻の下を伸ばしたいいオトコは左目を閉じ、右目を開けて僕にウィンクした。


 ルヴェルドと僕らは目指す場所が同じであることから、一緒に旅をする事にした。どうしても、とルヴェルドがすがり付いて泣きじゃくるので、仕方なく、だ。


 師匠とリトが手をつなぎ、前を歩いているのを眺めながら、ルヴェルドは口を開く。


「しっかし。かわいいなーリトたんは。ありゃ将来、美人ちゃんになるなー。まああのままでも俺のストライクゾーンなんだけどさ」


「ロリコン……ですか」


 今度からリトをこの男に近づけさせないようにしよう。


「いいオトコの前に、年の差、身分の差は関係ないのさ。もちろん、性別もな」


 僕に振り向き、片手で頬を触られる。途端、全身に寒気が走った。


「うそよ、うそ! いいオトコは男に興味ないの。冗談よ」


「本当でしょうね?」


「本当だとも。いいオトコは嘘付かない、それと――」


 急に走り出すルヴェルド。そして、リトに後ろから抱きつき、押し倒した。


「な、何してんですか!」


 言葉と同時、リトがさっきまでいた位置を異形の鋭い牙が横切った。


 そして、すぐさま四足獣タイプの異形が、数匹木々の影から姿を現す。あれは『バウ』と呼ばれるタイプで、5歳の時に僕とロッテが襲われた奴だ。


「おい、アルちゃんよ。飯のお礼だ。ここは俺に任せて、お嬢さん方と一緒に下がってろ」


 ルヴェルドはルーンを唱え、地面に腕をめり込ませる。そして、一気にその腕を引き抜いた先には、石でできた巨大なハルバードがあった。


 ルーンにはあんな使い方もあるのか。


 バウの群れは引き寄せられるようにルヴェルドの周りを取り囲む。


「お前ら、夜の俺が相手じゃなくって良かったなあ。けど、昼間の俺もそこそこ激しいぜ? 全身全霊で愛してやるよ」

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